「聞いてください!さっき、法正さんがですね……。」
まただ、また君は他の男の話題を持ち掛けてくる。前にも一度注意をしたのに、懲りずに満面の笑みを浮かべて。
「………そうか。」
君以外には興味ない、そう忠告した。だけど、いい加減聞くのもうんざりだ。
「ななし…………。」
これからの二人の事について、話そうか。
「教えてくれ………どうして君は俺以外の人と話すんだ……。」
そんな問を掛けて覆い被さる男の目は虚ろでありながら、しっかりと彼女をその曇る瞳に映している。
「……徐庶さん………私は…………。」
「言い訳なんて聞きたくないよ………。やっぱり、君は俺の事を愛していないんだろう?」
徐庶と呼ばれるその男は裸に近く、その薄い布切れを軽く剥いでしまえば生まれたままの姿になってしまう程だ。そして手には何やらねっとりと粘液のような物を纏わせ、つんと独特な匂いを香らせている。
そう、つい先刻まで、彼は己を慰めていた。愛し過ぎるあまり、彼女の目の前で欲を放ったのだ。息を切らせて苦悶する表情は、暗闇の中でもはっきりと把握する事が出来る。
「一方的な愛は報われないのは分かっている………でも、どうにも出来ないんだ。」
「違う………私は、貴方を……!」
手を伸ばそうと指先を動かすが、全く以って微動だにしない。何がそうさせるのか、身体は彼が飲ませた薬の所為で麻痺し、逃れる事の出来ない態勢にされているのだ。口以外は彼の思うがまま、いつ犯されてもおかしくはないこの状況。
「貴方を…………なんだい……?」
恍惚な表情で見下ろす徐庶に、懇願するように見上げるななし。愛おしそうに見つめる彼の姿に、無意識に身体は疼いて、やがては熱く火照りだしていく。
「愛して…………愛してます………。」
「言葉でなんか飽きる位に言える……。そうじゃないんだ、俺が欲しいのは君の心だ……!」
ぷつり、衣服が破れて糸が解れる音が途切れ途切れに響く。徐庶の手はななしの胸を掴み柔く撫で回していくと、あっと高い声を上げて麻痺する身体に快楽を呼び起こした。
「んっ…………んん…………!」
「身体は素直に感じるのにね………。」
呆れたように言葉を吐き捨てる徐庶。突起を痛い程に摘めば、それに応じてななしの表情も固くなり、悲痛の声を張り上げた。
「いっ…………やめ……っ!!」
「止めない……痛いのはお互い様だろう……。君だけ痛みを共有しないなんて、狡いよ。」
徐庶は胸にぽってりとした唇を宛て、尖った歯をちらりと剥き出しては肌に食い込ませていく。力を込めればその分奥へと入り、その箇所に朱い痕と深い歯型を刻んだ。
「ん、ぅ…………っ…………。」
「俺の事、嫌いかい?痛めつけるような酷い事をする俺を……憎んでる……?」
攻める様な言葉とは裏腹に、涙をうっすら浮かべて哀願する彼。今度は付けたばかりの傷を舌で舐め、微かに滲み出た血を己の唾液と絡ませていく。
「ん………それでも、俺はななしが好きだ………愛している………。」
自分に言い聞かせるように言葉を繰り返す。ななしは何度も腕を動かそうと試みるが、動くのは痺れのとれた指先がやっと。やはり薬の効果は完全に切れていないようだ。
それでもななしは彼に分かって欲しかった。なぜ敢えて他の人に近付くのかを。
「ね………っ……徐庶…さ………私、………ぁ………。」
「……………………。」
掠れた声をくぐもらせるは、彼の強引な口付け。それは言葉にしようと思えば思うほど深くなっていき、やがては舌で全てを支配されてしまう。逃げ場の無い舌は呆気無く絡め取られ、ざらつく舌の摩擦と熱い唾液が彼女の官能的な感情を燻っていく。
「ん…………はっ………ななし……。」
ぴちゃぴちゃと艶かしい水音を発し、角度を変えながら幾度も貪るように口を塞ぐ。低い声を色っぽく喘ぐ彼の声を聞くその度に彼女の下腹部は疼き出し、じんわりと中を潤わせた。
「……………脚を擦り合わせて、感じてるのかい。」
言われて漸く気付く、麻痺しながらも己の脚が物欲しそうに強請るのを。
「いけない子だ、だけど、簡単にはあげないよ。」
再び胸に唇と指が集中し、肝心なそこには一切愛撫を与えない。が、当然与えて欲しい刺激はそんな軟なものではないのだ。
「嫌…………っ、触って………。」
「…………………。」
ぐりっと突起を捻り、引っ張り上げる痛覚に身体は跳ね上がる。
「あっ……っんぅ……。」
「無理なお願いだ………今は罰を与えてるからね。俺の気まぐれに付き合ってもらうよ……。」
頬に濡れた指を滑らせて嘲笑う徐庶。いつものような優しい笑みではなく、支配欲に駆られ、独占する行為に夢中になっている顔だ。普通であればそれは不気味である。それを病んでいると言っても過言ではない。
「ななし………。」
が、彼女は微かに唇を動かした。声にはしないもの、それはもう嬉しそうに。
「ななし…っ…。」
何故そのような顔をするか、答えは至って簡単であり非常に複雑である。
「ななし………!」
自分の為に苦しむ表情と悲しげになる表情。ななしはそんな顔が堪らなく好きなのだ。
だから他の男の名を挙げては友好的と見せつけ、敢えて激しい嫉妬を覚えさせる。彼に独占してもらいたいが為に、彼だけに深く愛されたいが故に。どんな愛の形であっても構わない、自分に夢中になってくれるのであれば、加える痛みすら快感と成り得るとななしは考えていた。
