めちゃめちゃコロコロ


 新しく来た若い男性教員がイケメンだと女子生徒に評判で、いけ好かないと男子生徒に不評だった。
 担当が他学年なので、遠目に見るだけだったが、たまたま話す機会があった。職員室に行った際、挨拶をして、わたしのクラス担任の居場所を聞かれただけだが。

「一年の谷口先生、いいにおいするんよ。どこの柔軟剤かな」

 笑顔が爽やかな好青年、という印象だった。いけ好かない要素はまだ分からないが、滲み出るナルシーに拒絶反応を示す生徒が多いのかもしれない。
 わたしは"話題の人物と遭遇した報告"のつもりで話を振ったのだが、花宮くんの声は予想外に低かった。

「あれは柔軟剤じゃなくて香水だろうし、教員も生徒も大半が男のキリイチで香水ふりまくってあたりが信用ならねぇ。実際、前職の塾講で女子高生とデキてクビんなってコネでここに来たっつー噂があるし、そもそも由都は柔軟剤でも荒れやすいんだろ。近付くな」
「めちゃ喋るやん」

 おまけに噂は初耳だ。出処を聞くと、例の女子高生の親友が原くんと知り合いらしい。世間が狭いというか、原くんの交友関係が広いというか。

「花宮くんは柔軟剤?香水?いや、におうとかそういう意味じゃなくてね」
「あー……制汗剤じゃねぇか?」
「そっか、運動部だもんねぇ」
「人によるだろ、元男子校だから余計に。俺もむさっ苦しいのは御免だから、部員に最低限気は回せっつってるけど」
「マメだ」
「由都は……室内ペット飼ってる割に、動物のにおいしねぇな」
「猫は体臭がほぼないから。その上でめちゃめちゃコロコロするしシュッシュする」
「ああ、獣臭かったら猫吸いなんて流行らねぇか」
「わたしは猫吸わんけどね。でも花宮くんは吸う」
「吸うな」
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