喧嘩売ってんね


「いいよね、花宮くんに教えてもらえるんだから」

 テスト前には「化学がヤバイ」が口癖のクラスメイトから、羨ましそうに言われた。
 花宮くんは、ゆるぎない学年トップである。テスト順位が開示されることはないが、先生の言葉や花宮くんのクラスメイトの反応で明らかだ。他学年も"花宮"を知っているくらい、花宮くんは優秀だ。
 花宮くんと付き合っているとそう思われるのかあ、と頷きながらお弁当を食べていた本日の昼休み。なぜそれを思い出したのかと言えば、下校中、花宮くんとテストの話になったからである。
 テスト前は原則部活禁止だが、優秀すぎる花宮くんは例外だ。自主練であったり分析であったり、やることは尽きないらしい。部活動よりは早く切り上げているけれど、わたしがそれなりに居残り自習する時間はある。

「特に焦ってなさそうだよな。毎日必死こいて勉強してる"くせに"」
「毎日必死こいて勉強してる"から"。でも社会系は嫌だなあ」
「覚えるだけだろ」
「興味がないから頭に入らん」
「ふはっ」

 馬鹿にされている。が、花宮くんと比較すればまごうこと無き馬鹿なので、甘んじて受ける。
 わたしは、勉強のことで花宮くんを頼ったことはない。所詮、自分の頭の問題だからだ。今時、ネットを頼れば類似問題も探せる。解答も解説もない超難問にぶつかったら頼ることもある、かもしれない。
 負けず嫌いだと指摘されれば否定しない。ただ、花宮くんに負けたくないというよりは、自分の矜持だ。

「テスト期間中、どっか行くか」
「んふっふ、他の生徒に喧嘩売ってんね」
「終わんの早えし部活はねぇし。テストに問題はねぇんだろ?」
「ソワソワはするけどね。行きたいところあるの?」
「……由都は?」
「んー……水族館や動物園はどうですか。平日だし、人少なそう」
「じゃあ水族館で」

 即答された。「動物園はにおいもあるし水族館より賑やかだよね」と口にすれば、「天候に左右されるだろ」とため息交じりに返答された。
 案外、わたしとのお出かけが楽しみなのかもしれない。

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