迎えに行くよ


 スマートフォンを充電したまま、持ってくるのを忘れた。昼休みに鞄に入っていないことに気付き、昼食を早めに切り上げて花宮くんのクラスに向かった。今日は一緒に下校出来る予定の日なのだ、連絡待ちではなく時間を決めるか、教室まで来てもらわなければ。
 教室をのぞくと、花宮くんはきれいに猫を被って楽しそうにクラスメイトと話していた。

「花宮くん、花宮くん」
「!ああ、由都」

 花宮くんは友達にことわって、ドアまで来てくれる。
 多少視線を感じて居心地が悪いが、わたしと花宮くんの組み合わせを見て納得したような顔の生徒が多い。

「スマホを忘れてき、たみたい」

 花宮くんが不自然に手を動かした。花宮くんは何でもなさそうな顔をしているが、きっと手を取ろうとしたのだろう。近くにいる時はほとんど手を繋いでいる。最早クセだ。
 いくら隠していないといっても、生徒が大勢いる中で手をつなぐことは躊躇われる。わたしは気づかないふりをして、どうしようかと首を傾けた。

「部活が終わったら迎えに行くよ」
「分かった。じゃあ、また放課後に」
「ああ」

 控えめに手を振ると、また花宮くんが少しだけ不自然な動きをする。
 思わずわたしが笑うと、花宮くんは一瞬だけ猫を外してミルクチョコを食べたような顔をした。

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