荒れ果てた戦場の真ん中で一人の女が立ち尽くしていた。はらはらと涙を流し、敵味方問わず誰にも平等に静かに瞼を閉ざし手を合わせて。法正はそれを丘の上からひっそりと眼下にしていた。
あれは敵の女武将のようだが、どうにも戦を好んだ性分でもなさそうだな。
その時はそう思っただけで、大して何とも思っていなかった。しかし、戦で相見える度に、彼女のそんな想いに惹かれつつあった。一人一人に手負いはさせるものの、決して命を奪わない。戦が終われば必ず涙を流し、手を合わせて祈りを捧げる。誰も人の死に感心を持たない中、彼女だけは誰よりも人の死を辛く感じていた。死の先に見える未来ではなく、目の前にある死にばかり目を向けて立ち止まっている。
「ああ。」
愚かな事に、優しさ、という奴か。
「ま、それも無駄でしょうけどね。」
自分が止めを刺さずとも違う誰かが命の終わりを告げる。彼女が手を下さずとも、人の命は儚く散っていく。それが戦の理だ。どちらかが死ぬまで戦い続ける事こそ、新たな時代を切り開いていく。幾多の屍を踏み越えてこそ、やっと見える未来。
この戦乱に情けは不要、でなければ己の命が奪われる。故に、命の灯火を消せぬ彼女は武将に相応しくない。
なら、その綺麗すぎる涙を流さない手段は何処にあるのか。答えは単純明快、法正はこれしか頭に思い浮かばなかった。
「その命を奪ってしまえばいい。」
すれば金輪際その涙を流さずに済むであろう。終わらぬ戦に駆り出されず、血に染まった大地に足を着く事もない。
「気に入ったぞ……ななし。」
その優しすぎる性分を俺だけに向ければいい。すれば、お前は本当の自由を手に入れられるのだから。
「はぁ…………はぁ…………。」
まただ、また目の前で命が奪われる。味方を守る為に相手を追い詰める、この繰り返しで絶望と疲弊が著しい。武器を持つ手が震えて、薙ぎ払うのにも力が入らない。
そうして遂に膝を付いた時、兵が目の前で武器を振り上げた。
「喰らえっ!」
あ、私………死んでしまう………。
そう思って咄嗟に顔を下に向けた瞬間、壮絶なる断末魔が上がった。恐る恐る己の首に手を宛ててみるが、傷一つ見当たらない。ふと目線を上げれば血飛沫が舞い上がって滴が雨のように落ちる様を見逃さなかった。
「………………どうして。」
その兵の背後より忍び寄ったのは、血と同じく赤い布を翳した男。その表情は薄ら笑みを浮かべて乾いた目を向けていた。
「死を迎えた方が、いっそ楽でしたか。」
「……………………。」
返り血を浴びたその男はそろりと近付いて、膝を付き彼女と同じ目線の高さとなる。真っ直ぐと向けられる瞳は恐ろしくも美しい、見れば見る程に虜になってしまう程だ。
「貴方………向こうの国の方ですよね。どうして敵方の私を救ってくれたのですか……?」
「そうですね、恩を返してもらいたいから、では答えにならないでしょうか。」
「恩…………?」
「そんな悲しい顔をしながら戦をする武将なんて初めて見ましたよ。故に放っておけなくなった……恩を作らせたくなったんです。」
「……私は………人の命が無益な戦によって失われていく事が耐えられないのです……。それでも国主の命には逆らえず、せめてもの思いで寸前で彼らを救っているのですが……それが無駄だっていう事も分かっています、自分がやらねばもっと悲惨な末路を迎えるって事も……。」
「………それは偽善でなければ、尚美しい事ですが。」
「…………貴方には、私の心はどう見えますか………?」
満身創痍の身体を倒さないように支えるが、どうしてもふらついてしまう。それをさせまいと法正は彼女を介抱し、抱き上げる形で立ち上がると、彼はじっと瞳の奥を覗く様に静かに見据える。
「さぁ………俺にはさっぱり分かりません。」
「………誰が何と思っていても、構いません……いつものように、祈りを捧げますから………。」
「ななし。」
教えてもいない名を唐突に呼ばれ、ななしは目を瞠目させる。
「祈りなんて無駄ですよ、苦しむくらいならいっそ諦めてはどうですか。」
