人間太鼓判が押されたからも、仕事は特に変わりなかった。前のりして人間の避難を促したり鬼の拠点を突き止めたり、場合によっては血鬼術の手がかりを探したりもする。あとは戦闘後の被害把握と隠人員派遣の依頼なんかをする。藤襲山の遺品回収も交代していない。
誰にも弁明出来ないのがもどかしいのだが、わたしは元々、時機を見て鬼殺隊を抜けるつもりだったのだ。吸血鬼の外見の変わらなさは、とても人間社会で生きていけないと知っている。それがいつの間にか"抜け忍で中身は変わっている"ことになっていたので、「あれ、それでいいの?」と流されているだけ。従って、特に仕事外で顔を隠したりもしていない。髪型を変えて印象操作はしているけれど、その程度だ。「マジで同一人物では?」となったら、とんずらする所存。
つらつらそんなことを考えながら、鬼討伐の打ち上げカツ丼を食べる。
「……ここまで来たら、鬼殺隊に寄り添うのもアリかなあと思うこの頃です」
「ふむ……木路がいなくなるのは困る。正直困るから、ありがたいことではあるな」
炎柱が飯をかきこむ合間に返答してくれる。いつぞやわたしを斬った炎柱の次の次の次の次の柱の子である。炎柱は、間違えて隠を斬るという悲劇を繰り返さないため、交代があると一々顔合わせを要求してくる。なんやかんや炎柱とは親しいほうだ。
「木路は、代変わりを感じさせないほど仕事にぶれがないし、能力も高いままだと聞く。危険の多いこの組織において、貴重な人材だ」
「ここの代金、わたしが持ちます」
「よもや!」
嬉しくなるとついお金を出したくなってしまう。純血種様に貢ぎまくった両親の血が流れていると実感する瞬間である。必要なだけ無制限で給金が出る柱相手に食事代を奢ることが、どれだけ価値があるかは知らない。ようは気持ちである。
炎柱ががつがつ食事を進める横で、一足先にお茶をすする。うまい、を連発する彼は本当によく食べる。他の柱と食事をしたことがないので比較は出来ないが、一般人よりは遥かに食べる。フードファイト並である。店員からの心配そうな目には「いつものことなので大丈夫です」と返しておいた。
炎柱はどんぶりタワーを作ってお茶をあおった。「冷めてしまった」とこころなしかしょんぼり。熱いお茶をおかわりして、ようやく満足そうに息を吐いた。
「木路は、何かしたいことがあるのか?」
「そんなこと言いました?」
「『鬼殺隊に寄り添うの"も"アリ』なのだろう」
「あー……。ひとを探しているんです」
「それは迫一族の悲願か? 木路個人の尋ね人か?」
ひとりしかいないので二つの問いはイコールだ。どちらともとれるように「そんなところです」と卑怯な返答をした。炎柱は気づいたようだったけれど、追求はされなかった。ただでさえ強気な眉がもう一段階主張を上げただけである。
「では、探している理由は?」
視線をぐるりと回してから口を開く。
「仲間を探しています。見つけてどうなるかは、見つけてみないと分かりません」
「忍か?」
「わたしと同じです」
「鬼殺隊にいると?」
「秘密です」
「人には明かせぬ事情か」
「今日は、やけに質問が多いですね」
「木路のことを何も知らないと気付いただけだ。煉獄家と付き合いは長いはずなのに」
「そうは言っても頻繁に会いませんし、秘密主義なのですよ、わたしは」
「むう」
炎柱は明らかに不満そうだ。オラオラと脅されないだけ彼はわたしを信用してくれている。これが蟲柱だったなら、恐らく既に刀を抜かれている。
事情を根掘り葉掘り聞かれるのも、炎柱に対して伏せ続けるのも、まして嘘をつくのも心苦しい。炎柱の鴉が大きな鳴き声――デフォルトで大きい――を上げたのを合図に、さっさと立ち上がって会計を済ませた。
「では、次また生きて会いましょう」
「……ああ、もちろん」