「俺の策が……破られただと?」
駆け寄る伝令兵の言葉に思わず耳を疑う男、蜀の参謀である法正はあまりの事に口を開けてしまった。三日三晩考えに考えた究極とも言えるであろう法正の策を、たったの半日で破った武将がいると。
「そいつはどんな奴だ……実に恨めしいな。」
「………はっ、それが………。」
伝令兵は言いづらそうに目を逸らすが、焦燥に駆られる法正はそれをじっと待つ事が出来ず、思わず胸倉を掴み上げ低く言い放った。
「一体、そいつは、誰なんだ。」
「……………っ………。」
味方とはいえ彼の人徳は限りなく低く、こういう意味での信頼はおけない。伝令兵はこんな奴に破られたなど口が裂けても言えまいと腹を決めていたが、自分の死を悟ったのか思わず
「……………女です。」
「……………は。」
「女です!………歳はまだ若い、端麗な女が…………!」
「………………。」
まさか練りに練り上げた策が女武将、ましてや年端の行かぬ女が、あっさりと見破ったと言うのか。法正はますます顔に影を落とし、掴み上げていた伝令兵を無造作に地面へ落とした。
「そうか…………女が…………そいつはどこにいる。」
「…………っ、あちらの方角を。」
言われた通りにその方角へ鋭い目を見やれば、遥か遠方より馬に乗って果敢に武将に挑む女の姿が伺える。
「………………ほう?」
女武将という事もあって精々鍛え上げられた逞しい身体かと思いきや、何の事はない、何処にでもいそうな華奢な身体をした少女だった。その手には長い弓を携えて、蜀の武将を次々と薙ぎ倒していく。どう見ても無名の将……なのだが。
「あれが?まさか。」
「このままでは、我が軍は…………!」
策が破られた所為か、次々と兵が命を落としていく。断末魔が飛びかう中、法正は考えを必死に巡らせてみるが、この場を切り抜ける打開策がそう簡単に見つかる筈もなく、その間にも武器と鎧の剥がれ落ちる音だけが虚しくも響きわたっていた。
「……………撤退だ、口惜しい……いや、酷く怨めしいが………此処で兵を失う訳にはいかない。」
急いで兵を退かせろ。地に這うような声で命を下せば、伝令兵は死物狂い顔で頭を下げてその場を去った。
「…………あの女…………。」
法正は怒りを通り越し、何とも言えぬ複雑な感情に唇を噛み切った。
その戦はつい一月前の出来事。
それを今でも根に持つ法正は、あの日以来ずっと胸の濁りが澄まない不機嫌さを醸し出しながら、積み上がる書簡をただ乱暴に始末していた。転がる筆と綴、部屋は散らかり放題、整頓好きの彼にしては随分と珍しい光景である。
「…………………。」
渾身の策を以ってして挑んだだけあって、軍略に長けている自分にとってその敗北が何より屈辱的で堪らなかった。しかもそれが女、あろう事か無名の将がいとも容易く破るなど、決してあってはならない事である。それを見兼ねて君主である劉備は気にする事はないと慰めの言葉を掛けたが、それでも腹の虫は治まる事を知らない。
言わば、骨髄にまで徹する怨み。
が、そんな怨みが溜まる一方で、日を追うごとに別の感情もまた彼の中でふつふつと煮え滾らせていた。
「ならば……それをみすみす魏にくれてやる事もない。」
だからこそ、彼女をどうにかして此方に寝返らないだろうかと考える。悔しいが、今は個人の怨みをぶつけている場合ではない、むしろそんな隠れた能力者をあの魏に捨て置くのが非常に勿体無い。
あの女を手中に収める事によって、恐らく魏軍は彼女の才に気付かぬまま大幅な戦力を失う事になるだろう。郭嘉や荀イクという軍略に長けた強者がまだ揃うが、それでも一人奪うだけでも士気の低下は大きい。
「ななし……か……。」
どうやら彼女の名前はななしというらしい。歳は二十に届かないながらも、武芸が多少出来るという単純な理由で先の戦に出されたようだ。しかし初陣にてとんでもない戦果を出した、俺の渾身の策を呆気無く破る隠れた天才が生まれた。となれば、やはり欲しい。己よりも勝る能力への悔しさよりも、彼女が欲しい。