「愛してます………徐庶さん………。」
そう、本当に愛している。一方的な愛と勘違いしないで、この思いは真実だから。
「それを証明してくれ………君の思いは、本当に此処にあるのかい……っ…?」
「ええ、あります……ありますとも……。私はいつだって徐庶さんの事しか考えていませんから……。」
「なら、もう他の人の事を楽しそうに語らないでくれ……俺は、君が離れるだけで無性に死にたくなるんだ……!愛しているから……愛しているんだななし……。君を殺したくない……。」
彼は首を締める動作をすかさず行い、狂ったように愛の言葉を言い放つ。若干ながら根本が締まり、息が止まってしまいそうになるが、加減をしてくれているお陰でこのまま死に至る程ではない。
しかし、ずっとその言葉を待っていた。
涙ながらに訴える言葉は、少しずつななしの心を満たしていく。自分なしでは生きていけない、それだけで十分。
「大丈夫です……私は何処にも行きません……貴方の側から離れません………。」
首に掛ける手を解いて自ら口付けを施せば、その分深く絡みついて接着する。徐庶は一心不乱に彼女を追い求め、後頭部をしっかりと押さえつけた。
「罰は幾らでも受けます……その代わり、その後は優しくして下さいね。」
「…………手加減出来る程俺は器用じゃないから……きっと出来ないよ。それなりの覚悟してくれ。」
言うと思った、ななしはそんな分かりきった目で彼を見つめる。それでも心は幾分穏やかな方だ。
接吻を交わしながら徐庶は指を中へと挿入する。別部分に愛撫をしていた所為か、濡れそぼつそこは指に液がねっとりと纏わり付いた。引っ掻く度に溢れる生暖かい感触が徐庶の理性を削り取っていく。
「ああ、感じてくれていたんだね……良かったよ。」
安堵しきった緩い表情とは裏腹に攻め立てる指はななしの余裕を尽く失わせ、それだけですぐに絶頂へと誘われそうになる。当然どの時機に彼女は逝くかは過去の経験で調査済み、寸前の所で動きを完全に止めて様子を伺った。
「はっ…………ん、ぅ……。」
薬の麻痺は殆どなくなり、今は寸前の快楽という麻痺に支配されている。びりっと全身に心地良い電流が駆け巡り、思わず恍惚とせざるを得ない程だ。
「徐庶…さ………お願い、しま………。」
故に、膨れるそれを欲さない訳がない。
「聞こえない……もっと、はっきり言ってくれ……。」
徐庶の掠れる低い声が幾重にも木霊して鼓膜を震わせる。求めるように、囁くように、甘い香りを漂わせ更に心を燻らせた。
「貴方の証を植え付けて………この身体に愛した痕を遺して…下さい……。」
耳朶を噛んで甘い囁きをそっくり返せば、徐庶の根は熱を帯びて一層天高く反り上がっていく。
「…………っ…………勿論……君の中に残すよ、全てを……。」
指先で触れるだけでそれは敏感に反応し、徐庶は苦悶に満ちた顔を向ける。するりと上から下にゆっくりなぞれば、短い呻き声を小さく漏らした。
「ぁ…………う、駄目だ………。」
「分かってます……わざとです。」
「ああ………酷いな………。」
指先から離れると向かうは彼女の聖域。濡れる入り口に密着させると、腰を深く落としてゆっくりと沈めていく。
「あぁ………っ……。」
焦らしている、そう感じていた刹那、突き刺すような刺激を不意に喰らう。それだけで目の前が真っ白になり、ちかちかと瞬く星が視界を埋め尽くした。
「んっ……!?…や、ぁ………っ!」
「仕返しだよ……もしかして、今ので逝ったのかい……?」
喉を鳴らして微笑む徐庶を眩ませた目で見つめるが、言い返す程の力が出ない。その言葉の通り、彼女は呆気無く達してしまった。
「でも、まだ感じてもらうよ。今の俺は君を三日三晩抱いても足りないくらいだ。」
撹拌するように腰をくねらせて出し挿れを繰り返せば、再び快楽が呼び起こされて甘ったるい嬌声が上がる。するとななしの腰も自然と浮いてその律動を催促させた。
「ななし…………ななし…………っ……。」
頬を紅く染め、息を切らせ、必死に彼は彼女の名を呼び続ける。激しく突き上げる痛みに耐えながらななしもまたそれに応えた。
「あっ、………それ、駄目……っ!」
じゅぶ、水っぽい音を立てて繋ぎ目から混ざり合った泡を生み出していく。その音を聞くだけで気持ちは更に昂ぶり、中の締め付けも強度を増していった。刺激を受けた根は吐出寸前。
「くっ………もう、………耐え切れない……っ!」
「徐庶…さ………っ、ぁ、あ……っ!」
その直後、中で蠢く根は破裂し、奥底まで熱い白濁液が勢い良く放たれていく。彼女も再び絶頂を迎え、大きく背を仰け反らせて痙攣させた。
「はっ……………あ、………。」
全身の力が抜け切り、蕩ける表情で見下ろす徐庶。その顔もまた彼女にとってはかけがえのないもの。
「…………抱かせてくれ…………。」
抜かずに彼は彼女の身体を抱き締める。手に込める力が強すぎる所為で、背には爪が深く食い込んで紅くなっているが、ななしは何も言わずそれを受け止めた。どんな痛みも受けて構わない、それをも愛おしいのだ。
「まだ、くれますよね……?」
私を望む苦痛なる表情、私を死ぬまで愛する痛みの証を。それが満たされる日はいつかは分からない。だけど、それまでは、貴方の望まない結末をいつまでも贈り続ける。
(もっと激しい嫉妬をして。いっそその手で終わらせてしまう位の)
お礼文