嫌いになれないのは好きだから

『どうして…っ、分かってくれないんですか!法正さんの分らず屋!嫌いです……もう放っておいて下さい!』

『分かっていないのは……お前の方だろうが!』

『………っ、知らない!』














「…………………。」

涙、涙、また涙。彼が悪いのか自分が悪いのか、ななしは腫れぼったい目を擦りベッドの毛布に蹲っていた。枕は涙の染みですっかり変色しており、丸まったティッシュは無造作に散らばっている始末。

「………初めて見た、本気で怒っているの。」

上擦った声も掠れて喉がヒリヒリと焼ける様に痛い。こうして何時間も部屋から出る気にもなれず真っ暗な世界を一人で虚ろに過ごしている。

何がいけなかったか、友人の開くパーティに行く事を許してくれなかった法正なのか、相手が男として認識しながらパーティに行こうとしたななしがいけないのか。とはいえそこには女もいるし性格も皆穏やかで真面目、とても疚しい事を考える様な人達ではない。
それでも彼は首を縦に振らず、顰めた顔をして遂には冷静な彼が珍しく怒鳴ったのだ。そんな姿を今まで見た事なかった彼女は恐怖に怯みそのまま二階へ駆け込んで今に至る。

勿論、穏やかなななしも珍しく激しい怒りをぶつけた。あろう事か『嫌い』とまで言い放つばかり。そんな気持ちなんてこれっぽっちも無いのに。

「ああ………。」

今思えばやっぱり自分が悪かったかもしれない、不意に訪れる不安と後悔。この身を案じて引き止めてくれたのに、その気持ちを汲み取る事が出来なかった自分への憤りが込み上げてくる。

「本当に彼が嫌いになったら……私………っ……。」

ほとほと呆れて此処を出て行ってしまったら……そう考えるだけで再び涙が溢れて零れ始める。物音一つしないこの家にはもう彼はいないのか、今階段を降りてリビングに行っても香りだけを残して消え去っているのだろうか。

結局何があろうと最後には自分を責めてしまう、昔からの変えられぬ性である。

「………でも……仕方ない…ね……。いつまでも引きこもっていたって、どうにもならないし。」

せめてリビングの片付けだけでもしようとゆっくりと起き上がり、重い身体を引き摺ってはドアノブに手を掛ける。カチャン、と音を鳴らして控えめに取っ手を下げると、

「………………え。」

開かない、まるで何か大きな物に塞がれているように。

「やれやれ、やっとお出ましか。随分と待ちぼうけを食らったものだ。」

低い声が扉越しに聞こえたと思ったら、ドアに掛かった重みが一気になくなる。そうして立ち上がるは切なげに見下ろす法正。

「……………………。」

「酷い顔だ、狂う程泣いたのか。」

「…………ごめん、なさい。」

その眼を見る事が出来ずに俯きがちに床を見つめる。謝ったからといって許されるとは思っていない、言いたい事や怒りを受け入れる覚悟はとうに出来ているのだから。
ななしは下唇を噛み締めて込み上げる涙を必死に堪えようとした。が、法正はその唇に触れてそっと撫でる。

「………噛むな、傷がつく。」

「…………っ………。」

「怒鳴ったのは謝りますよ、俺も言い過ぎましたから。貴女を束縛する様でさぞや嫌な気持ちにさせたでしょうね。」

「…………違います!私が勝手な事を言ったから……それに法正さんは私を思って言ってくれたんですよね………。」

それは嫉妬なのか防護なのかは分からない。が、彼のななしに対する気持ちだけは人一倍強いのは十分伝わる。

「嫌いなんて嘘です……………だから、嫌いに……ならないで下さい……我儘なのは承知です、けれど……どうか……。」

今にも膝から崩れそうだ、脆い脚を何とか堪えながら法正の鋭い目を臆せずに見つめ返す。そうしてぼやける視界の中、彼は小さな溜息を吐いて垂れる前髪を流す様に掻き上げた。

