鬱くしい蝶々

美しい蝶が空を舞う。

この蝶はまだ囚われる事を知らない。

知らない故に、この蝶の末路はーー






「綺麗だよ、ななし。」

花嫁を美しく魅せる為のウェディングドレスは男の言葉とは真逆に煤けたような汚れが目立っている。

「こんな衣装は君を飾る為の道具でしかない。それに、君の美しさはこんなちっぽけな物で満たされる事はないよ。」

「徐庶、さん。」

「元直。そう呼んで欲しいっていったはずだけどな。」

ビリっと、衣類が引き裂かれる音がけたたましく部屋に響く。破れる度に見えない恐怖が押し寄せて、悲痛に顔を歪ませていると微塵も崩れぬ微笑みを返された。

「何故?」

何故、俺を選んでくれなかったのか。

「…………私、は。」

カタカタと歯を鳴らしながら、素っ気ない程に短い疑問に答えようとする。しかし、その先を聞きたくないのか、徐庶は倒れ込む彼女の首に手を宛てて、恰も締めるような仕草を見せた。

「………っは、あ………!」

「いいんだ、それ以上答える必要はないよ。君は優しいから、きっと俺に対して怒ったりしないんだろう。優しい嘘で誤魔化して、傷つけないように諭そうとするんだ。」

先程からドンドンと何度も扉を叩く音がする。きっと部屋に鍵が掛かってる事に対して不審に思ったのだろう。この式場のスタッフか、はたまた自分の旦那になる筈だった彼なのか。どちらにせよ、鳴り止む事のない騒音に徐庶は若干苛立っているようにも見えた。

「外野が煩いね。静かにしてほしいよ。」

「お願い………離して………。」

気が散ったのか緩んだ手の隙間に指を入れて外そうと試みる。しかし一時休んだとはいえ男の力は侮れず、結局指が挟まったまま何とか僅かに空洞を作るのが精一杯だった。

「そうだ、ななし。いっそここで誓い合おうか。」

「………なに、を……言ってるんです、か。」

「あんな男じゃ君は絶対に幸せになれない。だけど、俺は君を幸せにする自身がある。

ずっと君だけを見てきたんだ、誰よりも長く、長くね。」

すると突如としてウェディングドレスが大袈裟に引き裂かれ、無造作に投げ出される太腿。あられもない姿を曝け出され、堪らず小さな悲鳴が上がってしまう。

「ん………本当に綺麗だよ……こんな布切れじゃ君を美しく魅せる事は出来ないくらいに。」

逃げようと必死に足で蹴り飛ばそうとするが、すっかり恐怖に屈して力が入らない。徐庶は彼女の抵抗を一切気にする事なく、容赦なく足を広げて奥へと腕を伸ばした。

「い、やぁっ………!」

下着を爪で引っ掻いて破くと、そのまま指を隙間に挿れて感触を味わうように蠢く。未だ乾いた其処は激しい摩擦に勝てず痛みだけが襲い掛かる。

「いた、い……っ、いたい……!」

「ごめんね、すぐに好くなるから。」

床にへばりついた状態で起き上がる事も許されず、彼の指はどんどん奥へと呑み込まれていく。肉壁を厭らしく弄られ、感じたくもないのに身体は素直にそれを受け入れてしまい、羞恥に顔を真っ赤にしながら生理的な涙を零し続けるななし。

「やだ………あっ……………!」

「気持ちいいかい?そうだよね、指がすっかり濡れているのが決定的な証拠だ。」

ウェディングドレスは最早その役目を果たせず、ふくよかな胸もこぼれて無様に徐庶の前へと曝される。当然目の前に差し出されてそれに触れない訳がない、突起を指で擦りながら柔く撫でくり回して容易く形を変えてしまう。

「あぁ……っ、ん………!」

「とても甘そうだ………。」

硬くなった突起を甘噛みして、舌で転がすように器用に舐める徐庶。嫌でも甘い嬌声が幾度も木霊し、息をするのも辛うじて精一杯な状況を覆す余地もない。
狂ったように走り出した思考が冷静な判断へと追い付かず、彼のなすがままに犯され尽くす靭やかな肢体は麗らかに汗ばんでいく。飛び散った透明な液体は果たしてどちらなのか。

