でもおやつある!


 クラスは違うはずなのに、原くんがしれっとわたしの前に座った。わたしの机にコンビニの袋を置き、おにぎりやパンを広げる。机の三分の一が占拠されたところで、横から黒いお弁当箱が登場した。古橋くんだ。
 普段一緒に食べている友達が「あっ」と言う顔をした後、親指と人差し指をくっつけて"OK"とジェスチャーしてくる。別のグループに入れてもらう様子を見ながら、わたしもお弁当を開けた。

「すくねー。おっきくなれないよ?」
「一気にそれだけ入る胃袋の方が信じらんない」
「俺達(運動部男子)とでは比較にならないとしても、由都は少なすぎると俺も思う」
「でもおやつある!」
「お、いいね、何あんの?」
「リッチなポッキー。居残り中のおやつにするので原くんにはあげません」
「えー」

 コンビニのレジでくじ引きやっててさ、と原くんがまいう棒を一本出す。そういうことならと、ポッキーの小袋を開けた。

「古橋くんも食べていいよ」
「俺は菓子類持ってないんだが……卵焼きとコロッケ、どちらがいい?」
「卵焼き。……というか大きくなれんって、わたし女子の中では平均的よ」
「肘置きサイズっしょ」
「原は小さいと言うが、そうか、平均なのか。もう少し高い印象だった」
「あー、それたまに言われる。なんでだろ、態度でかいんかな」
「っげほ、ごほッあーもう!気管入った!」
「まあ、俺たちよりだいぶ低いことには変わりないな」
「原くんと古橋くんは、男子の中でも高いもんね」
「そーそー。一番態度のデカいお花が一八〇センチないってい、ごほっ」
「ふっふふ、めっちゃむせてる」
「落ち着け。そこで花宮が聞いているが落ち着け」
「ゲッ……今回はやいじゃん」

 古橋くんに言われて見ると、ドアのそばに穏やかな表情の花宮くんが立っていた。「一哉」と短く呼びかけ、あごをしゃくる。
 立ち上がった原くんに腕を掴まれ、わたしも食事を中断した。残った古橋くんに留守を任せ、原くんとともに廊下に出る。原くんはわたしの後ろに立って、隠れられるはずもない長身を小さくしていた。

「花宮くん、原くんは今回なにしたの?」
「今週二度目の朝練サボりだ」
「今日は火曜日……原くん、残念ながら擁護のしようがない」
「お、お布団が原くんを離してくれなかったからさぁ……」
「起きらんねぇならさっさと寝ろ」
「うっす。じゃ、俺らまだメシ残ってるのでこの辺で」
「今日は気絶するように寝られるメニュー組んでやるよ」
「……た、たのしみ」
 
 背後から震える声が聞こえる。制服がぐいぐいと引かれ、原くんを背に隠したまま後ろ歩きで移動する。よほど花宮くんと顔を合わせたくないのだろう。
 後ろ向きで教室に戻りながら、小さく手を振る。嘆息する花宮くんは、去り際にひらりと手を振った。

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