「………………?」
そこで法正は微々たる違和感を覚える。これは怨みではない、別の何か……。
「…………ああ、そうか…………。」
ぱたん、と古びた書簡を置くと、法正はふらりと立ち上がって行く宛もないまま部屋を後にした。
そして、戦は再び魏軍とぶつかり合う。前回のような酷い失態を犯してはならぬ、と法正はとある策略を予め植え付けておいた。旗の色は今やこちらが有利。
「ふ…………これでお前は、今度こそそこにいられなくなるだろう………。」
口角を吊り上げて、ひっそりと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「………………?」
彼女は周りの重々しい雰囲気に疑問を抱いていた。何処か自分に向けられる視線が厳しい。まるで自分を敵視しているかの様な、鋭い目付き。
「あの…………私に、何か。」
「…………………。」
恐る恐る話し掛けようにも、威圧的な態度に怯んでしまう。今までとは違う、不信感丸出しを思わせる何か。恐ろしくなったななしは次の言葉も出す事が出来なかった。
それでも既に戦は中盤戦を迎え、調子よく兵を薙ぎ倒していきながらも、未だ拭えぬ不安を抱いたまま彼女はとある場所へと赴いた。後ろには与えられた兵を引き連れながら。
しかし、そこは待ち構えるかのように法正がいる拠点。そんな事も露知らず、彼女は真っ直ぐに駆け込んでいく。
そして、次の瞬間
「まさか、本当に裏切りをしおったぞ小娘め!」
と、後ろに控えていた武将が怒号した。何事かと振り向こうとしたが、突然の前方から降り注ぐ弓の流れに絶句し、恐怖に蹂躙されてその場で立ち止まってしまう。
「………なん、で……!?」
自分を器用に交わしながら流れていく大量の弓は、背後の味方武将を次々と射抜いては討ち取られ、気が付けば倒れた兵の無惨な姿が眼下に飛び込んだ。
「あ…………。」
あまりの一瞬の出来事に声は出ず、膝はしきりに震えて立っていられない。裏切りというあの一声は何だったのか。あの時の皆の冷めた対応と何か関係しているのか。
何故、自分以外の人間が死んだのか。
考えを巡らせようにも目の前で不敵に笑う男がそれを阻む。彼は弓兵を後ろに下げて、ななしに一歩一歩ゆっくりと近付いた。
戦慄が走る、じりじりと、砂利を踏む音だけが耳に響く。
「どうも、貴女がななし殿……ですね。」
「貴方は………一体………。」
「俺の名前は法孝直。この通り蜀軍の汚れ役参謀です。……以前の戦では随分と手酷くやられてしまいましてね……貴女の、見事な策破りによって。」
「………もしかして、あの策は、貴方の……。」
「ええ、そうです。ですから、そのお礼にたっぷりと報復をしようと思いましてね……いえ、もうしているんですよね、実際。」
分かりますか?貴女に向けられた仲間の目の色で。法正がそう言うと、彼女は瞠目するなり口元を抑えた。
「そんな…………!」
「ななし殿と俺が内通していて、この戦で彼女は寝返る為に俺の所に赴く可能性がある………という、敢えて根も葉もない流言をしました。その為にわざわざ貴女に近い拠点も選んだんですよ。」
「嘘………私は、どうすれば……。」
今更帰るという選択肢はない。こうして実際に法正と出会ってしまい、兵を見殺しにした以上、魏軍に戻れば裏切り者として即刻処刑だ。他の武将にもそんな場面が見られているのだとすれば、それを直ぐ様上に報告し、全軍に自分が寝返りしたという虚言が瞬く間に広がり、結果ななしの信用度は……。
しかし、この男に捕まれば自分はどうなる。どちらにせよ殺される運命なのではないか。嫌な汗がひっきりなしに止まらない。
ななしは握っていた弓を地面に落とし、崩れるように膝をつく。まさかこんな形で自分がまんまと罠に嵌ってしまうとは。
「………どうです、屈辱以外の何者でもないでしょう?俺もそんな気分でしたから、よく分かります。」
戯けたような声で笑い、法正はまた一歩その腑抜けた姿の彼女の目の前まで迫りよる。
