33
美夜は[天守月影]を収めているケースをベッドの上に置いた。金具を外して開き、刀ではなく小銃を取り出す。
「悪いけど、最初から君の出番は無かったんだよ」
使わず済んだ事に満足して一つ笑う。念のためハンカチに包んでから、小さい袋に入れた。
ケースをクローゼットに戻そうと閉じかけ、だがそうせずに、帯刀用のベルトに手を伸ばす。
付属ポーチを開け、仕事中に怪我をした時に使う布と共に入っている小瓶を手に持った。
中の赤い液体が揺れる。特殊な瓶なので、それが劣化する事はない。
「……きれい」
血の主の姿を思い描き、小さく微笑んだ。小瓶を小銃があった場所に入れ、ケースを閉じて金具を留める。
クローゼットに戻すと、美夜は袋を片手に優姫の部屋に向かった。
ドアをノックすると、同じ様な袋を持った優姫が出てくる。
「よっし、行こっか美夜」
「うん」
門限までまだ余裕があるので、あまり急ぐ必要もないか、とのんびり歩いて男子寮へ向かう。
男子寮へ向かうのは別に悪い事ではないが、風紀委員とは言え、女子が男子寮に入るのはあまり良い事ではない。優姫は男子寮にも平気で入ってしまうが、今回は美夜もいるからか、優姫の提案で、男子寮の寮長にでも零を呼んでもらおうという事になった。
「今日、零ずっと寝てたから言えなかったんだよね」
「ごめん、私もずっと寝てたけど」
男子寮を見上げて呟くと、優姫が隣で苦笑した。
「寮長さんいるかな」
寮の入り口に立ち、二人で中を窺う。寮長でなくとも誰か零を呼んで来てくれないかと思っていると、廊下で話していた数人の男子生徒がこちらに気付いた。
「あれ、風紀女子?錐生に用事?」
「黒主いっつも迷い無く入るのに、今日はどうしたんだよ」
見ない顔ばかりで、上級生らしい。優姫が入って来ないことに疑問を持つ彼らに、優姫は気まずそうに笑っていた。
「いやあ……たまには」
「錐生にいじめられたとか?なんかあいつ雰囲気変わったし」
「ち、違います。それより、零を呼んでもらっても良いですか?」
「おうおう」
ちょっと待ってろー、と彼らの内一人が階段に向かう。ありがとうございます、とその背中に声を掛けた美夜は、残った上級生から視線を向けられている事に気が付いた。
彼らは優姫を知っているらしいが、美夜の事は"増えた風紀委員"くらいの認識しかないだろう。
興味の視線に少し後ずさりしながらも、反射とも言えるくらいの笑みを浮かべる。
「あ、晃咲美夜です」
「あれだろ、天才って聞いたぞ俺」
「マジで?えー俺に勉強教えてよ」
「そんな事ないですよ、先輩に教えるなんて」
「謙虚だなあ。舞踏祭で錐生と踊ってたよね?」
「あ、はい。少しだけ」
零は学年に関係なく、割りと男子生徒の関心を集めている。枢と張り合える、唯一の普通科男子生徒だからだ。そんな零の近くにいるからか、美夜が興味の的になるらしい。
優姫は高等部に入る前からも零と一緒だったから、特に意識されていないのだろうか。
「錐生って、顔が良いのに損してるよな。美夜ちゃんは怖くないの?」
「はい、迫力はありますけど怖くないですよ」
「俺、舞踏祭でドレス着てた美夜ちゃん見てさ、結構可愛いと――――」
「美夜、優姫?」
先輩の言葉を遮って名を呼ばれ、見ると一人の先輩と共に零が現れた。
どことなく機嫌が悪そうに見え、寝てたのかな、と勝手に推測する。
「二人揃って……どうかしたか」
「ちょっとね」
ね、と優姫と顔を見合わせて笑う。すると話していた先輩達が、零が来たから戻って行くので、美夜は慌てて礼を言った。またなー、とひらひら手を振ってくれるのに笑顔で返す。
零は去って行く先輩達を一瞥し、溜め息混じりに言った。
「……人使って呼ぶから、何かあったのかと思った」
「美夜を男子寮に乗り込ませるのは気が引けたから……」
「ごめん、私のせいで手間を」
苦笑して陳謝し、優姫とまた目を合わせる。持っていた袋を、二人同時に零へ差し出した。怪訝そうにそれらを見る零に美夜は微笑みかける。
「約束を返しに来たの」
「もういらないからね、これも」
気付いたのか、零は僅かに目を剥いて、袋を受け取りながら小さく笑った。
「そうだったな……」
苦しい状況は抜け出したのだ。もう零が血に狂う事はない。以前より太陽が眩しかったりするのかもしれないが、いつ狂ってしまうのかという不安は無くなった。
これで良かったのだ。零を助けられて良かった。
美夜は呪文の様に心の中で呟いて、後ろ向きな考えを押し留める。
「美夜、戻ろっか」
「うん。またね、零」
「……ああ」
上機嫌な優姫に笑って男子寮から出るが、そこで目に入った人物に首を傾げた。次いで気付いた優姫が瞬時硬直する。
「英さん?」
どうしてここにと問いかける前に、パーカーのポケットに両手を突っ込んでいる英が、悪びれる様子も無く歩み寄って来る。
「あ、美夜。理事長見当たらないんだけど、出掛けてる?」
「うん、出てるけど……」
何故こんな所に英さんが?
