天敵

 太陽が眩しかった。
 


「騒ぐなよオメーら」
「大事はないそうですが、大丈夫でしょうか」
「いっぱい食わねえから倒れちまったんじゃないか?」
「錦ちゃん寝てるのかなあ」
「そう思うんなら静かにしなさい、あなたたち」

 そんな会話が聞こえてきて目を開けた。だるさを感じながら体を起こす。白いカーテンで隔離されたベッドに寝かされていた。
 聞こえてきているこどもの声は、少年探偵団のものだろう。それをたしなめる大人の声もする。保健医だ。
 錦は、なぜ保健室で寝ることになったのかと考え、すぐに思い至る。二時間目の体育の授業で倒れたのだ。今日は妙に天気が良かった。木陰で見学しなくとも大丈夫だというのは過信だったらしい。
 ベッドの上で伸びをする。ベッドに直接寝かされたからか上靴もスリッパもなかったので、靴下でリノリウムに降りた。
 そっとカーテンを開けると、子供たちが心配を顔に浮かべて囲んでくる。

「A組の子が話してるのを聞いたの」
「お見舞いに来てくれたのね、ありがとう」
「倒れたそうですが、頭打ったりしていませんか?」
「痛くもなんともないわ」
「ちゃんと朝飯食ってるか?」
「シリアルを食べたわ」
「あなたたち……橙茉さんを疲れさせちゃダメでしょ」

 哀が深くため息をつく。「ごめんなさぁい」と小声で謝罪しているのに笑って、こちらもまた心配そうな保健医にいくつか質問をされた。軽度の熱中症という診断らしい。平気よ、ぐっすり寝たわ、側転だって出来るわ、と大丈夫アピールをして保護者のお迎えは回避する。仕事中の景光に連絡をつけるのは難しいだろうし、ついたとしても小学校まで来られる可能性は低いだろう。
 光彦が、錦の履物がないことに気づき、歩美や元太と連れ立って保健室を出て行った。「走っちゃだめよ」と哀が念押しをする。
 ありがたく上靴を待つとして。錦は保健室の時計を探した。

「授業はもう終わってるぜ」

 コナンが言う。三十分くらいかと思っていたが、長時間眠っていたらしい。

「今日は家でゆっくりしてろよ」
「わたしも賛成。異変があったら、すぐに親御さんに言うのよ」
「はぁい」

 良い子の返事をすると、二人に嘆息された。返事だけは良いんだから、と思われている気がする。遺憾である。

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