雪のように淡い

「吉継さん、今日は何の日でしょうか。」

「ああ、クリスマスだろう。これだけテレビが騒がしければさすがの俺も理解出来る。」

テレビの特集はクリスマスの話題で持ちっきりだ。彩り豊かなクリスマスケーキや夜に備えたイルミネーション、街を歩く仲睦まじいカップル、どれもが心を踊らせる話ばかりである。
とはいえ外は雪が降っていて凍えるような寒さ、低体温な吉継も今日ばかりは家に篭りたいであろう。
しかしそんな予想も打ち砕く台詞を彼は放った。

「ななし。」

「はい、何でしょうか。」

「デートしよう。」

「…………はい?」

彼の隠れた口から出たのはデートという三文字、まさかそんなと思わず耳を疑った。

「吉継さん、私の耳がおかしくなければ今デートって言いましたよね。」

「ああ、街中で手を繋いで歩くのだろう?」

「でも、寒がりじゃないですか。」

「こういう日くらいはお前と歩きたい………駄目か?」

駄目か、なんて無意識に首を傾げて言うものだからななしは嫌でも胸が高鳴ってしまう。

「それ、態とですか……!!」

「………?いや、俺は本気だが。」

「そんなの嬉しいに決まってるじゃないですか……行きましょう、早速行きましょう!」

彼の冷たい手を取っては手袋をはめて長く白いマフラーを巻く。一瞬だけ覗かせた唇は細く綺麗で、思わず雪月花が似合いそうだなんて考えてしまった。

「どうした、ななし、行かないのか。」

「ん、いえいえ、何でも無いですよ。」

行きましょう、と喜んで玄関を出れば、それはもう外と中の温度に差がありすぎて身体が堪らず身震いしてしまう。手を擦るそんなななしを見て、吉継は彼女の手を取り強く握り締めた。

「わっ。」

「気休めにしかならないが……どうだろうか。」

手袋越しに伝わる温もりが心地よい、ななしは嬉しさのあまり笑みをこぼした。

「すごく暖かいです、じゃあ街に向かいましょうか。」

手を繋いだまま二人は賑やかな街路樹を歩いていく。自分達以外にも楽しそうに歩く家族やカップル、皆それぞれ幸せそうだ。ななしも去年まで友人とばかり遊んで過ごしていた為、恋人と寄り添うなど一度もなかった。だからこそ羨ましかった願いが叶って嬉しい事この上ない。

隣を見れば身長が高い彼の姿、マフラーから僅かに出た流れる髪も絹のように滑らかで、見惚れない事など一度もないくらいに美しい。男でこれ程の美形とは恐るべし、勿論良い意味で。

「…………俺の顔に何かついてるのか。」

「え、その………カッコ、いいなって。」

「…………ふ、お世辞はよせ。」

「お世辞なんかじゃないですって!本当に羨ましいほど……ううん、私には勿体無い位に素敵な人だなって。」

そう言えば吉継は目をぱちくりさせ、ななしの顔をじっと見つめた。何も言わずにまじまじと見つめるものだから、穴が開くんじゃないかと堪らず頬を染めて目を伏せる。

「そんなに見ないでくださいよ…。」

「いや、ななしの方がずっと綺麗だと思うが。」

「それは、ないです……!」

「いや、俺の側にいるのがななしで本当に良かったと思えるからこそ、本気で言える。」

絡める手に力が加われば離さまいとしっかり握られる。心なしか先よりも熱量が増している気がしてならない、恐らく自分の体温が著しく上昇しているのだろう。こればかりは誤魔化しようのない事実。

「吉継さん………。」

「…………そうだななし、何処か行きたい所はないか。今日は……何でも願いを叶えたい。」

「えっ………そんな、願い事ならもう叶っていますって。」

「俺とこうして共に過ごしたい……その事か?」

「は…………はい、そう………ですけど。」

「それだけはどんな事があっても毎日叶えると誓おう……だが、それ以外で何かあれば。」

これだけでも嬉しくて心臓が張り裂けてしまいそうなのに、願い事が次々と浮かんできてしまう。我儘だけど、本当に幸せだ。

「……………ゴンドラ。」

「ゴンドラ?それに乗りたいのか。」

ゴンドラで夜景を二人きりで見たい、それもいつしか言っていた願い事。もし叶うのであれば、彼と寄り添いたい。

「ふ、いいだろう……必ず乗ろう。」

穏やかに細める目、今から夜が待ちきれなかった。









「良かった、空いてるみたい。」

漸く待ちに待った夜になり、約束通りゴンドラに向かえば人は少なく無事乗る事が出来た。扉が閉まると周りの賑やかな声もしんと静まって二人だけの空間が作られる。

「わぁ、綺麗な景色!」

眼下に見下ろす街は昼には見られない幻想的な景色、光の粒があちこちに散らばってまるで夜空に浮かぶ星々のようだ。

「吉継さん、こっちも!」

「ああ、これは見事だな。」

彼も嬉しそうに街を見渡し一望する。すると不意に手に温もりを感じて、思わずそちらに目を向ければ重ねられる吉継の大きな手。

「吉継さん…?」

「俺は幸せ者だな、こうして愛しい人と共に過ごせるのだから。」

「…………はい、来年も是非一緒に来ましょうね。………大好きです、吉継さん。」

そう言って微笑めばゆっくり近付く顔、それが何を意味するかななしはすぐに理解した。瞼を閉ざして暗い世界に入り込めば二つ目の温もりを得て、普段見せることのない唇が重ねられては互いの熱を共有し合う。そんな触れるだけのキス、それでも幸せで涙が出てしまいそうだった。

「こういう流れも悪くないな。」

「え…………、……っん。」

首筋に指を滑らせては唇を押し付けてリップ音を立てる。チクリと痛みがしたと思えばそこに咲くは赤い花弁。自分では見る事が出来ないが、そこから広がる熱がはっきりと証明した。堪らず顔を真っ赤にして押し黙ると吉継が笑みを綻ばせてマフラーを巻き直す。

「証をつけるのも悪くないだろう。……まぁ、これは願い事の範囲外だが。」

「範囲外の様な……範囲内の様な……何だか恥ずかしくて。と言いますより、これって吉継さんの願い事じゃないんですか!」

「かもしれんな。」

さらりと白状する吉継に最早反論の言葉すら見つからなかった。そう思っているといつの間にかゴンドラは到着する寸前で、大きな音を立てて動きを停止させる。後半の出来事の所為か、時間の流れがやけに早く感じられた。

「あ………雪だ。」

「乗っている時に振らなかったのは残念だった。」

「そうですね、でも、今日中に降って良かった。」

身に感じる僅かな冷たさは不思議と嬉しく、何時までも広い空を見上げていたい気分だった。

「願い、全部叶えてくれてありがとう。」

「それは俺に言っているのか?」

「勿論!貴方以外に誰がいるんですか……。」

「雪を降らせるのは流石に俺では出来んのでな。」

「確かにそうですけど、それでも吉継さんが全部叶えてくれてくれたんです。抱えきれない程の幸せを頂きました。」

「そうか、ななしが幸せなら俺も幸せだ。」


互いに顔を合わせては再び手を繋ぎ、そのまま抱きあう様に寄り添って舞い落ちる雪を眺めていた。




(このままずっと貴方を見る事が出来たなら)