「ん………そうだ、子供が欲しいね。君によく似た子供がいいから……ええと、女の子とかどうかな。」

「お願い……っ、もう、やめて……!」

「君がいけないんだよ。他の男なんか選ぶから……一緒にいた時間が長いのは俺の方なのに。」

「た、確かに……貴方は私の大切な人……だけど、あの人を選んだのは……っ、あっ……!」

「ななし。」

阻むように濡れそぼつ秘所に宛てがわれるは、雄々しく反り立つ彼の物。ぬるりとした熱が先から伝わり、思わず言葉を失って息を呑むななし。今にも弾けてしまいそうな其れは早くと言わんばかりに脈を打って行為を急かしている。

「徐庶、さ………。」

「………はぁっ……もう、手加減、できない。」

長い睫毛を揺らして苦悶するような色っぽい表情に一瞬心臓が止まってしまうが、はっと我に返った時には既に遅く、中へと捩じり込まれる膨張した肉棒。

「あっ……ああ………!!」

「はっ……あ……う、ななし……ななしっ……!!」

潤いに反して激しく打ち付けられる腰に耐えきれず、痛みを伴いながらだらんと放り出される四肢。欲のまま律動が淫らに行われ、彼女は短い科白すら繰り出す事が不可能になっていた。煤けて汚れたドレスは二人の混じり合わせた液体に支配され、二人を繋ぐように淫靡な粘液が細い糸をひいている。

扉の叩く音が次第に遠のいて、無我夢中に貪る男の姿がぼやけていく。

(……駄……目、もう……)

その刹那、薄っすら霞んだ意識の中で、不意に見せた徐庶の表情にななしは胸に突き刺さるような鋭い痛みを受けた。


「ななし……ごめ、ん………っ。」


その目には涙が溜まっており、強烈な背徳感を味わいながら、絞るように言葉を囁いたような気がした。そんな垣間見る唯一の正気さに一瞬目を見開くが。

「………っ……はぁっ……。」

吐き出された白濁液は直に彼女の最奥へと流れ込んだ。受け入れる準備が出来ていた身体は彼色に染まっていく感触を堪能し、全てを絞り取るように激しく収縮する子宮。内側で萎んでいく物をずるりと引き抜けば入り切らなかった液体が太腿までこぼれていく。

「………………。」




そうか、彼は、被害者だ。





もとより私は、徐庶を心の底から愛していた。

だけど、彼の両親は決して許してくれず身を引く事しか出来なかった。

忘れた訳ではなかった。忘れられる筈もなかった。

この結婚は、自分が望んで受けた儀式ではない。

だけど、自分を愛してくれる人を蔑ろにする事が出来なくて、敢えてこの道を選んだ。

それが、この結果に繋がってしまった。

優しい彼を狂わせたのは、自分の意志があまりにも弱かったから。

どんな障壁があろうと貴方を一番愛してると、真っ先に言えばよかったのに。



私は、どうすればよかったのだろう。



「…………っ、ふ………う………っ!」

ぼろぼろと、とめどなく涙が流れ落ちていく。痛いのは身体ではなく、心、裏切ってしまったという悪徳が己の精神を徐々に崩壊へと導いていく。

「ななし…………?」

虚ろな彼の瞳に映る彼女はどんな姿か。涙の跡が僅かに残っていた。

「私、本当は………本当は、貴方を愛していた……だけど、それが許されなかった………。」

「どういう、事なんだい……。」

「全ては私の弱さ故……憎むなら、愚かな私を憎めばいい……。」

「ねえ、ななし。」

これ以上はと、背けるように顔を横に向ければ、一匹の美しい蝶が歪んだ視界に入ってくる。自由しかしらない蝶だったが、不覚にも近くにあった蜘蛛の巣に囚われてしまった。身動き出来ずに羽撃くことすら出来なくなってしまった蝶は、そのまま蜘蛛の餌食になるのだろう。

翅を千切られ、堕ちていく。

嗚呼、なんとも、鬱くしい。


「ななし……っ!」


こじ開けられた扉の先は、もう何も視えない。




(純白な心は永久に失われたのだ)