「…………ああ、こちらに降れば、生きる事は出来ますが。」
「……………!!」
ぎょっとした目で彼を見つめる。その穏やかな眼差しは甘言そのものであり、生という誘惑に思わずその手を取って頷いてしまいそうになる。だが、それは今まで生きてきた仲間や国を捨てるという事になり、少しでも首を縦に振れば、この先も生きながら尚、犯した過ちに苦しみ続ける。
それだけは、したくない、誰か……一人でも庇ってくれる人がいるのならば、私は………。
しかし、法正はそんな些細な願いをも断ち切るように叱咤する。
「何を迷っているんですか。裏切り者と呼ばれた以上、貴女はもう誰からも信用されていないんですよ。……まぁ、そうさせたのは誰でもない、俺なんですかね。」
何せ、悪党なものでねえ、法正は呟く。
「…………とは言え、その才能を潰したくはない。だからこそこんな所で舌を噛み切っては欲しくないものです。」
「私は………私は………!」
涙が止まらない、軍を貶める策ならまだしも、個人に向けられた策などと誰が想定した事か。それに気付けなかった己の未熟さと、この男の根深い執念に、ななしは遂に瞳から光を失った。
「大丈夫ですよ………これからは蜀に………いえ………」
俺の為に、尽くしてもらえませんか。
ぼやける視界の中、その悪党は愉しむように唇を弧を描いたのは、今でも忘れない。
「………………………。」
目が覚めればそこは見知らぬ場所。動こうと草臥れた身体を起こすが、手足に縛られた縄は存外きつく、これ以上は何もどうする事も出来ない。
「あ……………。」
「起きましたか。」
目覚めたばかりの霞む視界が声によって一気に開かれ、そこにいたのはやはりあの時自分を貶めた悪党。澄ました顔で手には何やら紅い布を携えている。
ああ、結局自分は殺される運命か。
絶望に打ちひしがれた顔付きで己に施された縄を嘆かわしく見つめる。
「……………言った筈ですよ、貴女はここに来た限りは死なせないと。」
するり、彼女の煤けた頬を撫ぜて、くつりと喉を鳴らした。背筋が粟立つような、冷たい指先の感触。
「…………確かに、貴方の策を見抜いたのは私です………ですが、それも偶然………軍師としての才なんて、皆様には遠く及ばないただの無名者。故に、私なんかを連れ去った所でお役に立てる事などーー」
ぐっと、喉元に置かれた男の両手から不思議と先程まで無かった熱を感じる。
「何一つ、無いなんて事は無い。」
「…………………。」
「俺はあの日以来、貴女の事だけを思ってきたんですよ。この受けた怨みを返したい、策を以って、完膚無きまでに陥れようと。ですが、その思いは、どういう訳か……想い、に変わりましてね……。」
言葉では言い表すことの出来ない文字の変換。つまり、強い怨みを通り越して別の感情にへと変貌を遂げたという事。
「将としても引き入れたい……それと同時に、貴女を手に入れたい……。もっとも、後者の方が、より強い願望なんですがね。」
「…………っ…………。」
妖しく鋭い眼光。そして何を考えているか分からない、企みを含んだ表情。
そして、満悦な笑みへと深く刻まれる。
「怖いですね、憎しみが愛に変わるなんて、想像もしていませんでしたよ。」
「私……に………愛?」
「ええ、俺は貴女に心底惚れてしまいました。」
法正はいつになく本気だった。だからといって好意が芽生えた理由があるのかと聞かれても、特にそれらしい答えは見つからない。人を好きになるのに理由はいらないという誰かが唱えた定義と同じ事だ。好きになったら、理由なんて説明出来ない、頭でどうこう考えるよりも気持ちがそうなんだと、語っている。
無名の将に破られてさぞや憎いだろうに、しかしそれは奇しくも名も無き愛へと形を変えた。
故に、ただ、ななしを武将としてではなく、自分だけの物にしてしまえればそれだけで今の気持ちは満たされる。怨みも報復も全て引っ括めて、ひたすら彼女を愛してみたい欲求が巡った。
