29
四年前、両親の死体と体の自由が利かなくなった零を前に微笑んでいた壱縷は、自身が投げたが零に当たることの無かった刀を一瞥し、口を開いた。
「あの日まで……零はずっと気付かない振りをしていたんだろ。俺にとってあの親たちは、少しずつどうでもいい存在になっていたこと」
仇と共に姿を消した片割れだったが、どこかで死んでしまったと思い込んでいた。もしくは閑に殺されたか。根拠は無いが、会えないのなら死んだと思ったほうがましだと幼心に思ったのかもしれない。
だからこそ閑と一緒とは言え、生きていると分かって少なからず嬉しかった。幼い頃と同じで、零自身と同じ顔の壱縷。だが雰囲気はあの夜の壱縷と似ていて、零には冷たい目を向けていた。
「そして大好きな零……お前のこと、ずっと嫌いだったこと」
壱縷は腕を組んでそう言い、そういえば、と口の端を上げる。零は眉間に僅かな皺を刻んだまま、同じ顔を見つめた。
「感謝してほしいね。零だけは生かしておいてほしいと閑様に頼んだのは俺なんだから」
「……苦しませたあとで、自分の手で殺したかったからか……」
「そうだよ」
否定されることを期待していたわけではない。予想通りの答えだった。
壱縷は笑みを深めて零に一歩近付き、嘲るような笑みを含んだ声音で、内緒話のように耳元で囁いてくる。
「閑様に運命を捻じ曲げられてたっぷり苦しんだ?俺と同じくらいには。……俺も、閑様に運命を変えてもらったんだ」
後半は優しい声に聞こえた。言葉を返さずに見つめていると、壱縷は体を離し、笑みを深める。
「そんな力を持つ純血の吸血鬼たちって、まるで神様だよね」
「……あの女が、神?」
あり得ない。神と言うなら死神くらいなものだろうと思いつつ、眉を寄せて壱縷を半ば睨むように見る。零の反応が気に食わなかったのか、壱縷は浮かべていた笑みを消した。
「零は閑様のこと何も知らないだけなんだよ。彼女は約束を守って、俺を病とは無縁な体にしてくれた。……零の事殺してしまいたいけど、一緒に来るなら許してあげてもいいかな」
視線を上げた壱縷がまた冷たく笑った。
「ただし閑様の僕として、ね」
その壱縷の視線が一瞬零の後ろに逸れる。庇っている優姫を一瞥したのは明らかだったが、背に庇う優姫に壱縷は手を出せないので、動くことは無かった。
しかし優姫は壱縷の言動が引っかかったらしく、棘のある声を発した。壱縷はそれに反応せず、呆れたように息を吐く。
「自分だって、あの女(ひと)の僕になったくせに」
「……零は馬鹿だ。こんな女閑様に差し出して、血をもらえば――――」
「お前が、元気になったと知ったら……父さんと母さんも喜んだろうな」
当然、自分も。
両親の事を出すのは、壱縷の神経を逆なですると分かっていながら、壱縷の言葉を遮ってそう言った。言っておきたかったのだ、両親は決して、壱縷をどうでもいいと思っていたわけではなかったから。
血の繋がった片割れに敵意を向けるのは難しいし、そんなことは望んでいない。
「壱縷……っ」
しかし零の思いは通じずに、壱縷は仕込んでいた武器を素早く抜いて零に向ける。零も銃身でそれを防ぎ、苛立ちを滲ませる壱縷を睨む。
「どうでも良くなったって言っただろ、零」
「……本気で言ってるのか」
「本気だよ」
刀ではないが長さのある刃物のため、銃身だけで防ぐのには無理があった。いくらか腕も傷つけ、さらに打ち抜いた足からの出血に顔をしかめる。
「二人ともやめて!」
「優姫、下がってろ!」
動きそうだった背後の優姫に声を飛ばし、すぐに意識を壱縷に戻す。武器を持たず、まして女の優姫が出てくるのは危険すぎる。
優姫は美夜に任せるしかない。
つい先程、"影"と称される腕のあるハンターであることを知った彼女の事を思い浮かべ、しかし直ぐに顔をしかめた。
「何、零。俺とは戦いたくないって?」
「っ……」
それも事実だ。だが今の動揺は、部屋の隅に転がっている刀を見てのものだった。あの刀は美夜が拾って脇に置いたもので、彼女自身もその傍にいたはずだ。なのに、そこに美夜はいない。
[天守月影]の特性――それ自体も対吸血鬼用武器独特の気配を持たず、その使用者の気配も極限まで抑えることが出来る。まさに"影の刀"だ。
いつから美夜はそこにいなかった?
