異物混入するのか?


 霧崎第一は元男子校の名残で、女子の人数は未だ少ない。わたしが女子の四期生にあたるが、女子生徒は学年の二割ほどだ。
 自然、女子の競争率は高くなる。もちろん男子にも選ぶ権利はあるので誰でもモテる現象は起こらないが、共学よりはモテやすいと言えるだろう。少なくとも、注目を集めやすくはある。
 バレンタインデーが近くなると妙に浮ついているのも、同じ理由だろう。学生の交友関係は学校単位だ、日常的に接する肉親以外の異性が同じ学校の生徒のみ、というのは珍しくない。霧崎第一の男子生徒たちにとって女子とは、わたしたち数少ない霧崎第一女子生徒なのである。
 
「期待されてるとは思ってた。面と向かって言われることもあったから」
「見ていて気の毒だとは思っていたが、既製品蒔きという手段に走るのは意外だな」

 古橋くんは、わたしが渡したばかりの小さな包みを眺めている。
 手作りではないにしても気は使っており、決してスーパーの袋詰めを撒いているのではない。お気に入りの洋菓子店にお願いをしてマドレーヌを個別に袋に入れてもらい、比較的よく話す男子生徒に渡しているのだ。
 
「料理は苦手なのか?」
「人並みには出来るよ。お菓子作りも、クッキー焼いたり簡単なケーキ焼くくらいは」
「なら、作った方が安上がりだったんじゃないか。恩も着せられるだろう」
「手作りってあんまり良いイメージないんよね。ちゃんとした工場とかじゃなく、家で片手間に作るわけだし、なんか嫌じゃない?」
「……潔癖か?」
「そんなつもりはないけど。仲が良いとか、一緒に作ったとかならまだしも……あえて手作りをあげようとも、手作りを食べようとも思わん。素人が作るより既製品の方が美味しいし」
「一理あるな。さっき女子から貰っていた手作りと思しきお菓子はどうするんだ」
「ちゃんと食べるよ。ちょっとテンションは下がるけど」
「では、お返しは俺も既製品の方が良いか。パンでも焼いてこようかと思ったが」
「お返しとか気にしなくていいけど……パン?パン焼くの?」
「特技のようなものだ」
「めちゃ気になるから焼いてきて欲しい。パン焼けるってすごいね」
「?手作りは好まないんだろう」
「"古橋くんが焼いたパン"への興味が遥かに上回った」
「他の男子もそのつもりで、由都にバレンタインを頼んだんじゃないのか」
「……言われてみれば確かに。いやでも手作りだよ?こわいじゃん」
「俺の手作りパンもこわいのか」
「異物混入してないでしょ?」
「由都の手作りには異物混入するのか?」
「入れないよ」
「なら良いんじゃないのか?」
「でも手作りだよ?」
「俺の手作りは?」
「楽しみにしてる」
「由都の手作りは?」
「手作りは嫌じゃん」
「?」
「?」

 会話が進まなくなり二人で首を傾ける。
 ともかく、パンを焼いて来てくれるそうなので、予備で持ってきていたマドレーヌもあげた。

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