「………………。」
どの道あの国に戻る事は二度と決して許されない、そんな崖っぷちの危機的状況下で、男は求愛という名の利己を申し込むのだ。無意味な死を選ぶより、愛される方を選んだ方がより賢明である。
「…………法………。」
乾いた唇は彼の名前を呟きかける。その名前を口にすれば、きっと彼は笑うだろう。それで自分は本当に彼の物になってしまうのだから。
だが、それも良いかもしれない、そんな諦めの自分もまた心の奥で囁いていた。
武将として生きる事を辞めて、全てを捨てて、この男に何もかも委ねる事が出来たのであれば、それできっと楽になれる。誰からも過度な期待されずに、女として真っ当な生き方を歩めば、知る事もなかったであろう幸せがそこにあるのかも知れない。
揺らぎのない純粋な丸い瞳は、ますます法正の心を燻り、耐えようにも耐え切れず、笑みが口角に浮かぶ。
「………さぞや俺が憎いでしょう。」
「………確かに、裏切りの落胤を押した張本人という怨みしか無いです。………ですが、これがあの時の報復と言うのであれば、詮無き事、と諦めるしかありません……。」
すう、小さな息を吐いて
「…………貴方に、降ります。」
静かに瞼を閉ざす。
「…………つまり、」
「好きに………して、下さい。」
頬を赤らめ、恥じらう乙女の姿がそこにあった。しかし覚悟は固めたと言わんばかりに逸らさない眼差し。
「では、好きにさせてもらおうか。」
きつく締めていた縄を解くと、予め持っていた紅い布を代わりに巻き付けて軽く縛り上げる。そして傷んだ衣服を無造作にたくし上げるなり、顕になった胸の飾りを舌で転がし始めた。
「あっ…………!」
「………ふ、気持ちいいか。」
みるみる硬くなる突起を吸い上げ、もう片方の指で先端を弄れば、あまりの恥辱に耳まで赤く染まりあげる。立て続けに喘ぐ嬌声に唆られ、かりっと軽く歯を立てれば、それに反応して鈴を振るうような声が部屋に木霊した。
「んっ……ふ、あ………!」
手首は封じている為、指先が震えて痙攣を起こしている。
「もう終わり、何て事はありませんから。」
がくつく膝の間に脚を滑り込ませ、下を確認すると、既に湿った感触。
「これで濡れるなんて、淫乱にも程がある。」
「いわ、ないで……んっ。」
「指が入らない………ああ、まだ生娘だったのか。」
ずらした下着を掻い潜り、何本か挿れようと指を立ててみるが、薄い膜がある為それはやんわり拒まれた。それは嬉しい誤算、仕方なく上で主張する秘豆を弾けば、嫌と言わんばかりに首を横に振り始める。
「まずはここ、落としてみましょうか。味わった事ない喜び……手取り足取り教えてあげますよ。」
剥き出す膨らみを指で捏ねている間、快感に蕩けるななしの顎を掴んで深く口付けを施す。息継ぎをしたいと言わんばかりに胸を激しく上下させ、口端から漏れる甘ったるい声に、法正もまた唆られて下の指の動きを速める。すると、彼女は顔を歪めて止めてと希う表情を浮かべるが、そんな事はお構いなしに続けた。
「ん、んー………っ…!!」
「………ん、く………どうだ………堪らないだろう………?」
低い声で色っぽく囁やけば、耳を孕ませるように全身を細かく震わせ、どろりと粘った液体を指に纏わせる。快楽に耐え切れなかった透明液が法正の手を汚し、それを誘うかのように綺麗な糸を引いた。
「………っは、随分と堪能したようで。」
「あ………うぅ、………。」
あどけない面影など今や遠い何処かに置いて、今ここにいるのは自分に感じて艶めかしく啼く彼女の姿だけ。
「抱いた証を嫌という程つけてやる。」
白い柔肌は痕を残すのにも最適で、吸い上げる度に痺れるような痛みを付けながら、法正は幾度となく深紅の痣を刻んでいく。その度に揺れる引き締まった肢体、今にも泣きそうな顔付き。……否、生理的な涙が睫毛の先を濡らしている。
いやはや、欲情させるには十分過ぎる。法正は未だ閉まったままの己を抑える事で精一杯だった。未だかつてない快楽に、心がぞくぞくして気持ちが昂ぶる。