そんな事を今更考えても分かる訳がないか、と銃を握る手に力を込めた。
*
閑への用が済んだ後、美夜は部屋へ向かって来る枢の気配を感じて――会うとややこしい――窓から外に出た。いつもなら絶対に出来ない芸当も、今なら軽々こなせる。
枢の他にも、夜間部生と思われる吸血鬼の気配を寮の中に一つと外に一つ――向かって来るようだ――感じ、それを警戒しながら零たちのいる部屋を目指した。
左腕の肘より下に、仕事中は常備している布を巻きつけてある。約束通り血を与えたのだが――思い切り引っ掻いてもらった――美夜は吸血鬼に近いとはいってもやはり吸血鬼ではないので、血は恐らく止まったものの、傷はそうすぐに治癒しない。血の匂いがあれば、[月影]の力を借りていると言っても、やはり悟られやすくなるのだ。
「…………!」
部屋の入口が見えると同時に、武器を持つ壱縷とそれを銃で防ぐ零が目に入る。兄弟で武器を向け合ってしまう状況の悲しさと、零の出血に表情を硬くした。
お願いだから優姫は出てこないでよ、と正義感の強い優姫の行動にいくらか焦りもしつつ、思い切り床を蹴る。刀は抜かないまま、壱縷と零の間に割り込んだ。
「え、美夜?!」
「っお前、今までどこに……」
零と壱縷の体を押して離れさせ、一先ずそれで腕を下ろす。左腕に走った痛みは無視して、ちゃんと庇われている優姫に微笑む。美夜は零と壱縷の間で、双方の厳しい視線を受けた。
明らかに零は怒っている。壱縷は邪魔されたのが気に障った様で、持っていた武器を徐に振りかざしてきた。
「やめろ、壱縷ッ」
零が銃口を壱縷に向け、美夜は刀を抜くと右手だけでそれを受け止めた。重ねて言うが、[月影]があるからこそ、男の力に――本気でないとはいえ――片腕でも対抗出来る。
「美夜ちゃん、だっけ。ハンターだったんだね。……その腕、どうしたの?」
「……」
「まあいいけど……それから、零。その銃は人間には効かないんでしょ」
壱縷は言いながら武器を下ろし、銃口を見つめて言った。美夜は血の滲んだ布を一瞥し、刀を鞘に戻す。
「俺は咬まれてないよ。ただ、特別な力のある<純血種>の血を飲ませてもらったんだ」
壱縷は四年間も閑と共にいたにも関わらず、人間のままなのだ。人間と吸血鬼の違いは気配で大体分かるものだが、意外である事には変わりない。
やはりそうなのか、と納得して壱縷を見上げる。零には銃口を下ろすよう促した。
「……お前、どこに行っていた」
零は銃を下ろしながらそう問うた。この状況ならば美夜の行き先など分かっているだろうが。
「閑様でしょう、どうせ。で、その様子じゃあ、返り討ちに遭ったのかな」
腕を示して、笑みを混ぜて言う。零と同じ顔で笑われていると感動しそうになるが、反対側から舌打ちと鋭い視線を受けて、そろそろと零を見上げる。
すごい怒ってる。でもちょっと"これ"も流石にどうにかしたい。
「……美夜?どうしたの」
「どいてろ」
殺伐とした空気をあえて読まずに、右手を顎に当てて考え込む。取り敢えず、と壱縷が武器を下ろしているのを今一度確認し、零に向き直った。頑張れ私、と場違いも甚だしい応援を自分に送りつつ、零の制服の袖を引く。
「……何だ。いいからどいてろって――――?!」
零の足――怪我をしていない方――に自分の足を掛けて膝を折らせ、自分より低くなった零の顔を見下ろす。優姫や壱縷の驚いた声と零の見開かれた目を見ながら、えい、と身を屈めて零に口付けた。
「美夜?!な、何して……っ」
「ったくさあ、いちゃつくなら他でやってよね」
