そういう服、控えて欲しいですね

「法正…さん、あの………。」

「どうしました、浮かない顔して。」

浮かない顔というのは間違いだ、むしろ訝しいと言った方が正しい。何故こんなにも言葉をくぐもらせるのか、答えは至って単純である。

「………今正に出掛けようとしている私が勢い良く押し倒されているのか、不思議で仕方ないのです……。」

「愚問ですね、答えは嫌だからに決まっているだろ。」

法正は不服そうに眉を顰めているが、一体何が嫌なのかが分からない。折角整えた髪も無造作に散らばり、服も少しばかり乱れて開けてしまっている。ここまで来てしまうと出掛けるのも億劫になるというもの、口に出さずとも心の何処かで柄にもなく思ってしまった。

「何が嫌なんですか…?」

「…………………。」

「……法正さん、言ってくれなければ分かりません…。」

「…………………。」

完全に黙秘を貫く法正、しかしその表情はななしから質問攻めされているにも拘らず何処か攻めの姿勢を崩さない。

「……一緒に行きますか?」

「いえ、家から出る気分ではありませんので。」

「でも、私だけが出て行くと駄目なんですよね。でしたら一緒に出ればその問題は解消される筈じゃ……。」

違うな、と彼は頑なに首を縦に振らない。そうして暫く押し倒されている状態が続き、瞬きも忘れてしまうのではないかと言う位に真っ直ぐと見つめられた。その眼光は鋭利で、一瞬でも逸らせば一気に襲われてしまいそうだ。

不意にその視線がななしの唇へ向けられる。外しても大丈夫なのか、そう思ってこちらもつい油断して視線を外してしまう。が、それがいけなかった。

「……………ん………!?」

突如として覆い被さる唇。ななしはすぐに視線を戻すが、噛み付くような激しいキスにぐらりと視界が揺らいでしまう。法正はふっくらとした唇を甘く噛んでは舌を捻入れて、逃さまいと顔を両手で固定すると腰の部分に身体を跨いでどっしりと構える。

「…っ、ふ………ぁ………まっ………。」

「待てない、お前がそんな格好で他の奴に会う事を許すものか。」

腰が砕けてしまうのではと言わんばかりに濃厚なキスの連続、息をする時間すら与えてくれない。

「ほら、少し動かすだけでこんなにも露出していますよ。」

指で胸辺りの衣服を軽くずらすと、あっという間に白い下着が現れる。そこには彼に愛された証である紅い花が薄く咲いていた。

「…………まぁ、これを男に見せるにはうってつけなんだろうが……それはそれで気に食わん。」

上書きする様に唇を押し当てては吸い上げ、ピリッと痛みを生じさせる。ななしは堪らず小さく喘ぐと、嬉しそうに法正はくつりと喉を鳴らした。

「もし出掛けるというのであれば、首にも印をたっぷり付けてあげましょう。」

指で首筋をなぞりあげれば反応して身体を震わせる。

出掛けると言っても、彼が言うように男と会う訳でもなければ友人と遊びに行く訳でもない。ただ単に買い物に行くだけだというのに、これ程にまで彼を突き動かすきっかけは一体何なのだろうか。

休日以外は普通に会社通勤する法正、平日のななしの行動を常に監視している訳でも行動範囲を縛る訳でもない。至ってななしは普通の日常を普通に送っている。しかし休日になり、出掛けようとすると時々こういう出来事があったりする。

そう、これが一度目ではないのだ。ただ理由はいつも言わないしこちらから無理矢理聞く事もない。分かるのは彼の表情が浮かない事、何処か寂しそうに憂う目をしている事。そんな顔をされてはななしも辛くなってしまって結局は家にいる事になる。

だから今日こそは聞いてみよう、どうして出掛けようとするとそんなに悲しい顔をするのか。

「……法正さん、どうして平日は普通なのに、休日は途端に渋るんですか。」

「………言ったら貴女は必ず呆れますよ。」

「呆れません、法正さんの辛そうな顔を見るとこっちまで辛くなってしまいます……だから教えて下さい、私を外に出したくない理由を。」

法正は態勢を変えないままじっと黙り込んだ。かかる吐息が何処か色っぽく、何やら違う気持ちが込み上げてきてしまう。そんな余計な事を考えていると、徐ろに閉ざしていた唇を開いた。

「……平日は仕方ない。仕事はしなければ生計は立てられないだろうし、ななしを困らせる。」

己を心底呆れる様に溜息を零した。

「つまり、寂しいんですよ。日頃社会で溜まっていく鬱憤と苛立ち…それを晴らしてくれるのは唯一貴女だけ。故に、休日位はななしを独り占めしたい気分になるんです。」

「……………。」

「勿論男と会う訳でない事くらいは理解している。だが、この目の届く範囲から消えてしまうと途端に不安に陥る……全く、厄介な物に取り憑かれたな。」

身体にかかる重みが途端に軽くなり、彼はゆっくりと上半身を起こした。

「ああ、当然貴女にも言い分があるでしょうに。これ以上は俺の身勝手な我儘………。」

気が付けば自分の手は法正の腕を掴んでいた。離さまいと、確かに言いたい事はあると。

「………やっと、分かりました。貴方の気持ちが。」

「ななし、」

法正を引き寄せるとそのまま包み込むように両腕で倒れてくる身体を受け止める。彼は目を見開いて呆然としていたが、ななしは全く動じる事もなく強く抱き締めた。

「法正さん……大好きです。……こんな私で気持ちが晴れるのであれば、このまま一緒にいてください。もう理由も聞きません、ずっと貴方の傍にいますから。」

「…………いいんですか、男の束縛程見苦しい物はないかと。」

「束縛だなんて、相手の気持ちを理解した上でなら私は責めません。ううん……むしろ、法正さんの独り占め……嬉しいかも。」

今までは全く感じた事なかったが、それが本音かもしれない。彼に必要とされるのであれば、どんな形でも受け入れると。
法正にとってもそれは複雑な気持ちであったが、何処か嬉しさも否定出来なかった。

「覚悟してくださいよ。夜のみならず昼からでも容赦なく貴女を愛してしまいますから。」

目を見ればもうそこに不安も孤独も無い。ななしは喜色に溢れる笑顔を浮かべると、法正もまた安堵の微笑をもらし、どちらからともなく優しく口付けをした。





(明日は、何処か行くか)

(………!嬉しいです!)

(そうか、ならいい。……が、服はもう少し控えめにして頂きたいですね)