「それは…………出来ません…………これが私の罪滅ぼしですから………。」
「罪滅ぼし、ねぇ。殺してもいないのに罪滅ぼしするんですか。そんなの未遂であって、貴女が苦しむ必要はない。」
「……………………。」
意識が薄れ、視界が霞んでいく。男の低い声と抱かれる体温が今は心地よく思え、このままだと深い眠りについてしまうだろう。
「いっそ、俺に全てを委ねてください。……そうすれば、もう辛い思いをしなくて済むだろうよ。」
その時、彼は何かを囁いた気がしたが、閉じられた瞼で完全に闇を生み出し、意識は暗い海へと沈んでいった。
「法正殿、その武将は。」
「ああ、先の戦で捕縛したんですよ。戦には不慣れだったようで、呆気無く降伏しました。」
「ほう……にしても、これは美しい女だな。」
男が舐めるように眠るななしを見つめれば、法正はこの上なく不機嫌な表情を剥きだした。
「あまり彼女に触れないで頂きたい。」
「………ほう、さては法正殿、この女を物にする気か?隅に置けぬなぁ……さすが悪党軍師殿。」
「俺は忙しいですので、これで。」
見下すような目を一瞬だけぎらつかせ、そそくさと自分の部屋に戻る。未だ己の腕の中で眠るななしを見つめると、何処か心に名も知れぬ感情が芽生え始めた。
「……………………。」
衣類から覗かせる腕を見れば薄い傷があちらこちらに刻まれている。今は治っているが、当時は相当深かったのだろう。
嫌がる女を戦に駆り出す国主は非情という事か、どうやら仕えた国に恵まれなかったようだ。
「ん…………。」
「目が覚めたか。」
「………………!ここ、は………。」
ぼやける視界が次第に開かれると、男が嬉々と顔を覗かせている。未だ自分の置かれている立場が分からず辺りを見渡してみるが、どうやら自分の部屋ではないようだ。むしろ、国が違う、と言った方が正確だろう。
「私……どうしてここに………。」
「恩を返して頂きたく、ここに連れてきたんですよ。」
「………………お願い、私を………。」
帰して、と良いかけた唇が指で押さえられる。まるでこの先を口にしたら容赦しないと威圧しているようで、ぞくりと背筋が粟立つ。
「ええ、賢明な判断ですよ。今の貴女の立場は捕虜、なんですから。」
「……………では、このまま私は死ぬということですか。」
「どうでしょう、貴女の選択次第と言ったところでしょうか。素直に従っていただければ命の保証はします。しかし……その先は言わずとも分かりますよね。」
法正はななしを寝台に降ろし、そっと肩に触れる。周りは薄暗くしんとしていて、心なしか寒気を覚えるななし。
「貴女がしている事は限界がある。敵に情けをかけている地点で戦場に立つべきではないのです。やるからには徹底して蹂躙、時には敵味方をも利用する……そうでしょう。」
「………………………。」
「まぁ、分からない事もありませんよ。その様子だと武勇には縁が無いように思えますし。
……だからこそ、ここで選択しろ、生きるか死ぬか。お前に残されたのはその二択だけだ。」
殺意、とまで行かないが獲物を逃さぬ獣のような鋭い眼光を見せつけ、彼女の全身を一気に強張らせる。
怖い、ななしの気持ちはそれでいっぱいだ。しかし分からない。何故この役にも立たぬ女をここまで運び込んでわざわざ生かす道を示すのか。そこまで能力を把握しているのであればあっさり斬り捨てればいい。なのに、それ以外で何か利用出来るのではないかと考えているのか。
「死ぬ道は私が首を横に振ったその瞬間なのは理解できました……。ですが、生きる道というのは……この国に仕えて、再び戦に出ろ……という事でしょうか。」
すると法正はななしの着けていた装備を片っ端から外し始め、次々と服を脱がしていく。慌てて彼女は抵抗を試みるが、怪我の所為か上手く身体が働かない。
そうして、彼は地に這うような声で、くつりと喉を鳴らして笑った。
「いえ、俺の女になるんですよ。」
ななしの頭は真っ白になった。この男は今何と言ったのか、全てを理解するのにそれなりの時間を要した。その間にも剥がれていく衣類、それを抵抗する事も忘れ、気が付けば全てが露になっていた。
