ひみつへいき

 鼻のきく錦にとって、人探しはそう難しいことではない。案内人がいなくとも、消火栓の前にしゃがみこんでいる安室をすぐに発見できた。コナンは既にいなかったが、錦がここに来るまでに軽い足音を聞いていたので、景光か赤井のどちらかと合流するつもりなのかもしれない。
 錦は、安室が集中して作業をしている邪魔にならないよう気配なく近づこうとして、やめた。突然声をかけ、驚いて手元が狂うことのほうがよろしくない。と、と、と安室に駆け寄ると、安室は汗をぬぐいながら錦を見て目を見開いた。

「錦ちゃん?! どうしてここに」
「安室さんの応援よ」
「あいつと避難してくれたほうが安心できるんだけど。奴らの狙いがホイールとはいえ、この消火栓にも爆薬が……」
「わたくしのことはいいから、それを。……ドラマでよく見る、数字がカウントダウンしているのではないのね」

 錦は座り込んで、安室の手元を覗き込む。小さなモニターはついているようだが沈黙している。

「ああ、これは時限式ではなくて、スイッチを押すと爆発するんだ。多分、オスプレイに乗ってるやつが持ってるんだろう」
「じゃあ、本当にいつ爆発するかわからないの?」
「そうだね。しいて言うなら、この小さいランプが光るとアウトかな」

 安室が起爆装置についている小指の先ほどの小さいランプを示す。錦はなるほどと頷いて、じっとランプを見つめた。
 ――万が一があったら、安室サンを守ってほしい。
 それが景光からの頼みだった。
 錦は瞬きせずランプを見つめる。この危険地帯で、景光のそばを離れることには――何かあれば駆けつける自信があるとはいえ、何かありそうな現状であえて離れる選択肢をとることは――大変抵抗があった。それでもこうして頼みを聞いたのは、撤退する景光と爆弾のそばにいる安室と、どちらが危険かなど比べるまでもないからだ。
 観覧車の上部から轟音がしたものの、安室は手を止めなかった。錦も全く動かなかった。
 
「あとはこの……」

 安室が呟いて、錦はそのコードが最後の処理であると知る。錦も、爆弾の基本的な種類と構造を覚えはしたが、解体となると話は別だ。コナンのようにはいかない。
 ぱちん、とおそらく最後の音がして、ランプが赤く光った。


 予想した爆発音はしなかった。熱も、風も、振動も、何も起こらなかった。
 錦はおよそ五十メートル離れたところにある、消火栓側の起爆装置を見た。赤いランプが点灯しているものの、沈黙していた小さなモニターにはの文字が流れている。<受信不能>、ということだろう。
 錦は、安室に比べて爆弾の知識に乏しい。起爆装置を視界に入れたまま、早口で安室に問いかけた。

「ランプが光っていて、モニターにはの文字が表示されているわ。どういうこと?」
「え……っと、爆弾解除と起動がほぼ同時だったけど、解除のほうが早かったんだ」
「では、もう爆発することはないの?」
「爆薬自体はホイールに配置されているから、それを回収しないと安全とは言い切れないけど」
「そう。では、次は爆薬の回収……いえ、それは警察の方々を集めて行ってもいいわね」
「まあ、うん、そうなんだけど……そうなんだけど、どうして僕たちは今、こんなに消火栓から離れたところにいるんだい?」

 安室が困惑顔で腹をさすっていた。
 錦と安室がいるのは、消火栓が見える位置の、遠く離れたキャットウォークだ。ランプの点灯を確認した錦は、ひとまず離れたところに退避したのである。瞬時に起爆装置と安室の間に入り込み、安室にタックルするように、勢いで移動した。安室の「ぅぐッ」という声はしっかり聞いていた。

「安室さん、おなか大丈夫?」
「車に撥ねられたかと思った」
「大丈夫そうね」
「錦ちゃんに撥ねられたってこと?」
「錦号よ。ブゥン!」
「それで誤魔化すのは無理が、」

 安室の追及を遮って、銃声が響き渡った。
 まだ雑談の出来る状態ではないらしい。

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