必殺技かよ


 わたしは片手で顔を覆い、逸らし、花宮くんから距離をとろうとしていた。手をつないだままなので奇妙な体勢になっている。花宮くんは直立のままだ。きっと怪訝な顔でわたしを見ているのだろう。
 花宮くんと一緒に下校するようになってからもうすぐ一年になる。が、こんなことは初めてだ。

「おい、恭夏」
「……うん」
「……恭夏」
「……」

 名前とは、首輪のようなものだと思う。命を握られているような、そんな気分。だからわたしは名前より名字で呼ばれる方が気が楽だ。あだ名ならまだしも、名前だけで呼ばれると心臓に悪い。仲のいい友達にもそうしてもらっている。
 嫌ではない。が、命を握られる感覚に慣れない。

「まだ覚悟が足りんから、ここぞって時にそう呼んで」
「必殺技かよ」
「……まこと」
「……」
「……」
「自分で俺の名前呼んだクセにダメージ受けてんじゃねぇよ」
「この複雑な気分を味わってほしかったけど、玲央ちゃんに『あなたくらいじゃない?』って言われたの思い出した……」
「実渕のことは名前で呼んでんだろ」
「呼び捨てじゃないし。……真くん。真くん、真くん。あ、いけそう」
「恭夏ちゃん」
「……ギリセーフ、生きてる」
「これは俺がキメェ」
「……花宮くん」
「はあ……いつまでそうしてんだ、帰んぞ、由都」
「うん」

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