顔に熱が集まるのを感じつつも、間近にある顔にどきりとしつつも、唇の感触を一切頭の隅に追いやって、何か言おうと開いた零の口へと自分の口内のものを流し込む。
武器を向けてこない壱縷に心底感謝して、口の中の物を零の口へと移す。零はかなり驚いたらしいが、それが口に入ると何であるかを理解したのか、大人しく飲み下してくれた。
美夜は口の中からそれが全て無くなると、ようやく唇を離す。キスに慣れているならともかく、まして口移しなどただ必死だった。
「美夜……これは」
「っはあ……分かった?」
「ああ……」
立ち上げる零の口元に血が付いている。美夜も何気なく口元を拭うと、手の甲に血が付いた。
「その…………口移しでごめん」
「っ驚くだろ、普通に」
心なしか零の目元が赤く、美夜は思い切り顔を逸らした。自分の顔の熱を逃がすよう努力もしつつ、茹でダコよろしく真っ赤な優姫にぎこちなく笑った。
「ゆ、優姫。零はもう大丈夫だよ」
「へっ?え、もしかして今の……」
「うん、閑さんの血。物々交換して来たの」
血の滲んだ布に包まれた左腕を見せ、今度は表情を歪める壱縷に向いた。
「そういう訳です。……出しゃばらせてもらいました」
「閑様は、了承したの?」
「はい。頑張って説得しましたから」
あり得ない、と眉を寄せる壱縷に心の中で謝った。美夜は閑に手を出してはいないのだが、枢が来る事で彼女の命が危ないと分かっていたのに、あの場に置いて来たのだから。
逃げるべきだと言っても求める物を手に入れずには、きっと閑は去れないからーーそう思うのは言い訳なのだろう。
何か悔しそうに唇を噛む壱縷から視線を外して零を窺う。今の所、異変は見られないが、体内からの変化が起こっているはずだ。
「零、大丈夫?」
「ああ、まあな」
怒気はすっかり消して頷いた零だったが、急に顔をしかめて部屋の外の方を睨んだ。つられて美夜も部屋の外を見、少し遅れてそれに気が付いた。想像通りの事だったが、いくらかの衝撃はある。
閑だと思われる気配が、明らかに弱くなっているのだ。零は、閑の気配を察した訳ではなかったが。
「血の匂いが……濃くなった」
「……閑様っ」
壱縷が焦りを露に駆け出した。次いで駆け出そうとした零は、優姫に制服を掴まれ引きとめられる。
「離せ優姫。あいつは俺が殺さないといけないんだ」
「戻ってくるよね?」
優姫は強く零を見つめていた。零は振り払おうとしていたのを止め、僅かに目を剥いている。しかしすぐに、ほんの微かに笑った。
「……ああ。言ったろ、生きなきゃならなくなったって」
「なら、いいの。……折角美夜が貰ってきてくれた血、無駄にしたら許さないんだからっ」
「私からすると、折角優姫が体を張ったのを、だけどね」
優姫は怒っているような口調だったけれど、表情はとても優しかった。それはそうだろう、もう零が<レベル:E>に堕ちることはないのだから。
美夜はそんな優姫に微笑んで、だが少し前の咬まれそうだった事を思い出すと肝が冷える。あと少し遅れていれば洒落にならない。
「無茶しないでって言ったのに」
「美夜が言っても説得力ないんだもん」
冗談ぽく口を尖らせる優姫に苦笑し、その頭を撫でた。セットしていた髪が解けていて、多少荒い扱いも受けたのだろうと思う。数度軽く弾ませると、優姫も美夜の頭に手を乗せてきた。
少し笑いながらお互いに頭を撫でていると、こつんと零に小突かれる。優姫も同じようにされ、二人で小突かれた場所に手を当てた。
「……優姫も、美夜も、もう俺の為に無茶をするのは止めてくれ」
噛みしめるようなそれに、美夜は言葉を詰まらせた。
