そういうところあるよね


 週末、部活が早く解散するとのことで、わたしは花宮くんの家にやってきた。多少わたしを構ってくれる気があるらしいがスカウティングしたい試合もある花宮くんと、場所はどこでもいいので一緒にいたいだけのわたし。おうちデートは最適だ。
 花宮くんのお母さんは仕事らしく、花宮家は花宮くんとわたしの二人だけだ。初めてでもないので特に緊張もしない。
 わたしは今日買いたてほやほやの文庫本を読み進める。花宮くんはパソコンでDVDを流しているがイヤホンをしているので無音。味気ないが充実したおうちデートである。
 文庫本を半分ほど読み進めたところで、お手洗いを借りた。頭がぼうっとするので、深呼吸と背伸びをしながら花宮くんの部屋にもどる。
 花宮くんが椅子に座ったまま、首を鳴らしていた。イヤホンを外しているので一段落したらしい。スカウティングがどういうものなのかイマイチ理解していないが、花宮くんがとんでもなく要領良いのは分かりきっている。

「お疲れ様」
「っ出てたのか。いっつも静かすぎんだよ」
「邪魔になりたくないからね。少し早いけど、ファミレス行ってご飯食べる?」
「今食ったら夜に腹減るだろ」
「花宮くん、よく食べるけど燃費悪いよね」
「由都と比べりゃあ、誰だって大食漢で高燃費だっつーの」
「そりゃそうだ」

 同意しながら、花宮くんの足元に座り込む。いつものことなので咎められない。邪魔したくないが近くにいたいわたしのベストポジションだ。薄暗くなるので読書は出来ない。
 うーん、ひざ下が長い。花宮くんは、バスケ部の中では平均的か少し小柄なくらいらしい。それでも女子として平均的なわたしと比べると長身で、足も長い。
 まだなにか作業があるのだろうかとぼんやりしていると、ノートパソコンを閉じる音がした。

「そっち行くから」

 花宮くんが宣言と同時に立ち上がり、充電していたスマートフォンを持ってベッドに浅く腰掛ける。わたしは今度は文庫本を持って、花宮くんの足元に座り込んだ。ここなら明るいので読書が出来る。
 花宮くんの片足を抱え込んだまま読書を再開する。しばらくそのままだったが、頭を執拗に撫でまわされて中断した。髪が視界に入って読書どころではない。

「んふっふ、花宮くん」
「あ?」
「鳥の巣になる」
「お似合いだろ」
「三歩で忘れる鳥頭だって?」
「自覚あんじゃねえか」
「昨日、登校したら自分の席ど忘れして焦った。あるよね、たまにこういうこと」
「ねぇよ。つかそろそろ飯行くぞ」
「イエスマム」
「誰がマムだ」

 ぺい、と随分優しくわたしの腕をほどき、スマートフォンと財布をポケットに突っ込んでいる。わたしも文庫本とスマートフォンをかばんに仕舞った。
 花宮くんの部屋を出て、先に玄関に向かう。電気を消した花宮くんも続き、彼が靴を履いたのを確認して扉に手をかけた。

「待て、由都」
「どした、ん?」

 指先でフェイスラインをなぞられたかと思えば、軽く伏せた目が至近距離にあった。
 唇に柔らかい感触。
 花宮くんの顔はあっという間に離れ、彼は何事もなかったかのように玄関の扉を開く。

「……花宮くん、そういうところあるよね」
「はあ?」
「なんでもございません。お邪魔しました」

 不自然に上がってしまう口角を鎮めながら、いつものように手を繋いだ。

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