俺は親なんですけどね

「安室サンが錦マウントをとろうとしてくる」

 夕食時、深刻な顔で景光が切り出した。意味が分からずに首を傾けていると、景光が携帯の画面を示す。そこには『ポアロに錦ちゃんがご来店』とだけ書かれていた。絵文字や顔文字はない。
 どうやら、錦がポアロに来店したことを安室が景光に逐一連絡しているらしい。確かに昨日、少年探偵団の子どもたちとポアロに立ち寄っている。

「マウントってどういうこと?」
「『俺はこんなに錦と親しいんだぞ』っていう自慢みたいな。一緒に来店して驚かせてやりたいくらいだ」
「楽しそうね」
「でも出来ないんだよな、流石に。安室透の潜入先に、凌ならともかく俺が行くのはなあ……江戸川コナンもいるから怪しまれそうでこわい」
「否定できないわね」
「あ、でも松田ならセーフかな。今度、松田と一緒に行ってみれば? 松田も空気読んで安室透として接するだろうし」
「景光、そんな適当なこと言っていいの? 安室さんって危ない橋を渡っているんでしょう」
「ごめんなさい……」
「やらないとは言わないけれど」
「ほらぁ」

 次、松田と会う機会があれば場所はポアロでもいいかもしれない。心のメモ帳にマーカーを引いておく。もしも松田が安室の本名や情報を口走りそうになっても、自分がいればなんとかなるだろうという自惚れもある。
 それにしてもさ、と景光がホッケの身をほぐしながら言う。

「癒しを感じているにしても、異様に見えるというか。錦、安室サンに何かしたの?」

 随分失礼な問いかけである。

「何もしていないわよ」
「あいつこんなに子ども好きだったかな。錦が子どもっぽくないってのもあるだろうけど……友人の命の恩人って分かって拍車かかったのか?」
「安室さんは親しい人が命の危険に遭い過ぎね」
「実際、二人死んでるからなぁ」
「あ、『まずそう』って言ったわ」
「何が?」
「わたくしが安室さんに。顔色が悪かったから」
「捕食対象として見てるのか。こわいな?」
「安心して、景光は美味しそうよ」
「こわいな!?」
「冗談よ」

 景光の生気をもらったことがあるので百パーセントの冗談ではないが、少なくとも今は九割くらい冗談である。残りの一割は緊急時の場合だ。

「まーでも、『まずそう』発言が原因ではないだろ」
「そもそも、理由なんて本当にあるの?」 
「やっぱり単なる癒しか。相当疲れてるだろうからなぁ」
「だから、わたくし、積極的にポアロに行っているの」
「そして俺に連絡が来る」

 景光は決してうんざりしているのではなく、面白がっていて、ひいては嬉しそうだった。

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