雨乞い儀式
由都の考えていることを理解出来たことはない。ほぼ毎日会って話して時間を過ごしていても、出来るのは想定だけだ。
以前由都が言ったとおり、他人の理解などできないので当然だ。俺自身、理解しきろうと思ってもいない。
が、今ほど、理解出来ないと思ったこともないだろう。
「さむい!」
日が落ちた上、分厚い雲で空は真っ暗。土砂降りの雨。ぬかるんだグラウンド。由都は傘もささずにグラウンドの真ん中に立ち、楽しそうに雨に打たれている。周囲に人の気配はない。部活を終えた生徒の姿さえないのは、この暗さ相応の時間だからだ。
俺は監督業で部室に残っていた。由都と帰る日ならばともかく、帰宅を急ぐ理由もないのに雑務を持ち帰りたくなかったからだ。ようやく終えて学校を出ようとしたところ、由都のクラスの電気がついていることに気付き、まさかと思って連絡をしてみれば【寝てた、びっくり】。こっちがびっくりだ。
仕方ない、と家まで送るつもりで昇降口で待った。由都は戸締まりをしてすぐに降りてきたが、由都の傘がさした途端に突風で壊れ、何を思ったかそのままグラウンドに走り出たのである。
俺は自分の傘をさし、由都の壊れた傘を持って、由都の奇行を眺めている。
「雨乞い儀式に成功した民族かよ」
「はぁみゃーくん」
「滑舌。風邪ひくし制服汚れんぞ」
「明日休みだからクリーニング出す。あ、ローファーがどろどろ……」
「言わんこっちゃねーな。それで電車乗んのか?」
「コンビニでタオル買うー」
全身ずぶ濡れで、カバンもずぶ濡れだ。テキストは無事だろうか。中でタオルでも置いて守っているのならばいいが。
「たまには、思い切り馬鹿にならないとね」
「……他にもなんかあっただろ」
「花宮くんもどう?」
グラウンドの真ん中で雨を浴びる様子は、奇行には見えるが不思議と違和感がなかった。飽きもせず放課後の教室で居残っているからか、人気のない学校がよく似合う。由都も、放課後の学校は自分のテリトリーだと思っているのかもしれない。
だとしても、大雨の中、学校のグラウンドで一人はしゃぐのはホラー映画のようだ。
汚れる革靴には目をつむり、由都に歩み寄る。由都は顔にはり付いた髪をうっとうしそうにかきあげていた。
毛先を絞る由都に、俺の傘を傾ける。
「帰んぞ」
「うん」
「それから、」
上を向かせて、傘の中でキスをする。どこの青春映画だよというセルフの突っ込みも忘れない。
由都は口角を上げている。満悦の表情が、何故か少しだけ腹立たしい。
「由都の馬鹿はうつるのかもな」
合わせた唇は冷たかった。
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