あくどぅー


 わたしはバスケ部ではない。中学でも高校でも、バスケ部に入っていない。親しくしている人がバスケ界でそこそこ有名なプレイヤーなだけで、わたしは関係がない。
 が、わたしの部屋には月バスと呼ばれる雑誌が数冊ある。大なり小なり玲央ちゃんが掲載されているものだ。バスケ関係者風に言うと"無冠の五将の夜叉ファン"である。
 
「もしかしてと思って見直したら、花宮くんいた」

 華奢で顔立ちも幼い花宮くんは、長めの髪も相まって女の子のようだった。他の選手よりやや小柄なのも一因だ。機嫌を損ねそうなので言わないが。

「"五将"のくくりは一緒だからな。実渕しか見てなさすぎだろ」
「あくどぅー」
「あ?」
「悪童とか夜叉とかって雑誌編集者命名?」
「さあ。そうじゃねーの」

 悪童という呼び名は、ラフプレーによるものではなくスティール率の高さからきたものであると玲央ちゃんから聞いている。戦略を見抜き崩してくる花宮くんのプレイが、性質の悪い悪戯に見えたのだろうか。
 
「今じゃ"キセキの世代"ばっかりだろ」
「うん。どこ進学するかが話題みたいだけど、花宮監督はスカウトとかせんの?」
「しねぇよ。別に、バスケで全国制覇したいわけでもねーしな。そこそこ勝ち進まねぇと潰し甲斐がねぇからトレーニングするってだけで」
「玲央ちゃんとこはキャプテンが来るらしい」
「"五将"三人揃っても、"キセキ"には勝てないと踏んだのか」
「戦力集中してんね。洛山倒せるとこあるんかな」
「他の"キセキ"次第だろ」

 玲央ちゃんと花宮くんしか見ていないので、話題の"キセキの世代"がどれほど強いのかいまいちピンとこない。玲央ちゃんのテンションや花宮くんの反応からして、相当強いのだろうとは思う。上には上がいるものらしい。
 
「"キセキの世代"は個人の呼び名ないよね」
「ネタ切れだろ」
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