法正は、なんとか自我を保ちながら呼び掛けた。
「そうだ、俺の名前、呼んでくださいよ。」
「な……なま、え………っ………。」
「そう、俺の、名前を。」
「………ん………ほ、う……………あっ!」
「孝直………だ………ほら、もう一度。」
果てたばかりの蜜壺に再び手を挿れて、ひくつく秘豆を摘み上げる法正。それだけでななしの身体は麻痺を起こし、訳も分からず脚はぴんと真っ直ぐ伸びた。
「こう、孝直…っ……孝直…さ……あぁっ!!」
「良く出来ました。」
直後、彼女に宛てがわれるは大きく反り立った男根。既に充血し今にも吐出してしまいそうな勢いで、それは彼女の膜をあっという間に貫いた。
「い、いた……っ、ぁ、…。」
「…………っ、悪い、手加減が出来なくて、な………。まぁ、すぐに楽になりますよ。」
犯すという感覚に熱量を増したそれはみるみる肉壁を押し上げて奥へ奥へと沈み込んで行く。ずぶずぶと淫靡な水音をこれ程かというまで鳴らし、失った証の血が結合部から僅かに滴り流れ落ちた。
それと同時に、痛みに耐え切れないななしの眼からも涙が溢れてこぼれ落ちる。
「……ああ、泣く程痛かったか。」
そう言っても言葉は返ってこない。痛みに集中していてそれどころでは無いようだ。とりあえず輪を作る腕の間に法正は自分の首を通し、首に彼女の手を回した様な態勢をとる。
「…………落ち着いたか。」
互いの表情が分かる程に近く、掛かる息が荒々しい。それにしても滑らかな眉間の間に似合わぬ皺を刻み、頑なに濡れた唇を結んで苦しむ姿はなんとも健気な事か。懸命に堪えているのが手に取るように分かるからこそ、余計に惚れて溺れそうだ。
だからこそ、彼女にも徹底的に溺れてもらう必要がある。一方的な愛し方では満たされる訳もない。
髪に隠れていない左眼で、ぎっとななしの不安そうに見つめ返す瞳を捉える。
「……言い忘れていた事が一つありました。………貴女はあの国にいたら、いずれ死んでいましたよ。」
「………それ、は……どうい、う……。」
「それは自分が一番ご存知なのでは?………周りの目、どう考えても可笑しいでしょう。」
「………っ………。」
きゅっと締まる中で、彼女の気持ちが何となく分かる。吐き出さまいと法正は何とか欲情に耐えつつ話に集中させた。
「その若さ、女、多少の武芸が出来る、単にそれだけで戦場へ赴くなど、妬む輩も多いでしょうに。それに加えて勝利に繋がる策を見破るという大業を果たしてしまった。それを褒めるどころか、こんな小娘が自分より優れているなど、断じて許せぬといった阿呆な面子ばかりでしたよ。」
「…………やっぱり、そうなん……ですね。」
「…………分かっていたのでしょう。最初から、自分は信用されていなかったと。」
「………………。」
上の人間は恐らく彼女の才に気付きかけていたからこそ戦場に駆り出した筈、しかし何も知らぬ凡愚な家臣からは当然ながら厳しい目しか向けられない。だからこそ、今回はそれを分かった上で彼女の存在を毛嫌う一部の武将に態々流言したのだが。
ああ、今頃悔しがっている顔が目に浮かぶな。曹操よ、己の愚かな部下を精々呪うがいい。
「…………では、貴方は………私を、救って下さった………?」
「……そう捉えても、別に構いませんが。あくまで俺は、自分の欲望で動いたまでです。」
「………孝直……様………。」
今度ばかり流す涙はきっと今まで向けられてきた殺意への恐怖。それを慰めるように、法正はななしの身体を引き寄せてそっと抱き締めた。空いている手で長い髪を梳き、一時の安心感を覚えさせる。
そんな気はしていた、だからこそ、貴女はここに、俺の側にいる事が相応しい。
「………っ………ここにいれば、もう………。」
「そうです、誰も貴女を責めたり、妬んだり、嫌な思いはさせないだろうよ。」
いや、俺がそうさせない。守ると決めたら最後まで、悪党は悪党らしく、貴女に降りかかる災厄を受け止めよう。
耳元でそう囁やけば、悪夢から目覚めたようにほっとする表情を見せる。