無理な気がする。
そう素直に思ったが、言うべきではないと思った。本心を隠すと言うより、ただ彼を安心させなければと感じたのだ。黙ったまま一応頷くと、優姫もはっとしてぎこちなく頷く。零はそれを確認すると、もう一度頭を小突いて部屋を出て行った。
美夜は背中を見送って、落ちたままの[狩りの女神]を拾う。
「優姫、はいこれ」
「あ、ありがと……」
「私は先に寮に戻るつもりなんだけど、優姫はどうする?」
顔を覗き込んで問うと、優姫は美夜の言葉が意外だったようで[狩りの女神]を仕舞いながら、え、と声を漏らした。
「私は零を待つつもりだけど……」
待たないの、と視線で問われる。そうしたいのは山々だが、美夜は苦笑して肩を竦めた。
「こっちに、夜間部生が近付いてきてる。"影"のことは一応黙っておきたいから……これ、傷が開いちゃってて、刀の力を借りても血の匂いで私がここにいるのがばれそうなの」
枢には知られているだろうが、ここに彼が来ていると知らない優姫に言う必要はないだろう。
「そうなんだ……」
「寮で手当てしたら、理事長に知らせて舞踏祭警護に戻ってる。二人は休んでて」
「え、美夜ももう今夜は……」
「理事長も風紀委員もいなくなる訳にはいかないから」
止めようとする優姫の頭を撫でて微笑み、引き止められる前に駆け出した。外を目指す途中の廊下で暁とすれ違ったが、何とか気付かれる事はなかった。
そのまま寮まで疾走し、開けたままにしておいた窓から部屋に入る。
「っは……」
一度大きく息をして窓を閉めた。一気に肩の力を抜いて、手早く刀をベルトから外し始める。ベルトも外し、ベッドに放置していたケースに仕舞った。
仮の寮から離れることに、当然気がかりがない訳ではない。むしろあり過ぎる。しかし舞踏祭に風紀委員がいなくなっている現状も心配だ。"影"である事を伏せているのも嘘ではない。
「ごめんなさい……閑さん」
ケースをクローゼットの奥に立てながら呟き、消毒液と包帯を取り出した。仕事柄手当てには慣れているので、絡まりそうな思考を押しとどめてさっさと包帯を巻く。
一度傷が開いたものの、刀の力と少なからず閑の血が体内に入ったからか、血は止まっていた。左腕の肘から下を包帯で包み、数度肘を曲げてみる。
「ん……戻ろう」
急に重く感じる体に、頬を軽く叩いて気を入れる。零の事を喜ぶのは後だと表情を引き締めて、部屋のドアを開けた。
*
感じていた床の硬さが人の腕に変わる。揺れる声で、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。閉じていた目を開くと、目の前で涙を流す壱縷がいた。
枢によって心臓を抜き取られ、体に力が入らない。それでもまだ絶命しないのを<純血種>であることに感謝すべきか、苦痛が取れないからと憎むべきか。
「子供みたいに泣いて……」
「死なないで下さい、閑様っ」
壱縷はそう繰り返す。流した涙が頬に落ちて来たが、もうあまり感覚はなかった。
壱縷は四年前、自ら閑に歩み寄って来た人間。<純血種>の力をもって咲かせた桜の傍にいた閑に、吸い寄せられるようにして来た、酷く孤独を抱いた少年だった。
辛いことがあるのかと問うと、壱縷は僅かに驚いたものの、すぐに嬉しそうに、自分の孤独に気付いてもらえて嬉しそうに微笑んだのを覚えている。
「……お前、本当に私の事が好きだったのか」
あの時の小さな少年達は、四年ですっかり大きくなった。傍に置いていた壱縷も、四年ぶりに会った"絆"を与えた零も。
