そろそろ二人の鬼ごっこも終わり

「…………………。」

「…………………。」

彼女は度がつく程に大人しい。まともな教育はそれなりに受けてきたと話は聞いてはいたが、それにしても会話能力だけが異常に乏しい。この私、鍾会が話し掛けようと歩み寄ればそれだけで驚いて逃げてしまう挙句、暫く部屋から出てこないという面倒事にまで発展してしまう。

これでも一応恋仲、もとい婚姻関係だ。いつまでもこう距離感を保たれては困る。そうして今まさに私はその事を問い詰めている最中だ。

「なぁ、それどうにかしてくれないか。このままだとこっちまでおかしくなりそうだ。」

「………ごめん、なさい。」

「さっきからその言葉しか言っていないのだが?」

「………ごめん、なさい。」

「……………面倒くさい女だな。」

どうしてこんな奴に惚れたんだか。頭の中で探ってみるものの、理由をつけたらいけないような気がして、結局考える事をやめた。

どっちから告白をしたかって?この有り様なら当然私の方からに決まってるだろう。仕方ないね、いつまで経っても事の進まない曖昧な関係は好きになれないからな。勿論彼女だって私を好いていると言い放ったさ、聞こえないくらいの小さな声で。

「そんなに私の事が嫌いなのか。」

だからもう一度分かりきった事を聞くんだ。彼女は必ず違うと答えるだろうから。

「違います……!鍾会様の事は、お慕いしております。ですが……私、男の人との接し方が分からないと言いますか……その。」

「ああもう分かった、頼むから蚊のような声で話すのはよせ。」

そうぶっきらぼうに言い放てば、ななしは悲しい目色で押し黙ってしまう。少し加減を間違えるだけでこうだ、言葉選びも散々苦労する。特に一言余計なのが悪い癖だとか何とか、それ故心が弱い人間だと呆気無く折れる。

「いちいち真に受けるな、この位には慣れておけ。」

「そう努力はしてますが、やはり限度が……。」

「これで限度だと?どれだけ心が脆いんだ、まるで砂の城だな。」

ああ、と気付いた頃には時既に遅し。

「…………なぁ、この程度に堪えれないならいっそ婚姻を止めようか。そうすれば誰もお前の事は馬鹿にしないだろ。」

「そんな………。」

「それに私は選ばれし人間、引く手数多なのは知ってるよな。故に私は困らないさ、代わりは幾らでも……。」

ほらまた泣きそうな顔で私を見つめる。大きな瞳に沢山の涙を浮かべて、離れないで欲しい、側にいて欲しいと。

「………………分かりました、鍾会様がそう仰るのであれば………。」

「………ええい!その性分どうにかしろ!」

こちらばかりから攻めるのも飽き飽きだが、これ以上はもう限界だ。

「やっ、鍾会様……!?」

「阿呆め、いる訳ないだろ、この私から直々に告白したんだ。何がなんでもお前を妻として娶る、釣り合うのは他の女より幾分かましなななしだけだ。」

衣装を乱暴に剥ぎ取って寝台に押し倒す。勢い余って頭をぶつけはしたが、柔らかい生地が受け止めたから然程痛くはないだろう。

「覚悟しろ、今からお前を抱く。」

獲物を狙うように神経を研ぎ澄ませば鈴のような声で怯えるななし。ああ、喚くなら事を終えてからにしてくれ。こんな状態で止めるなど生殺し以外の何者でもない。

「準備……準備が、あっ!」

「煩い、黙って抱かれてろ。」

大いなる溜息の先には恥じらいに頬を染めるななし。なんだ、まともな顔が出来るじゃないか。

「不満と小言の先に、自分がどれだけ愛されているか……十分に刻みつけとけ。」

噛み付くように接吻を施せば、驚いた顔で固まるななし。抵抗という事も忘れただなすがままに貪られていれば、ようやく状況が飲み込めたのか、柔くだが抵抗を始めた。それでも所詮は適う敵ではない、振り上げる手首を呆気無く掴んで固定し、口内を掻き乱すように舌先を絡めた。