「ああ、そんな事で俺自ら貴女を手放すと思いで?」

自信に満ち溢れた余裕の笑みを浮かべてはななしの頬に指を滑らせていく。

「この悪党を惚れさせたからには…どんな事があっても最後まで離れませんよ。例え、貴女が離れたいやら大嫌いだと泣きながら懇願したとしても、な。」

「………法正、さん……っ……。」

「愛や恋というのは不思議なものですね。時として自分が自分でなくなってしまう程に奥底の感情が剥き出しになる……全く、恐ろしく」

不治なる病だ、そう言ってこちらに向かって足を一歩踏み出す法正。ななしも自然と一歩引き下がり、相手が迫る度にまた一歩と後退していくとそこには先程まで蹲っていたベッド。膝がガクンと折れるとそのままマットレスに倒れ込んでしまう。

「ん………っ。」

「さて、喧嘩した後は勿論、分かりますよね。」

太腿に手を這わせてスカートを捲ると下着越しに割れる丘を擦りだす。ななしは吃驚して抵抗するように脚をばたつかせるが、安易に片足を持ち上げて思い切り開脚させた。

「ひぁ………っ!?何するんですかっ、ほうせ……さ………ん!!」

「仲直りのスキンシップですよ。見て分かりませんか。」

押しつぶす度に濡れる指の腹、下着にべっとりと着いてすっかり色を変えていた。

「……わかっ、り……ま……せ、っぁあ…!」

「なら分かるまで徹底的に攻めてやる。」

ぐりぐりと振動させればそれに比例して身体も悲鳴を上げ悦びを見せる。ななしは嫌々と首を千切れんばかりに振り乱しながらも身体は素直、嬉しさに次々と零れ出しては纏わり付く透明液。法正の指はあっという間に彼女の欲液塗れとなり、下着の役割もすっかり無意味となった。

「ぞくぞくしますよ、そういう顔。」

欲しいとせがんで強請る恍惚な姿に彼はゆっくり口角を吊り上げた。脚は上げたまま顔を近付けて真っ赤な舌で秘所を舐め上げれば彼女は掠れた声を押し切って劈く様な声を発した。

「ああ、これが良いんですか。」

じゅる、と啜る卑猥な音と吸い上げる引力でななしを瞬く間に頂へと誘う。そんな器用に舐める姿も艶かしく、尖る大きな喉仏をごくりと鳴らしては逃げる液を余す事無く貪り尽くしていった。

「あ…………あぁ………。」

「嫌がっていた割には淫乱だ。……だがそれも結構。」

下腹部で動く度に触れる彼の短い髪が異様に擽ったい。しかしふっくらとした唇が潤う膣を覆い、弄る舌がぬるりと中へ侵入する事でそんな気持ちも何処かへ吹っ飛んでしまう。

「んぅ…………っ。」

激しく掻き回されて焦らされる度に欲しくなる彼の物。口に出すのも相当な羞恥だが、言わずにはいられない位に魅了されてしまう。

「も……おねが……っ……くだ、さ……。」

「何が、欲しいと。」

分かっている癖に態とらしく聞き返すのは法正のやり方。息絶え絶えに強請った所でそれを簡単には聞き入れてはくれないのだ。
今度は舌ではなく二本の指が勢い良く挿入され、堪らず甘い嬌声を響かせる。

「……っは、俺の指をしゃぶりたいのか、それとも他の物がお望みか……。」

動かせば動かす程それだけで目が眩んで少しでも気を抜けばイッてしまいそうだ。しかし欲しい物はそれであってそれではない、もっと彼女を満足させる熱い何か。

「は、ぁ……っ、だめ……っ……。」

「腰が動いていますよ、厭らしいですね。……成程、純情な貴女もこういった情事では開放的になってしまうんですか。」

これは所謂言葉攻め、煽らせる事が愉しくて仕方ないのだ。

「ですが、それも俺との行為でなければいけない…そうでしょう?じゃないとこんなに良い締め付けは出来ませんよ。」

もう限界、酸素を思い切り吸い込むと言いたい事を気が済むまで言い放った。

「仲良くするのに…意地悪ばかりしないで下さい……!好きなんです…孝直さんが堪らなく欲しいんです!……焦らさないで、壊れる程に抱いて欲しいんです……!いっそ」

この身を砕いて喰らってと、張り裂けそうな位に思いをぶつければぱちくりと目を開かせ喋る口を止める法正。珍しく下の名前で呼ばれてつい思考を停止させてしまったようだ。

「……ああ、言ってしまったからには例え痛みがあったとしてもそれなりの覚悟を、ねぇ……ななし。」

完全に火がついてしまった。お互い座った状態になるとななしは法正の膝の上へ乗っかる形にさせられて徐に当たる熱い物。見ずとも分かる、脈を打って今にも降りかかりそうな勢いだ。

