弱味握られてる?


 お盆、京都の高校に進学した友達が帰省してきた。中学での友達で、卒業してからもちょくちょく連絡をくれる優しい人だ。普段は部活が忙しく帰省する暇はないが、お盆休みは数日確保されたらしい。
 お昼には少し早い時間、カフェで待ち合わせをする。わたしが先に到着し、その五分ほど後に友達もやってきた。
 数か月ではあまり変わらないが、やはり新鮮な感じはする。久しぶりのテンションでひとしきり盛り上がると、さっそく切り込んできた。

「それで!なんで、よりにもよって花宮真と付き合うことになっちゃったのよ」
「玲央ちゃん顔めっちゃ怖い」

 玲央ちゃんはれっきとした男の子だが、口調は女性的で呼び方も"ちゃん"付けを好む。だが女性になりたいかといえば違うのだ。それが自分に合っていると思うからそうするだけで、女性になりたいわけではない。恋愛対象は性別に関わらず。己を貫く、カッコイイ男の子である。
 その玲央ちゃんが何故花宮くんの話題を振ってくるのかというと、二人とも有名なバスケットプレイヤーだからである。
 玲央ちゃんは中学の時から、自分と同様にプレイヤーとして知られていた花宮くんと面識があったらしい。「そういえば霧崎第一に、五将の一人が進学したらしいのよね」と花宮くんの存在を教えてくれたのは玲央ちゃんだった。
 キューピット、とも言えると思う。そうこぼすと、花宮くんはホワイトチョコを口に放り込まれたような顔をするし、玲央ちゃんはそんなつもりじゃなかったのとガチ凹みするので、言わないようにしている。

「そりゃ、わたしはプレイヤーとしての花宮しか知らないけど、相当よ?知ってるでしょ?」
「観戦したしね」
「……恭ちゃんから見て、アイツはどうなの?」
「とんでもなく頭が良くて、人間かどうか疑うレベルの外道」
「弱味握られてる?」
「そんな物騒な関係じゃないよ」
「じゃあどうしてなのよ……恭ちゃん、石橋は叩きまくって自分より重い人を先に歩かせてから行くタイプでしょ」
「ううん……だから、かもしれない。優等生バージョンじゃない花宮くんは、輪をかけて合理的で効率主義っぽい感じ。わたしに愛想が尽きたら『いらない』って言ってくるよ」
「最っ低な男じゃない」
「変に勘繰ったり悩みすぎなくていいから、気楽だよ。きっと隠し事もとんでもなく上手だけど、面倒くささを隠してまで恋人なんて作らんでしょ」

 玲央ちゃんの顔は変わらずこわい。美人の真顔は迫力がある。
 わたしが花宮くんを語るのはおこがましいしが、間違ってはいないだろう。誰にでも優しい優等生ならともかく、花宮くんは頭が良い故に無駄なことが嫌いだ。わたしが煩わしくなったら、そばに置き続けることはしないと断言できる。何らかの作戦に"彼女"という存在が都合がいいだけだとすれば、わたしよりも頭のいい女子や、花宮くんに心酔している女子を据えておけばいい。

「『いらない』って言われてないから、わたしはまだお気に入り。"だから"わたしは花宮くんのことがとっても好きなんよ」
「……案外、恭ちゃんの方が花宮を尻に敷いてるワケ?」
「んふっふふ、なにそれ。出来るわけないじゃん」
「好きになったのは花宮が先で、あなたのことが好きな花宮を、あなたは好きなんでしょ」
「わたしのこと好きになった人誰でもいいってんじゃないよ、わたしも好みくらいある。それに、花宮くんがわたしを知るより、わたしが花宮くんを知ったのが早いしね」
「……わたしのせいね……」
「優等生な花宮くんは有名だったから、玲央ちゃんのせいじゃ」
「……でもクズな花宮を知ったのはわたしのせいでしょ……」
「……そやね」
「二面性を知らなければ!付き合うこともなかったんじゃないの!?」
「うん、それはそう思う。優しい人は多いからね」
「信じらんないわよ、なんでクズさを知って惹かれるのよ……」

 玲央ちゃんはこれでもかとため息を吐いて顔を覆った。
 わたしは笑っておしぼりでペンギンを作っていたが、ゆらりと顔を上げた玲央ちゃんに思わず笑顔をひっこめた。

「いいわ……バスケでボコボコにしてあげるわ……」

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