聞いてみよか?
わたしは部活に所属していないので、クラスの係決めや委員会決めで無所属になることはない。一年のときから放送員会を貫いてきたわたしは、三年になって放送委員会の委員長になった。
先輩後輩の関係があるのも、委員会の場だけだ。「先輩」と呼びかけられるのも、毎回新鮮な気分で聞いている。
委員会の集まりを解散し、教室の戸締りをしているとき、一年生の女子生徒二人組がおずおずと話しかけてきた。別クラスのはずだが、数少ない女子生徒同士だ。委員会を快適に過ごすため、同性の友人を確保していたらしい。
先輩って話しかけずらい存在だよなあ、と内心頷きながら、普段の数倍優しく話を促した。
「なに?どうかした?」
「先輩って、バスケ部に彼氏がいるって聞いたんですけど……」
「そう、だけど、一年生にまでそんな情報って回るの?」
「バスケ部とゴルフ部は人気あるので……けっこう、そういう話も多くって」
「バスケ部って、女子マネの募集とかしてないんでしょうか?今も誰もいないって聞いたんですけど……」
「あー女子マネかあ……」
聞いたことがない。募集の話も、人手が欲しいという話も、聞いたことがない。そもそも、花宮くんはわたしに部活の話をほとんどしないので分からない。
彼女らは一年生だ。クラスメイトにバスケ部がいたとしても、一年生の彼らに「先輩に女子マネ募集あるか聞いて来て」というのは酷だろう。和気あいあいしている部活や、親しみやすい先輩がいる部活ならまだしも、運動部は上下関係が厳しい。入部したてなら尚更だ。
同級生の男子には頼みにくいが情報は欲しい彼女らは、悩んだ末にわたしをあたったようだ。目的の部活と親しいが、部活関係者ではないわたしに。
「聞いてみよか?」
「あ、ありがとうございます!」
「お願いします!」
「また明日にでも、どっちかのクラスにお知らせしに行くよ。募集してないかもしれないけどね」
「はい!本当にありがとうございます」
「いいよ、いいよ。ところで、わたしの彼氏が誰かってことも知ってるの?」
彼女らは、バスケ部の誰を狙っているのだろうか。まだ狙いは定まっていないのだろうか。まさか、人の彼氏を狙ったりはしないだろう。いつぞやの先輩のように、花宮くんと別れてくれと言われることもあるのだろうか。
そんな単純な好奇心から問いかけてみると、二人は小声で同時に、違う名前を口にした。
「古橋先輩だって」
「原先輩だって」
「んっふふ、ふっふ」
困惑する二人には悪いが、愉快な勘違いだ。訂正するのも面白くないので、どちらでもないよ、とだけ伝えた。
ちなみに、女子マネの募集はしていなかった。
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