「やっ…………。」
「ほう、その反応はよもや、生娘だったか。」
細い身体の割にはふくよかな二つの果実が揺れ、指でなぞればその身体は敏感に跳ね上がる。
「あっ………!」
「ああ、この身体を犯せば答えは出るか?それもいいだろう………。」
突起を舌で執拗に転がして弄び、時に弾いて吸ってを繰り返す。すればななしの甘い嬌声は徐々に増えていき、求めるように身体がくねりだした。
左の中指を下腹部の丘へと忍ばせ、蜜壺を傷つけぬようそっと中へと侵入させる。感じているのか、既に粘液は受け入れる準備を始めており、ねっとりと指に纏わり付いた。
「今日会ったばかりの男に感じるなんて、随分と淫乱だな。」
「んっ…………あぁ………!」
膜を破かぬよう控えめに引っ掻き回し、暫くは反応を楽しんでいた。しかしあまりにも艶やかな声で啼くものだから、さすがの法正も耳を塞ぎたい程に欲情感が高まってしまったようで。
「……気持よく喘ぎやがって……どうしてくれるんです。」
「ごめんな……っさ………ひぅっ…!」
ぐっと指を奥に挿し込めば、苦痛に顔を歪めて寝台を思い切り掴む。処女には感じた事のない感触であり、妙な体験、しかもそれが敵方の武将であり、己は捕虜の身。
なんとも滑稽な光景だ、もしやこれも拷問の一種なのだろうか。意識が飛びそうな中でななしは必死に考えを巡らせていた。
「ほら、もっとですよ。いい声で啼いてください。」
好きでもない人に抱かれる事が嫌で抵抗したい筈なのに、何故か抵抗が出来ない。生きる道を手放そうとしても、彼の事が頭から離れず、どうしても縋ろうとしてしまう。
生きる為に生きる道を選ぶのか、それとも、彼に愛されたいから生きる道を選ぶのか。
なら、私はいつから彼を愛したいと思った。彼に愛されたいと思った。出会ったその瞬間からなのか。分からない、分からない。
「やめ………て、愛してないなら……尚更………!」
「……………愛してないなら?」
愛撫の嵐はぴたりと止んで、訝しげに目を細める法正。
「……貴方が…っ………好きでもない私を……愛したって、飢えは満たされない……!お互い、悲しい……だけです……。」
「なるほど、逆に考えて好いていれば愛しても良いという事だな。いいだろう、なら教えてやる……痛い程その身体にな。」
好戦的な法正はななしの弱った脚を大きく開き、指を引き抜いては秘豆を指の腹で押し潰す。その度に上がる悲鳴を聞きながら更に激しく捏ねると、快感のあまり四肢を硬直させて果てる。しかし彼は止めない、親指を前後左右に振動させて再び彼女を快楽の波に飲み込ませていった。
「ひっ、………あぁっ……やめ、て!」
「どうだ……気持ちいいいだろ……?」
胸を撫で回しながら交互に執拗に攻め立てる。彼女の脚はがくがくと震えて最早何も考える事も出来なくなっていた。
「あっ…………ん……。」
「………法正、ですよ。」
耳元で囁やけば、彼女は無我夢中で彼の首にしがみつき、その短い髪を鷲掴んで必死に快楽から逃れようと抗う。しかし、かかる熱い吐息と器用に蠢く指の前ではそれも無に等しい。
「法、正………さ、…あぁっ!」
指だけで何度果てたのか、数えられない位に弄られて彼女の精神は限界に近かった。この初な身体では彼の激しい前戯に付いていかれないのだ。
「どうです、少しでも俺の思い、分かりましたか。」
法正は己の指に付いた液体を舌で掬い取る。それを見ては頬を赤らめ目を逸らす。
「女として生きるか、捕虜として死ぬか、選べ。」
俺はお前に惚れた故、生かして愛したいのだがな。
「………………私は…………。」
「はっ………ぁ……。」
結局愛される事を選んだ。恐らく彼と共にいれば、もう戦で悲惨な光景を見ずに済む。悲しみに打ちひしがれる事もない。
「いいですね、その動き、ぞくぞくしますよ。」
妖艶に笑う法正を見下ろして朧気ながらも彼女は考える。出会って間もないのにこれだけ彼に溺れてしまっているのは、それだけ魅力がある人間だからなのか。
