いつかスーツのプレゼント

 家事は基本的に景光が行う。光がいたときは光メインで行っていたが、光が出て行ってからは景光が仕事の合間に家事をこなしている。
 錦があまり家事に手を出さないのは、危ないからと景光ストップがかかっているからと、体格不足で錦には難しいからという二つのまっとうな理由がある。それでも、まったくのノータッチというわけではない。景光が本職に戻り、心身ともに疲労して帰宅するようになってからは尚更だ。風呂掃除は低身長でも難しくないし、台に上って洗い物をするときもあれば簡単な料理もするし、洗濯物だって畳むのである。
 夜に部屋干ししていた洗濯物を畳んでいると、風呂を先に終えて遅れた夕食をとっていた景光が言った。

「服、買うか」
「急にどうしたの?」
「ちょっと袖が短く見えた。身長伸びてる? ……ってそりゃそうか、今まで成長しなさ過ぎて忘れてたけど子どもってでかくなるもんだよな。今までが微々たる差だっただけか」
「景光がお仕事ばかりで、わたくしを見ないから、急に大きくなったように感じたんじゃない?」
「その言い方ちょっと彼女みたいで笑える」

 疲労で笑いの沸点が低い景光は、ビール缶を持ちながら自分の発言に笑っていた。

「俺もちゃんと自分の金使えるようになったし、セール品じゃないの買おう。デザインが絶妙に外してる売れ残りのシャツ着てるのも、結構好きなんだけどな」
「パジャマにしている服ね。景光、わたくしより、自分にお金は使わないの?」
「俺ぇ? 俺はあんまりなぁ……服は動きやすければそれでいいし。スーツもそう何度も買い替えるようなもんじゃないし。ちょっと飯に奮発するくらいで十分」
「……わたくしにお金さえあれば」
「錦はその気になればいくらでも貢がせられるんだろ、こわいからそうこと言わないで」
「パパ、このパンツゴムが伸びてるから捨てていい?」
「おー捨ててくれ。そういう所帯じみた発言をしててくれ」

 食事を終えた景光が食器を流しに持っていく。そのまま食器を洗う音がする。
 錦は畳み終えた洗濯物を、景光の部屋と自分の部屋を持ってき、タオルを洗面所に片づけた。

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