許可しねぇけど


 スカートのポケットでブゥンブゥンとせわしないスマートフォンを出し、ため息をつく。メッセンジャーアプリの通知を確認して、当たり障りのない言葉を送った。
 不意に手元に影が差す。花宮くんがスマートフォンの画面をのぞき込み、名前とアイコンを確認したのか、顔をしかめていた。

「……誰だ、この男」
「同中の高橋くん。最近急に連絡してきて、口説かれてる」
「ふうん……」

 花宮くんはトーク画面をスクロールして、わたしと高橋くんとのやりとりに目を通している。やましいこともないので、そのままスマートフォンを渡した。
 高橋くんは中学で親しかった部類の男友達だが、卒業してからは連絡をとっていなかった。久しぶりに連絡が来たかと思えば【俺、由都のこと可愛いと思ってたんだよね】から始まり【メシでも行こーよ】【久々に会おうぜ】等々。彼氏がいると伝えると【メシくらいいーじゃん】と言われる。
 下心があるとはっきり言っている相手と会うのは気が進まない。そもそも、現在さほど親しくない人に割く時間も体力もない。わたしは人と会うのにもそれなりに体力を使うタイプだ。二つ返事で会うことを了承するのは、花宮くんと玲央ちゃんくらいのものである。

「高校は?」
「X農のはず」
「ああ、偏差値五〇の。ブロックしろよ」
「一回やったら、別の友達経由で連絡きたんよ」
「曖昧な返事ばっかりしやがって……」
「一応、仲良かったから罪悪感が」
「……出かけたくないんだろ?」
「うん。同窓会ならまだしも、二人だし。高橋くんの為にヒマにはなれないかなあ」

 昨夜、あまりにもしつこかったので同様の文章を送っている。返事は【ひでー笑】【ヒマあるにはあるってことだろ?俺今度の日曜、部活休みなんだ】である。わたしの話を聞いていない。
 わたしは何事も楽しむことをモットーにしているが、不愉快に思うことも当然ある。
 
「ったく……」

 花宮くんがわたしのスマートフォンを操作する。向けられた画面はインカメラになっており、不思議そうな顔をしたわたしが映っていた。おや、と思っている間に花宮くんがわたしの後ろに入り、抱きしめるように腕をまわしながら左手の中指を立てる。良い笑顔だ。優等生花宮くんと素の花宮くんが共演している。
 カシュ、と潰れるような音とともにシャッターが切られる。スマートフォンはまた花宮くんに操作されたのち、わたしに返却された。
 画面を確認すると、撮りたてのツーショットに続いてメッセージが送られていた。

【下心ありきで恭夏と出かけたいなら、俺の許可取って。許可しねぇけど。】

 わたしの足取りは自然と軽くなる。

「助かった、ありがとう」
「はいはい。ああいうのはな、ハッキリ拒否しないと通じねぇんだよ」
「わたし基準ではハッキリ言ったほうなんだけどなあ」
「同中だからって甘すぎんだよ」
「あと若干わたしにもダメージきてる」
「……文面でも食らうのか」

- 23 -

prev振り返らずに聞いてくれnext
ALICE+