憶えてればな


 帰り道、花宮くんって霧崎第一開校以来の逸材って言われるらしいよ、と何気なく口にすると驚きも感動もなく「知ってる」と頷かれた。教師から散々もてはやされているのだ、自然と耳に入るのだろう。

「由都はなんでキリイチに来たんだ。キリニの方が近いだろ」

 霧崎第一高校は都内有数の私立進学校だ。元男子校の名残で男子生徒が圧倒的に多く、お坊ちゃん校だった名残でゴルフ部が強い。今は、以前ほど富裕層は多くないし生徒の学力レベルもピンキリだ。時代は変わっていくものである。
 霧崎第一から少し距離はあるが、電車で行ける範囲に霧崎第二高校も存在する。こちらは元々共学の学校で、第一よりも部活に熱心に取り組んでいる。

「単にネームバリューかなあ。キリニだと部活入って結果残さんと行った意味がない雰囲気だけど、キリイチは卒業したってだけで価値があるから得」
「つってもな。男子ばっかりのむさくるしい学校に……」
「みんな身ぎれいだから、そんなに不快感はないよ。キリニのスポ根精神にはついて行けんし」
「ああ……キリニの連中、ウゼェからな」
「見学とか行ったの?」
「練習試合でな。マジ寒気する」

 花宮くんの青春関係地雷は分かりやすい。切磋琢磨、一生懸命、力を合わせて、仲間を信じて。そういった言葉とそれに基づく行動が大嫌いなのだ。そんなリア充青春学生を正攻法"外"で叩きのめし、怒りに打ち震えながらも何もできない様を眺めるのが楽しいらしい。歪みまくっている。 

「花宮くんの試合観に行きたい」
「チッ……来んなよ。どうせ洛山は勝ち進むんだ、実渕の試合に行けばいいだろ」
「バスケ観戦したいというより、玲央ちゃんを見たいし、花宮くんも見たい。面白いしね」
「俺まで"面白い"枠にくくるのはどうかと思うぜ」
「こっそり行くから」
「……ウチ(霧崎第一)だと分かんねぇようにしろよ」
「うん」

 見られたくないというよりは、わたしが霧崎第一生だと知られるリスクの問題らしい。私服で行くし、暗くなる前に帰るつもりだ。わたしも、絡まれるのは回避したい。

「行っていい試合があったら教えてね」
「……憶えてればな」
「んふっふ」
 

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