ドクソ真面目ちゃん


 バスケ部の中心はすっかり花宮だ。部活掌握も近いだろうと感じるこの頃である。
 花宮は特別誰かを贔屓することはないが、俺をはじめ数人と行動することが多い。仲良しこよしではないが、気が合うというか、波長が合うのだろう。

「花宮ってなんで由都と付き合ってんの?ドクソ真面目ちゃんじゃん、あいつ」

 部活終わり、原が急に切り出した。花宮をうかがうと、くだらねえと顔に書いたまま着替えを続けている。毎日ではないが週に二・三回は彼女と下校しているので、今日も一緒に帰るのかと問えば、「日が短くなると先に帰らせてる」と悪童とは思えない優等生然とした返答をされた。

「無視かー。いやでも、不思議じゃね?不思議だよね、ザキ」
「俺かよ。その女子のこと全然知らねぇんだけど」
「知らないから気になるんじゃんザキ馬鹿なの?」
「あ?流れるように罵倒してくんな。そーいや、古橋は同じクラスだろ?どんなやつ?」

 話をふられ、また横目で花宮をうかがう。下手なことを言うと機嫌を損ねそうだ。一人の女子生徒にベタ惚れな花宮は想像できないが、お気に入りを貶された反応は想像できる。
 俺は少し考えてから、無難なことを口にした。同じクラスだからといって親しいわけではないのだ、俺だってよく知らない。

「何が楽しいのかよく笑ってる。……ドクソ真面目ちゃんだからといって、イイコちゃんとは限らないんじゃないか。俺達だって、バスケに取り組むドクソ真面目なクズだろう。花宮なんて優等生とクズの二足のワラジなんだぞ」
「ウケる」
「良かったな」
 
 一人で楽しそうな原は何よりだが、俺も気にならないと言えば嘘になる。
 あの花宮が、だ。
 優等生面して高校生活の演出として作ったにしては、部活終わりに待ち合わせて下校するなど手が込んでいる。そもそも、優等生面を強要してくる存在などわずらわしいはずだ。花宮は興味のないことには全く目を向けないし、面倒がる。恋人など面倒くさい筆頭ではないのだろうか。もしや、彼女は花宮の素を知った上で付き合い、花宮もごく一般的な高校生として恋愛をしているということなのだろうか。
 正気を疑う。彼女の方の、正気を疑う。

「花宮でも、彼女に『好きだ』とか言うのか」
「ブッフォ!」
「ぁあ゛?」

 純粋な疑問を口にしてみると、ザキが吹き出し、花宮からガンを飛ばされる。

「恋人なんだろう?告白もあっただろうし、好きだの愛してるだの、言うこともあるんじゃないか」
「んでんで、『んなわけねぇだろバァカ』までセットで付いてくるんでしょ?」
「花宮お前、マジか!似合わねー!ツンデレかよ!」
「……こんなに元気なら、明日からのメニュー考え直した方が良さそうだな?」

 比喩でもなんでもなく、部室の温度が下がっていく。背筋に冷たいものが走り、俺はそっと花宮から視線を逸らした。
 俺は帰り支度に集中したが、原はめげない。ここに繊細な神経をした人間はいないが、原ほどの怖いもの知らずはそういないだろう。俺は花宮の地雷をつつくことはしても、原のようにタップダンスは出来ない。

「いつから付き合ってんの?」
「……」

 花宮の顔は渋いが、先ほどよりはいくらかマシだ。

「……インハイ予選の後」
「花宮の猫かぶりは」
「知ってる」
「うっわ、由都の趣味悪すぎ。正気?」
「明日筋トレ追加な」
「エッ」

 俺が思うに留めたことを、原はつるっと口にする。口は災いの元とは、こういうヤツの為にある言葉だろう。

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