「死なないで、閑様……俺の血をあげるから」
「嫌だ……お前だけは吸血鬼にしてやらん。それに、もう遅い」
微笑んで言ってやると、頬に亀裂が走るのを感じた。長い命と強大な力を持つ<純血種>と言えども、死に様は呆気ないものだ。
壱縷は涙を止めない。四年前の自分の様に彼が一人になるのかと思うと、自分らしくもない情を持ってしまう。この学園に来た時点で、こうなる事も覚悟していたのに。
「一人になるのが怖いなら……一緒にいてやろうか?」
何とか腕を持ち上げて、流れる涙を指で掬う。閑の言葉に壱縷は目を剥いたが、拒否する事はなかった。
右手に[血薔薇の銃]を握り、濃い血の匂いを辿って向かった先の部屋で、座り込んだ壱縷の背と横になった閑を確認した。銃を強く握るが、肩越しに振り返った壱縷の顔に目を見開いた。
「壱縷……何を口にしている?」
壱縷の口の周りが赤い。閑の血肉を口にしたのだろうか。壱縷は呆然とした目でこちらを見つめる。
「お前が殺したんだ……零」
壱縷の抱く閑の体が砕け散る。紛れもなく死を意味するそれに、向けかけた銃を床に向けた。
閑が死んだ?
[血薔薇の銃]の銃弾のせいか、もしかして美夜と何かあったのか。いや、美夜の刀から閑の血の匂いはしなかった。やはり銃弾か。それとも、別の何かがあったのか。
「お前と、この黒主学園が……」
壱縷はそう呟いて、言葉を返せない零から視線を外す。部屋の窓を開けると、そこからコートを靡かせて飛び降りた。
「待って下さい、センパイ……零っ」
優姫の声が聞こえた。視界の端に、優姫と暁が入る。優姫は零が閑の所にいると分かっていたから、暁を引き止めようとしたのだろう。
「錐生……お前が?」
砕け散ったそれと、零の握る銃を見た暁にそう問われる。零はただ閑だったものを見つめていた。
殺してない。殺せていない。
妙に虚しい気分で思うが、そこにはもう再会した片割れも、復讐を遂げる相手もいなかった。
*
枢は白のキングの首に刺さったナイフを一瞥し、乾いたタオルで顔を拭く。
「終わりましたね、貴女とのゲームが……閑さん」
幼い頃、檻の中で口元を血で濡らした閑と会ったことがあった。檻にいながら整った身なりとしっかりと与えられる"贄"は、貴重な<純血種>を失わない為の異常な程の保護だった。
貴女が檻で育った"狂い咲き姫"かと幼い自分が問うと、今と変わらない姿をしていた彼女は、それには返答せずに微笑んで言った。
『玖蘭の次期当主などに生まれてしまって……可哀想』
「貴女も……」
刺さったナイフを少し指で押すと、呆気なく白のキングの首は砕けた。
*
封をした二つの封筒を机に置き、美夜は椅子に凭れて天井を仰いだ。コキン、と首の骨が音を鳴らす。
理事長に"影"の事を明かし、仮の寮で一悶着あったから零と優姫の様子を見てやってほしい、と舞踏祭警備を交代し、舞踏祭の最後までホールにいた。片付け中に戻って来た理事長に聞くと、零は熱が出てきているから私的居住区におかれ、優姫は寮に戻ったようだった。優姫から何があったか大体聞いたようで、ありがとう、と泣きそうな顔で言われた。
「明日送ろう……」
時計を確認すると、起床時間までまだ二時間程あった。入浴は既に済ませているので、少し寝ようかと椅子から立つ。ベッドに横になると、枕元に座っていたソラを抱き締めた。
「…………」
仰向けになって、呆と宙を見る。ソラを腹部に乗せて抱き、そのまま眠りに落ちた。
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