唇から伝染する

「貴女が風邪ひくなんて珍しい。」

「それは……私だって人間ですから、風邪くらいひきますよ。」

思っていたよりも身体は重く、ベッドから降りることすら辛い症状である。スーツ姿を見ては会社からの帰りである事を知り、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまった。

「何ですかその顔は。ああ、申し訳ないと思っているんでしたら早く回復してくださいよ。勿論それだけ恩は返していただきますから。」

「うう……病人に酷い仕打ちですね。」

「それだけ早く治せ、という事だ。」

ぽん、と頭に手を置かれくしゃりと大雑把に撫でられる。それでも嬉しくてつい笑みをこぼした。

「大学もそろそろ試験だろ、落ちたらどうなるか……。」

「けほっ、分かってますよ……!あの、もっと優しい言葉かけてくれませんか……これ以上何か言われたら寝込みそうです………。」

「これでも貴女の事を心配しているつもりですよ?」

「おかしいですね……今にも心が折れそうなんですが。」

それより、とギシリとベッドの端に腰を掛ける法正、一気に距離が近くなり気持ちが高まってしまう。

「熱はあるんですか。」

「さっき測ったら7度5分でした……そこそこでした………よ?」

彼は何も言わずにななしの額に手を当てて体温を確かめる。いきなりの事に熱が一気にそこに集中してしまい、全体が火照ってしまった。

「ほ、ほう……せ、さん……!」

「本当に7度ですか?8度くらいありそうな熱さですけどね。」

口元が僅かに吊り上がるのをななしは見逃さなかった。楽しんでる、彼はこの弱った私をからかって楽しんでいる。

「分かってるくせに……。」

「ああ、失礼。そう言えば病人でした。」

「もういいですよ……帰りたいのでしたらどうぞ。」

「あのですね、帰るくらいなら寄りませんよ。本当に心配だから来た、それだけです。」

いつになく真面目な顔で言うものだから、弱った人間はこういう優しさに惚れてしまうのだ。それとは関係なく彼氏で良かった、なんて絶対に口に出して言えないが。

「治ったら、腐る程恩返ししますから。」

「それは楽しみだ。」

ベッドに掛かる負荷がなくなったと思いきや、法正はななしに急接近して

「…………ん!?」

「…………俺に感染せば、少しは楽になるかもしれませんよ?」

唇を奪っては悪戯に笑った。



翌日、法正の言う通り身体が嘘の様に楽になったが、彼の顔色が優れなくなったのにはななしも苦笑いするしかなかった。



(本当に感染るとはな……報いよう)

(それは私の所為ではないです!)