それとも単に酷い現実から逃げたかっただけなのか、誰かにこうして救われるのを待ち望んでいたのか。
「………分からない………逃げたくて貴方を望んだのか、本当に愛したくて貴方を望んだのか………分からない………。」
「………どっちでもいいんじゃないんですか。理由はどうであれ、貴女は生きるという正しい道を選んだ。」
「…………きっと、疲れたのかもしれません……女の身でありながら、戦する事に。」
「…………なら、本来の女の務めを果たせ。」
上に乗っけたななしを押し倒して、彼女の脚を己の腰に巻きつける。中は未だ繋がったまま、温くなった液体がぬるりと太ももを伝ってこぼれていく。
「少なくとも俺は貴女に惚れているんですよ。こうして逢瀬し会話をする事は初めてかもしれませんが、これでも随分前から知っています。」
「…………。」
「人の命の散る様を見たくないのであれば目を閉じていろ。そうすれば、俺が貴女の代わりに業を背負ってあげましょう。
武将としてのななしは先の戦で死んだが、本来のななしとして此処で生きる事は出来る。」
ななしの目から涙が一つ、また一つ、そうして大粒の雫が流れ落ちていく。今まで耐えていた気持ちが吹っ切れた瞬間だった。
「愛してくれますか………私を、一生愛してくれますか……っ……。」
「いいだろう……俺を望むのであれば、それに生涯かけて応えてやる。」
法正は流れる涙を拭い取って自分の頬に擦り付ける。その涙を共有するように。
「ついでに助けた恩も、今返してもらおうか。」
ずぶりと深く根を突き刺して律動を再開させる。揺れ動く肢体にしがみつきながら幾度も穿っては刺激を与え、法正は無我夢中に求めては荒れ狂った。狭い中で起こる摩擦は痛みを生じさせていたが、彼女は決して悲鳴を上げる事なく受け入れる。それが嬉しく、法正も苦悶の中で何とか笑みを見せた。
「いっそ………孕んでみますか………そうすれば貴女は…………。」
散々出してから言っても遅いか、法正は先程浴びせた液を上書きするように新たな液を放出させていく。撹拌した混濁液は血と共に床へ飛び散り、寝台はすっかり汚れきっていた。
よく見れば彼女の意識は既にない。どうやら喪失したばかりの身体で長丁場は持たなかったようだ。
「…………やり過ぎたか。」
ゆるゆる抜くと入りきらない液が一気に溢れてそこに溜まり場を生み出す。一心不乱に抱いたはいいが、さすがの彼も疲労が激しく、息をするのもやっとだ。げほげほと咳き込みながらも、眠るななしの頬に触れて
「貴女に涙は相応しくありませんよ……笑ってください。そう、何もかも忘れて、俺だけに。」
転がる液体を口にして、彼女の唇に深く重ねた。
そうして法正はかつてななしが仕えていた国を滅ぼすまでに至り、今まさに愚かな国主を足蹴にしている最中である。
「よくもまぁ、あっちではななしを酷く扱ってくれたみたいで。報いは彼女の夫である俺が直接下そうと思いましてね。」
「………よくも貴重な手駒を奪ってくれたな………ぐぁっ!」
「駒、駒、ねぇ。」
靴で思い切り頭を踏み躙り、床に叩きつけるように何度も足を振り翳す。そうして終いに上からぼたぼたと流れ落とすのは
「丁度いい劇薬が手に入りましてね。貴方で試してみましょうか……。」
蹴って仰向けにしては喉に直接流し込む。すると男はあまりの苦しさに喉を押さえて必死に藻掻くが、あっという間に白目を剥いて絶命してしまう。
「ああ、どうやら即死のようで。ま、当然の報いですよ。さようなら。」
興味関心をなくしたように冷めた目で骸を見下し、その場から立ち去る。
「終わりましたよ、ななし。」
目を閉じて涙を流す彼女をそっと抱き締めて囁く。
「ほら、泣かないでくださいよ。貴女を泣かせる根源がなくなったんですから。」
「………ごめんなさい、法正さん……私の代わりに貴方が……。」
「……………お気になさらず。」
ああ、彼女は優しすぎる程に優しい。
(相対する人格だからこそ、惚れたのかもしれない)
お礼文