花火職人

物陰に小さくなって機関銃をやり過ごしながら、安室が舌打ちをする。

「まずいな、爆薬がまだ残ってるってのに」

 錦は、安室に抱きかかえて守られていた。口を閉ざして、安室の心音に耳を澄ませていた。
 銃声が聞こえた瞬間、錦は咄嗟に景光のところへ移動しようとした。錦にとって景光を優先するのは当然のことだ。いちばんだいじ、だから。それでも動かなかったのは、安室のことを他でもない景光から頼まれていたことと、ただの人間の安室が錦を守ることを躊躇わなかったからだった。
 景光に失望されることを恐れ、安室の勇気に心が動いた。
 本当に、人間らしくなったものだ。何度目か知れないことを思い、安室に抱きかかえられたまま小さな手で頭を抱えた。許されるなら足をばたばた動かしたい。自分が何者かを十分識っているにも関わらず、人間らしいということにどこか嬉しさを感じる部分があった。
 錦がうごうご悶えていると、観覧車全体に降り注いでいた乱射が落ち着き、安室の声が聞こえやすくなる。

「銃声が一か所に向かっている……誰かが囮になってるんだ」
「囮ですって」
「動くなら今しかない。僕はニット帽野郎と合流して状況を確認してくる。錦ちゃんは動いちゃだめだ、いいね? 隠れているんだよ」

 錦はキャットウォークの隅に下ろされる。安室が安心させるように錦の頭を軽く撫でで笑んだ。

「危ないわ、安室さん」
「それでも行くさ。守りたいものが多くてね。あのうるさい鴉を追い払ってくるよ」

 錦が止める間もなく、安室は走り出してしまう。
 錦はきょとんとその背を見送った。

「……あなたたちは、<守りたいもの>に自分を含めないのね」

 さて。錦は物陰から出ると、銃声が標的にしている方向に駆けだそうとして止まった。自分の小さな手の平を見て、拳を作る。囮になっている誰かと自分自身を鉛玉の雨から守り切れると、とても断言できなかった。一発や二発ならともかく、機関銃だ。被弾したとて自分はそう簡単に死なないにしても、人間はそうもいかない。傷を癒し切れるとも言えない。
 囮の援護より、敵を退ける方が先だ。
 錦は進む方向を変えた。囮の誰かではなく、観覧車の主軸へと。跳躍しながら主軸に到達し、設置されている爆薬を確認する。コナンの『無数に』という言葉通り、ティッシュケースよりはやや小ぶりな黒い箱が等間隔にずらりと設置されていた。
 錦は爆薬設置場所にしゃがむと、慎重に、しかし思い切りよく爆薬を取り外す。一つ取って、何事もないことに安堵してもう二つ収穫する。合計三つの爆薬を抱えて、錦は観覧車の上部へと急いだ。
 観覧車から外れたゴンドラが一機、内部に落ちていた。さきほどの轟音はこれらしい。最上部には錦たちが乗っていたはずのゴンドラが無く、ぽっかり穴が開いていた。潮いわく、オスプレイとやらに乗っている連中はゴンドラごと潮を回収するつもりだったようなので、ゴンドラを確保したはいいものの、潮の不在に気付いて手放したのだろう。
 錦は引きちぎられた鉄柱に立ち、オスプレイの場所を確認する。闇に紛れてはいるものの、それは錦の視界を妨げるものではないし、こうして俯瞰することで観覧車からの距離もわかる。オスプレイは、観覧車の最上部よりはやや下方にあった。元気に銃撃を続けている。

「景光と一緒に二周するって、約束していたのに」

 錦は風の吹きすさぶ観覧車最上部から、銃撃の軌跡目掛けて爆薬を放り投げた。


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