大和撫子で可愛い子


 一度はきちんと顔を合わせて話さなければ、と使命感にかられてセッティングした花宮との食事。コートでのゲスクズっぷりしか知らないわたしは、思いの外穏やかな空気に拍子抜けしていた。この男も、一男子高校生だったということだろう。
 それでも、大事な友人がクズプレイヤーと付き合っているという事実は中々つらいものがある。なんでこの面白眉毛と。眉毛フェチだったのだろうか。花宮が、イケメンではないにしろブサイクでもなく、一般的な高校生からすれば高身長で、鍛えており、誰もが裸足で逃げる頭脳を持ち、コート外ではハイスペック優良物件であるとしても、他人の不幸は蜜の味な事故物件だ。
 そこでわたしは、わたし自身の精神衛生安定のために、良い事を思いついた。
 恭ちゃんが花宮を好きだというより、花宮が恭ちゃんに首ったけだと考えるのだ。今までなぜ気付かなかったのだろう。花宮は恭ちゃんに対してだけ良い男なのだ。なぜなら恭ちゃんが大好きだから。
 先にハマったのも花宮!より相手のことが好きなのも花宮!

「ええ、ええ、分かるわ。恭ちゃんは大和撫子で可愛い子だものね」
「なんだ急に……大和撫子って柄じゃねぇだろ」
「いつも笑顔で、うるさくなくて、手先も器用で、勉強熱心で、陰口とは無縁で放送禁止用語も口にしない。花宮が好きになっちゃうのも分かるわ」
「美化するにもほどがある」
「"可愛い"も"好き"も否定しないのね?」
「ブスと付き合う趣味はねぇし、好ましくない女子を近くに置くほど酔狂じゃねぇ」
「キャー熱烈!不覚にもトキメいちゃったじゃないの!それ恭ちゃんに言ったことある?」
「必要がない」
「乙女心分かってないわねぇ。ちゃんと言葉にすることって大事なのよ?」
「オカマうっぜぇ……」
「オネエよ!」
「行き過ぎた世話焼きはただのお節介なんだよ」
「恭ちゃんが心配なのは本当だもの」

 わたしの上履きに盛られた画びょうを自分の上履きに移し、靴下のまま廊下に立ち、昇降口前の掲示板に鼻歌交じりで画びょうを刺す恭ちゃんを見てから、わたしは彼女の虜なのだ。
 嫌がらせの犯人だと勘違いして怒鳴ったわたしに怒るでもなく、嫌がらせに顔をしかめるでもなく、「この画びょう自腹なんかな?」と的はずれなことを言った恭ちゃんは、確かに変わっていた。変わっていたが、清々しくて格好良かった。
 信者だと言われればそうかもしれないし、モンペという言葉も当てはまるかもしれない。恭ちゃんは、わたしを疲弊させていた奇異の視線や嫌がらせを、デコピンだけで吹き飛ばしてしまったのだ。

「わたしに負けず劣らず恭ちゃんのことが好きなんだと思えば、その面白眉毛も許せる気がしてきたわ」
「さては実渕、喧嘩売ってんな?」
「そう軽率にイライラしないでよマコちゃん」
「うわ鳥肌……」
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