「……法、正…………。」

「残念、下の名前で呼んでくれたら嬉しかったんですが。」

目を眇めては悠々としたり顔を見せる。先程の喧嘩が嘘の様に瞳に優しく焔を宿して、ななしの悲しみや寂しさを一瞬にして薙ぎ払った。

「………孝直、さん………大好き、です…………あぁっ。」

告白と同時に挿入る熱は勢い衰えさせる事無く身体を貫通させる程に穿たれる。脚を交差させて彼の腰にしがみつくと根は一層深くなり内部を犯した。

「ふか、…ぅ…あ、あ………っ!」

「…………ふ、」

法正が微風の様な息をかけてはななしの額に口付けを落とす。その法悦とした表情は愛おしそうに、決して壊さぬように後頭部を引き寄せて逞しい胸板に埋めれば香る彼の清々しい匂い。目を閉じて誘われたくなる位の心地良さと意識を飛ばす位に激しい行為は相反するが確かに同調していた。

「ななし……愛している………。」

愛の言の葉を低い声に乗せて紡げば、ななしもまたそれに応えて快感に溺れて果てた。意識が霞んでいく中彼の鎖骨辺りに唇を押し付けると、ちゅっと音を立ててそのまま倒れ込む。そこには不慣れながらもほんのりと紅く染まった印が付けられており、法正は呆然としながらも小さく笑いそっと髪を撫でた。















「………………んー…………。」

頭と腰が痛い。昨日散々泣いた挙句仲直りという名の愛を受けて、色々な事を思い出せば意識がはっきりと覚醒し、漸くその目が開かれる。ごろんと寝返りを打てば既に彼はいなく、寝てたであろう痕跡だけが残されていた。

「法正……さん………。」

会社に行ってしまったのだろう、時計を見れば既に昼近くなっていた。もそもそと起き上がり階段を降りて行くと、ふと鼻につくコーヒーの香ばしい香り。行く前に淹れていったのであろうか、扉を開けてみると

「……………いる。」

「おはよう、随分と深い眠りでしたね。目は相変わらず腫れぼったいですが。」

新聞紙を広げて優雅に脚を組む法正が目に入った。姿はスーツではなくラフな格好をしていてすっかり休日気分。

「良かったんですか、今日会社でしょう……。」

「そんな貴女だって今日は大学でしたよね。良いんですか?ゆっくり寝ていて。」

「…………一日くらい大丈夫ですもん。」

「なら俺も一日くらい平気だ。」

何がともあれ昨日の件があった為、寂しい思いをしなくて済んだかもしれない。今は無性に人肌恋しく彼の側にいたい気分だ。

そんな気持ちに気付いたのか、ああ、と法正は言葉を続けた。

「行きませんか、何処かに。」

「え………。」

「折角互いに休んだんだ、買い物や食事でも行かないかと聞いている。……どうだ?」

つまりそれはデート。ななしは頬をみるみる紅潮させてはぎこちなくはにかんだ。

「…行きますとも、何が何でも行きますとも!」

彼の元まで駆けて目を爛々と輝かせれば、法正も嬉しそうに目を細めた。

「それとですね。」

彼の手招く仕草で鎖骨辺りに視線を持って行くと、そこには小さな紅い花がぽつりと咲いていた。

「…………やだ、私ってば……。」

「無意識に付けていましたよ、全く可愛らしい事を。」

耳まで紅く染めて押し黙ると、腕を引き寄せられて彼に抱かれる形となる。

「出掛ける前に、お返ししてあげましょう。」

そう言って法悦の笑みを浮かべる彼は、昨日を続きをしそうな勢いで深くキスを繰り返した。




(ちょっと待って下さい!これじゃ何処にも行けないじゃないですか…!)

(首に鎖骨に胸に脚……ええ、れっきとした倍返しですからね。そうと分かれば早速行くぞ。)



お礼文