「んっ………ふ……!」



太ももを舌でなぞり、ゆっくりと中へ近付けば、距離を縮める毎に頭を掴む力がめいいっぱい加わっていく。やめろ、ただでさえ髪の癖毛で参ってるのにそれ以上面倒事を増やすな。

「あっ、あ………!」

「か細い声しか出せないかと思ったら案外良い声で喘ぐじゃないか。ほら、証拠にここの強度が増して大洪水だ。」

ぴんっ、と舌先で弾けば仰け反るように身体を浮かせる。途端に奥からとろとろと意思と反して溢れ出してくる液体。

「ふん、弄られて嬉しいのか。」

「ちが………っ……んんっ。」

「嘘だな、しっかり感じてる。」

口に含んで思い切り吸えば、彼女は悲鳴に近い声を上げて寝台を思い切り叩いた。壊れんばかりに腰を捻るものだから、お陰様でこっちの頭は捻られる程に痛い。

「…………まさか今ので逝ったわけではないだろうな?」

返事が無いという事はそれ以外はない。随分と呆気無く果ててしまったものだ、まだ前戯の中の前戯だと言うのに。

「…………。」

指の腹で剥きだした豆を押し潰し、逝ったばかりの身体に更に快感を与えてやる。すれば絶え絶えだった息もあっという間に吹き返して、ひゅっと喉笛を掻き切られたような漏れた音を出した。

「あっ、だ……め……!」

「駄目と言われるほど私は追い詰めたくなる性分でね。申し出を断る。」

執拗に攻め立てて、激しく弄って、彼女の反応を眼下に楽しむ。嫌だと首を振りながらも身体は正直に応えてくれるから、尚気持ちは高ぶるばかり。

「淫らだな、とても慣れていないとは思えない。」

これでも彼女は既に喪失している。告白したその日に抱いた以来か、やけに近いようで遠い話だった。

なら、一層慣れてもらわねば。

「んっ…………ぅ…………っ。」

ああ、そろそろ自分の抑えている理性が崩れ出す頃だ。有り難く思え、そんな風に感じられるのは後にも先にもななしだけなのだから。

「欲しいか?」

「……鍾会……様っ…………。」

言葉にならない言葉で訴え、彼女は宙に手を翳してゆらゆらとその在処を探す。目は虚ろに、頬は蒸気し、肢体は汗ばみ、中は既に受け入れる状態。

「全く聞こえないね、いつものような小さな声じゃ。」

意地悪く、皮肉に笑えばななしは目尻に涙を溜めて眉を下げる。これ以上は無理だと言う程に。

だが私は好きだ、そんな顔が、私だけを求めて希う純粋な眼差しが。そう、そんな無垢な彼女だからこそ、惹かれたのかもしれない。自分以外を知ろうとせず、ひたすら愛してくれるその在り方を。

結局自分も寂しかったのだ。散々抱いてきた女も媚びては諂う、ただの芝居がかったつまらない者共ばかりで。だがそんな中で媚びも諂いもなく対等に声を掛けたのはななしだ。肖ろうと縋ってくる事もなく、何気ない話ばかりを持ちかけては普通に笑う。屈託のない笑みを見せて、誰よりも会話力が乏しい中懸命に話をして。

