ヘマトフィリアですか?


 もしや、と思うと同時、箱ティッシュから勢いよくティッシュを引き抜いた。軽く鼻に当ててみると血がつく。予想が当たったことに満足しつつ、ティッシュを軽く当てながら鼻をつまんだ。経験上、五分つまみ続ければ血は止まる。ティッシュを鼻に詰めると人前に出られないだけではなく、ティッシュの取り換えでかさぶたまではがれてしまい、血が止まりにくくなるという。
 わたしは時計を確認し、ティッシュを交換しつつ待つ。手が疲れるので、手も左右で交代しながら止血すること五分間。
 無事に鼻血は止まったようだ。スマホのカメラを鏡代わりにして顔も確認する。

「あ……?」

 鼻血対処に内心拍手を送っていると、読書しているはずの花宮くんが困惑気味に口を開く。ゴミ箱に入った血のついたティッシュを見て、眉を寄せた。

「なに静かに出血して静かに止血してんだよ、言えよ」
「ヘマトフィリアですか?」
「違いますけど?ビビるわ普通に」
「あんな試合しといて……」
「んなこと言ってっと、可愛げなくなるぞ」

 目を瞬く。花宮くんは意地の悪い笑顔だ。
 可愛げ"なくなる"、ということは。そういうことなワケで。わたしは気恥ずかしさを覚えながらも、花宮くんに頭を押し付けた。

「花宮くんに可愛いと思ってもらえんくなるのは嫌だなあ」
「……安心しろよ」
「んん」
「……マジ照れしてんじゃねーよ。こっちまで恥ずかしくなんだろ」

 無理なことを言わないでほしい。花宮くんだって妙に早口なくせに。

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