ああ、やっと、彼女は、心から。
「……………私は………貴方を、信頼します。」
そうだ、その言葉を待っていた。
「なら、全てを受けるといい……。」
法正は顔一面に満悦らしい笑みが浮かべると、再び中に挿れていた物を上下に煽らせる。その事をすっかり忘れていた彼女は即座に我に返り、改めて頬をみるみる紅潮させた。
「ん…っ、そう、でした………私、今……。」
「ええ、俺も生殺しは好ましくないので、そろそろ逝かせて頂きたいのですが……。」
強請るように法正は舌なめずりし、ななしの細い肩を徐に掴む。余裕のない表情は彼女からもはっきりと分かり、思わずぎゅっと胸を締め付けた。
そのまま押し倒して覆い被さると、体重を掛けながら法正は逞しい腰を欲のままに揺らし、卑猥な音が容赦なく鳴りはためく。首に掛けられた彼女の手が短い髪を毟るように掴んでは甘い喘ぎをますます激しくさせた。
「ふっ、………ん……苦し……!」
「ああ、ぞくぞくしますよ……その誘うような仕草………歯止めが利かなくなる。」
「あう……っ……。」
「ここが、いいのか………?」
揺れる胸の膨らみに唇を這わせ、高鳴る心臓の音をはっきり聞き取る。それは自分もまた然り、血が騒ぐように鼓動が波打って煩いくらいだ。
「だめ…っ、あぁ……ん!」
「駄目かどうかは………貴女の気持ちの問題ですよ。実際に、身体は素直に締め付けて離さまいとしていますし。」
物欲しそうに咥えやがって、悪戯にそう返せばそれだけで感じたのか程良く縮小し、またしても法正を苦悶へと導く。
「は………、そうだ、もっと啼け。貴女の声が聞けば聞く程、俺は壊れるくらいに攻めたくなる。」
だが、これが堪らなくいい。律動と締め付けでくらりと目眩を起こしつつも、目の前で涙をこぼしながら快楽に溺れる様を両の目でしかと焼き付けた。
果てる直前、乳房に齧り付き、とどめを刺す様に吸い上げる。
「孝直…さ、あ、孝直……っ、んうっ!」
「…………逝って、しまえ……っ。」
腰を打ち付けるように突き刺した直後、ななしの身体は弓なりに弾いて顎を上に向けた。びくびくと引き攣れるように奥が締まると、法正もまた唸声を漏らして彼女の太ももに軽く爪を立てる。床に散らばる黒髪と汗、手首を縛る紅い布も互いの水を含んで滲ませていた。
「ぐ………、………。」
どぷり、と中で蠢く精は子宮へと注がんばかりに多量に放たれて萎縮する。
「………ななし………殿…………。」
普段より呻る様な低い声で名前を呼ぶが、どうやら果てた時に意識は持っていかれたようですっかり返事はない。大きく溜息を吐くと同時に抜かれる根、入りきらない白い液体が太腿を伝って静かに滴り落ちた。
「…………全く、俺も、らしくない。」
怨んでいた女がいつの間に愛する女になったのか。理由は当然存在しない。存在しない方がいい。
その代わり、この身が焦がれるまで生涯かけて報いよう。貴女が望む世界を…。
「孝直様。」
ととと、小さな足音を立てて駆け寄る女に振り返る。
「ああ、ななしか。どうした。」
今ではすっかり自分に懐いてあの時のような女らしい姿を見せる事は滅多にない。どちらかと言えば甘えたがりが正確か、兎に角俺がいなくなるだけでこんな風に探し回るから何処か愛らしい。
「突然いなくなったので、私……。」
「やれやれ、少し席を外しただけなんですが。それより気を付けろ、もし転びでもしたら……。」
「す、すみません………。」
しゅんと落ち込むななしだが、その腹は少し膨らんでいる。つまり、
「貴女と俺の子に何かあったら、俺も気が気じゃない。だから大人しく部屋に戻っていろ。」
そっと頬を撫でて落ち着かせると、嬉しそうに微笑みかけるななし。そうして彼女を自分の部屋に戻らせると、法正は空を睨みつけるように目を細めて
「大丈夫ですよ、例え魏が貴女を取り戻そうとしても」
時、既に遅し。
(手離すものか……武将としての彼女は死んだのだから、今は俺しか信用していない)
お礼文