笑ってんじゃねぇか
放課後、教室に残って自習していると、珍しいことに部活終わりの花宮くんがやってきた。
時計を見ると、普段連絡をくれる時間だ。特別早く部活を解散したわけではないのだろう。
「連絡くれたら行ったのに」
「職員室に用があったついでだ」
勉強道具を片づけて、帰り支度をする。いつも居残っているわたしは、教室の戸締りが日課だ。窓の鍵を全て確認し、教室の後ろのドアを施錠して、教室の電気を消す。
花宮くんは適当な机に腰かけて、スマートフォンを触りながら待っている。手伝ってくれないが、最初から期待していない。
わたしが教室の鍵をとると、チャラチャラという音に気付いて花宮くんが腰を上げた。
「花宮くん」
教室を出る前に、正面から花宮くんに抱き付いた。肩にかけていた鞄は床に落として、背中に腕を回す。頭上から小さなため息が降ってきたが、振り払われはしない。
花宮くんはわたしの髪で遊んでから、抱きしめ返してくる。ゆるい抱擁だ。
「んふふ、ふっふ」
「キメェくらいに上機嫌だな」
「なんだろ、人肌恋しいってやつ。はー落ち着く」
「嗅ぐな」
動物の匂い付けのごとく頭を押し付ける。身長差があるので鎖骨あたりだ。ごりごりする。
堪能してぱっと顔を上げると、優等生モードとは違う、穏やかな顔の花宮くんがいた。
花宮くんはすぐに眉間にしわを刻み、わたしへ体重をかけてくる。
「んん無理重い腰が逝く腰が!」
「立ちブリッジ出来るんだろ」
「柔らかさの問題じゃな、んふっふ」
「笑ってんじゃねぇか」
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