「うん、困った……。」
友人に明日合コンへ行こうと誘われた。勿論数合わせ引き立て役の存在として行くわけなのだが、生憎こちらは既に恋人がいてその男は誰よりも束縛が強い。その事を言っただけで彼が相手に何を仕出かすか分からないのだ。自分に災厄が降りかからない分、周りは地獄と化すのがいつもの事で。
「でも、断ったらうるさいだろうなぁ……。」
どうやらななしは過去の合コンから上手い引き立て役として抜擢されたらしく、今回断ればひたすらブーイングが飛び交うのが目に見えている。
どうやってやんわり断るべきか、グリグリこめかみ辺りを押して悩んでいると
「どうしました。」
パソコンでの仕事を終えて部屋から出てきたのは噂の根源である法正。その顔付きは疲弊しきっていて、首を軽く回しては欠伸を噛み殺した。ななしは咄嗟に携帯の電源を落として立ち上がり彼の元に駆け寄っていく。
「お疲れ様、コーヒー淹れましょうか?」
「ええ、お願いします。……と言うより、今何を悩んでいた?」
「え、いえ……今日の夕飯何にしようか考えてて……そうだ、孝直さんの好きな和食にしましょうか!」
それがいい、と手を合わせてにっこり微笑むと、法正は眉を下げて半ば呆れ混じりの感慨を示した。
「やれやれ、そんな事を悩んでいたのか。」
「そうですよ、毎日食事を考えるのも大変なんですから。」
「ですが……もう一つ、あるんじゃありません?」
ピタリ、と足を止めて恐る恐る表情を伺えば一見穏やかそうに見えて、それはもう獲物を狙うが如く鋭い目を向けていた。これは流石に逃げ切るのは不可能であろう、誤魔化しても無駄だと悟ったななしは仕方なく本当の事を話す事にした。
「えっとですね、実は友人から合コンのお誘いが来てまして……どうやって断ればいいか悩んでいるんです。」
「男がいるからとキッパリ断ればいいじゃないですか。」
「いえ、私の場合はいても数合わせの引き立て役として参加しろと言われ…。」
トン、と机に置かれる手、そちらに視線を向けると次の瞬間には目の前に彼の真剣な顔が。
「貴女の電話、貸してくれますか?」
「え………一体何を……?」
「勿論電話するんですよ、貴女の友人に。これ以上ななしを勝手な件に巻き込むのであれば俺が容赦しません、と。」
するりとポケットに手を忍ばせると携帯を取り出して電話を掛けようとする法正。ななしは慌ててそれを制止する。
「ま、待ってください…!私がきちんとお断りしますので!」
「ななしは優しすぎるんです。…だからこそ俺が言い聞かせないと相手はいつまでも利用しに追って来るぞ。」
その手と目は何処か苛立ちを見せていて、ななしはどうしていいか分からず戸惑いの目を向けるしかなかった。
「………………。」
すると携帯からピッと言う音が鳴ってすぐに手渡される。ディスプレイを覗いてみるとそこにはアドレスを削除しましたの一件。
「友人は選ぶべきだ、こうしてお前を変な方向に貶めかねないからな。」
恋人がいると分かっていながら合コンに誘うのは、徐々に恋人との仲を拗らせて結果別れさせるという魂胆だとか。心配し過ぎだと思ったが、何だかんだ守ってくれたのは嬉しい。ななしは口元を緩ませると彼の胸板にそっと頭を預けた。
「男共がななしにへらへら話し掛けるのも苛立つ。…貴女は俺だけの恋人なんですよ、俺だけが好きに触れていい……。」
髪を掬って項辺りに手を置くと、抱くようにして頭に口付けを落とす。かかる吐息が擽ったく身を捩らせていると、腰の部分にも手が当てられて完全に彼の腕に閉じ込められる。上を見上げれば憂いを帯びた表情で見つめられ、胸がいっぱいになっては愛しい感情が込み上げてくる。
「はい……私は、いつでも孝直さんだけに触れられたい、です。」
そんな顔に対して満面の笑みを返すと、彼の顔が近付いてゆっくりと互いの唇が触れる。温かく柔らかい唇を何度も重ねてリップ音を立てると安心したのか、法正の目つきは先程より穏やかなものになっていた。
「すみませんね……何分独占欲が強いもので。」
「謝る事ないです…!私がハッキリと断る事が出来ない優柔不断な性格ですから。」
「確かにそうですね、ですがそれも一長一短というもの。先も言った通りななしは誰にでも優しい…人の為に懸命に悩み尽くすタイプだからこそ、俺は救われたり戸惑ったりする。」
そう言うと法正は垂らした前髪を掻き上げて隠れていた右目を覗かせる。その目は彼の生き様を示していた。
「それに比べて俺は悪党、人の為に尽くすのも全て見返りを求めての事だ。恩がなければそれだけの器と知って簡単に切り捨てる……人は面白いですね、こんなにも考えてる事が違うんですから。」
くつりと喉を鳴らしてはななしの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫で回した。
「孝直さん………っ?」
「ああ、貴女にそんな見返りは求めていません。こうして傍にいるだけで十分色々な物を頂いていますので。」
これからもたっぷり愛を貰いますが、法正は二度と手放さまいと言わんばかりに首筋に唇を押し付けては吸って、大胆に鮮やかな紅い花を咲かせた。
(その優しさは俺だけに向けて下さい、他の奴等にその感情を向けないで欲しい)
(そうでないと、貴女に関わる全ての物に報いたくなりますから)