それが何よりも愛おしかったのだろう。

「鍾会………様……愛して……ます。………聞こえ、ますか……。」

「………ああ、聞こえる、私も愛している。」

濡れた唇に己の唇を重ねて、じっくりとその感触を味わう。舌を絡ませて、銀の糸を繋いで、離れぬように。

「でなければ、私自らこうして抱いたりしない。」

全部聞こえてるに決まってる、お前の口から出た物はこれまで一度も聞き逃した事がない。

「どうか……来てください……私の中に、貴方の証を…………んっ。」

言うが早いか既に雄々しい根を容赦なく穿つ。言葉を遮るが如く勢いがあった為にななしの脚はぴんと真っ直ぐ伸び、腰は大きく反り曲がった。

「言われなくてもそのつもりだ、しっかりと私の遺伝子を残してやる。」

中を撹拌するように出し挿れを繰り返し、泡立つ液を隙間から吐出させる。太ももを荒々しく上げて、距離を縮めるように結合部へと更に密着した。

「あっ、あ………!」

「そんなに気持ちいいのか。どうやら躾が必要なようだな。」

ぐりっと捻り込むように突き刺し、果てしない程の快感を与える。反動の締め付けによって破裂しそうになったものの、何とか息を呑んで幾度も繰り返した。

「…………………。」

彼女の目色が変わった。それは果てる合図だ。

「………………っ………!」

途端に動きを止めて様子を伺う。逝きかけた身体はびくびくと痙攣し、もう一突きで恐らく果てるであろう。しかし、それではあまりにも呆気なさすぎる。

「ふ………焦らしも躾の一つ……案外癖になるだろう?」

「んっ…………嫌…………。」

「仕方ないね、もう少し我慢しろ。」

とはいえ、微量の動きで緩い刺激は与え続ける。その間にも肉壁を削ぐような音が部屋に響き、溢れ出す水音が鈍い音を立てて耳へと侵入していく。それが堪らなく官能的にさせ、彼女は性に合わぬ程艶かしく腰をくねらせた。

「あ、ん……っ…。」

「いい顔だな、まるで無理矢理犯している気分だ。」

自分の限界を振り切って、じっくりと攻め立てる。どちらが早いか比べたい所だが、残念な事にそろそろそういう訳にもいかなそうだ。

「お願い……鍾会、様………!」

「…………………。」

何かが吹っ切れたのか、自分でも驚く程に、俊敏な律動が始まった。

「………っ!や、速……ぁあ!」

「……っ、勘違いするなよ、お前が、逝きたいとせがむからだ……!」

離れていた根を戻して奥の子宮口へと突き上げれば、潜んでいた絶頂はあっという間にやって来て、彼女の全身を激しい電流が走っていく。が、そんな事はお構いなし、果てた後も律動を続けて散々啼かせ、再び逝った事を霞んだ視界の中で確認すると、漸く解放されたように己の液も音を立てて流れていった。

「はっ…………どうだ…………。」

「…………あ、ぁ………………。」

癖毛も乱れに乱れてとても顔出しなんて出来やしないが、目の前で意識を朦朧とさせている奴が一人なら、何ら問題はないか。

ああ、それにしても喉が乾いた、お前の口の中はどうなんだ?

「ん。」

唾液ばかりが溢れ出してくるが、今はそれも甘いな。下の方も未だ流れ続けて勿体無い位に外にまで漏出している。が、しかしそれを止める術もなく睡魔が襲ってくる。

「手放したりするものか……この私が選んだ女だから、な。」

そう言って手放したのは意識だった。真っ暗な海に溶け込んでいくが、不思議と何も恐れるものはない。


















「おはよう、ございます……。」

「聞こえん。」

「お、おはようございます鍾会様!」

「誰が耳元で叫べと言った!」

いつもと変わらぬ会話がまた始まる。相も変わらず彼女は大人しい、少しでも不機嫌な顔をすると落ち込んで部屋の隅にまで逃げてしまう。今もこうして距離をとって様子を伺っているわけで。なので、今回は言葉を慎もう、寛大なる心で受け止めてやろうではないか。

「……まぁ、いいさ、英才教育を受けしこの私は海のように器が広いからね。」

「………………。」

「………さっさと来い、許すと言ってるだろ。」

「………………やっぱり、私の事嫌いですよね……。」

「………………分かった、もう一度一から叩き込んでやる。」

前言撤回、この阿呆め、嫌だと言っても一生離さんぞ。




(ま、また抱くのですか……!)

(それ以外に何がある?お前が好きだという事を分からせるには何度だって愛してやる)




お礼文