馬鹿にしたろ


 古橋くんに話したように、わたしは手作りの食べ物をプレゼントしたりされたりということに大して魅力を感じない。何かトラウマがあるわけでもなし、潔癖のつもりもないが、良いイメージがないのだ。
 当然花宮くんにも既製品を用意した。しっかりバレンタインに乗っかろうと、マドレーヌではなくチョコレート菓子である。

「花宮くんはカカオ一〇〇%しか食べないらしいって女子が言ってたけど、ビターなら大体食べられるよね?」
「カカオ一〇〇%のチョコなんて、素人がどうこうできるレベルじゃねーだろ。よく知りもしないヤツからの手作りを受け取らねぇための予防線だ」
「やっぱり。わたしも手作り苦手派なんよね」
「それでも渡してくるヤツはいるがな」
「食べるん?」
「なわけねーだろ」

 ゴミ箱行なのか他の人にあげてしまうのか確認するのは控えておく。「由都は」と友達からもらったお菓子の入った紙袋を示されたので、「食べるよ」と頷いた。全く知らない他人からなら捨てるが毎日顔を合わせているクラスメイトからだ、若干テンションは下がるが食べる。
 
「カカオ九五%くらいのなら食べたことあるけど、めちゃ苦かった」
「食えねぇことねーだろ」
「花宮くん、苦いの得意よね。ブラックコーヒー飲むし」
「文句あんのか」
「ありません。煙草は吸わんでね」
「吸ったことねぇし吸う予定もねぇ」
「肺の綺麗な花宮くん、んふっふ」
「由都の笑いのツボは謎だが、今ちょっと馬鹿にしたろ」

 花宮くんがわたしに合わせてくれていた歩幅を大きくした。身長差が二〇センチほどあるので、わたしは競歩か小走りのようになる。
 駅は目前だ。鞄を持ち直し、笑いながら走った。

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