呼ーんーだ?
校門には花宮くんではなく、同じクラスの古橋くんがいた。
特別親しくも嫌厭でもない、一クラスメイトだ。あまり表情が変わらず、一人でいる印象がある。
あれ、と足を止めていると、古橋くんが微塵も表情を動かさず校門の外を示した。
「花宮ならこっちだ」
「どしたん?」
「今日は俺たちも一緒に帰ろうかと」
「俺たち?」
古橋くんと校門の外に出ると、花宮くんの他、男子生徒が四人いる。バスケ部なのだろうが、残念ながら誰が誰やらわからない。声をかけかねて居ると「前髪が原、ソフトモヒカンが山崎、立ち寝してるのが瀬戸、特徴のない不良が松本だ。全員一年」と古橋くんが淡々と紹介してくれた。
古橋くんに続いて輪に近づく。花宮くんの表情を見るに、彼らは花宮くんの了承を得ずここにいるのだろう。
「花宮、彼女が来たぞ」
「ギャハハハ!カノジョ!」
「お前も普通に恋愛とかするんだな」
「うッぜぇ……引っ付くんじゃねーよキモイ!」
原くんが笑い、松本くんが茶化す。この調子では花宮くんの近くに行くのは無理そうだ、と古橋くんの隣に並ぶ。
古橋くんが首を傾けた。相変わらず真顔なのがアンバランスで面白い。
「花宮のとこに行かなくていいのか」
「あそこには混ざらんほうがよさそう」
「混ざらなくても、絡みにはくると思うが」
「呼ーんーだ?」
原くんが古橋くんと反対隣りに並ぶ。口元に深く弧を刻み、口を動かしている。ミントの香りがするので、ガムを噛んでいるらしい。
原くんは「肘置きー」と言いながらわたしの頭に腕を乗せた。彼はパーソナルスペースが狭いのだろうか。普段なら振り払う所だが、花宮くんの手前大人しくしておく。いやらしさを感じないという点も、拒絶しない一因だ。
「ねーねー由都チャン。花宮のどこが好きなの?眉毛?」
「一哉ァ!」
「んふっふ、眉毛フェチなわけではない」
「え……お花かわいそう……」
「由都は真面目に答えなくていいし一哉はその顔やめろ」
「原くん、お花って呼び方可愛いね」
「でしょ?すげー嫌がられるよん」
「チッ聞けよ」
機会があれば"お花"呼びしてみたい。嫌がることは目に見えているので、機会はないかもしれないが。
徐々に体重をかけてくる原くんに不満を訴えていると、いつの間にか古橋くんと入れ替わっていた山崎くんが引きはがしてくれた。
古橋くんは松本くんと一緒に、寝ながら歩いている瀬戸くんの背を押している。
「由都が潰れんだろーが」
「十分ちっさいから平気っしょ」
「ふっふ、まだ縮みたくない」
「……普通そうなのに、花宮なんだよなあ」
「なにザキ、由都ちゃんのこと狙ってんの?」
「違ぇよ」
「ヤマぁ?」
「違ぇよ!花宮の彼女なんか進んで狙わねーよ!」
「花宮くんの彼女"なんか"?」
「そういう意味でもねぇわ!」
山崎くんが元気に吠える。普段からいじられる役回りなのだろう。突っ込みがキレキレで清々しい。
原くんがケラケラ笑うのにつられて、わたしも笑う。ふと、花宮くんに以前言われた言葉を思い出した。「由都は古橋と原を足して二で割った感じがする」と。古橋くんとは似ていないと思うが、原くんと近いものがあるのは認めざるを得ない。
「ったく、喋るより足動かせ。暗く、」
「由都が心配だから?」
「健太郎も起きてんなら自分で歩け」
「ふあー……」
「由都。一哉に付き合ってたら帰れねぇぞ、こっちこい」
「うん」
「さりげない俺ディス」
自然と差し出された手を握る。いつものポジションに収まったところで、しまった、と花宮くんを見上げた。花宮くんも花宮くんで、やっちまった、と言いたげな顔だ。
古橋くん以外が、吹き出したり肩を震わせたりと賑やかな反応をしている。
「……なんで由都まで笑ってるんだ」
「ふっふ、なんでもない、つられただけ」
手を振り払われなかったことが存外嬉しかったのだとは言わなかった。
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