夜間部生が陽の寮の敷地に入ることは禁止されているのだが、こうも堂々とされては注意もしづらい。英は「いないのか」と呟いて、思案気に腕を組んでいる。
振り返ってみるが、零は既にいない。
とりあえず、対応に悩んで口をパクパクさせているだけの優姫の頭を、落ち着いてと軽く撫でた。
「理事長に用事があったの?」
「用事っていうか……家出したから、一日だけどっかの部屋を貸してもらおうかと思って」
「…………ごめん、家出って言った?」
聞き違いを信じて言うが、英ははっきりと頷いた。気持ちが良いくらい罪悪感を感じさせない肯定に、そっか、と美夜もつい頷く。
「あ、藍堂センパイ、家出なんてやめて寮に戻りましょう……?」
「イヤ。絶対戻らない」
「イヤって言われても……」
英が口を尖らせて顔を背ける。寮に帰るつもりなど毛頭無いらしい。
美夜が私的居住区の客室を提案しようと口を開きかけた時、頭上から焦ったような声が降って来た。
「おい、錐生?!」
驚いて優姫と振り向き、三階の窓辺に立つ男子寮の寮長と、そこから身を出す零を見つけた。零は躊躇いも無く窓から飛び降り、綺麗に両足で着地する。
吸血鬼であることを、隠す気はあるのだろうか。美夜はそんな不安を抱きながらも、呆気にとられる寮長に会釈しておいた。
「藍堂先輩……何してるんですか」
「零、いい所に!センパイってば、家出したから寮に戻らないって言うの」
零の眉間の皺が深くなる。英の不機嫌度も増す。美夜は、何とか丸く収まらないかと考えを巡らせるが、英の希望を叶える事と零の眉間の皺を無くす事の両立は不可能だと思った。
顔を背ける英から視線を外した零が、焦る優姫と、英の家出を認めてしまった美夜に声を掛けてきた。
「優姫、美夜、縄探して来い。縛ってでも戻すぞ」
零は強硬手段に出るらしい。しかし優姫と美夜が返事をする前に、それを聞いた英も強硬手段とばかりに走り出す。表情を険しくした零も英を追って走り出した。
流石夜間部生とあって、英の姿はすぐに見えなくなってしまう。それを追う零の姿も、あっと言う間に遠くなった。
「……美夜、どうしようか」
「くっ……ふふっ」
妙に可笑しくなって、美夜は腹部と口元を押さえて肩を震わせた。二人のクールな一面も子供っぽい一面も知ってはいるが、まさか追いかけっこを始めるとは思わなかった。
美夜が笑う意味が分からず困惑する優姫に、ごめんと言おうとするのだが、笑いが混じって上手くいかない。
「ふ、はははっ。ご、ごめ、おかし……っ」
「え、え?」
何とか堪えようとその場にしゃがむが、一瞬で小さくなった二人の背中を思い出すと止められない。視界が涙でぼやけてくる始末だ。
笑いはしばらく止まらなかったが男子寮の前に居るわけにはいかないので、美夜は呆れる優姫に支えられながら、ふらふらと居住区に向かった。
優姫と美夜が居住区のリビングのソファに並んで座っていると、五分程で、息を切らせた英と零が入ってきた。英が捕まったというよりは、単に走る事に疲れたからのようだった。
「……変な事で体力使わせるな」
「ふん、初めから僕の家出を手伝えば良かったんだ」
息を整えながら睨む零。偉そうにソファに座って足を組んでいるが、額の汗を隠せていない英。どこまで走って来たのかが気になるが。
あ、笑いそう。
「…………ふふっ」
「もう、やっと落ち着いたのに」
「ごめ……」
堪えきれずに肩を揺らす。それでも、ひとしきり笑った後だからか、思いの外すぐに収まってくれた。
美夜が滲んだ涙を拭っている間に、優姫が英に向き直る。
「とりあえず、理事長の私的居住区の客室でいいですか?それとも……陽の寮の零の部屋?」
後者の提案は、零と英によって切り捨てられた。美夜は、それはそうだろうなと苦笑し、その案を思い付いた優姫に感心する。
具体的にどこの客室へ案内すべきかと優姫と話していると、英が何気なく呟く。
「……お腹空いたなあ」
その言葉に時計を確認すると、丁度夕飯時。英達の感覚で言うと朝飯時だ。英が夕方起きてからすぐに寮を出たのだとしたら、何も食べていないのかもしれない。それとも、運動をしたからか。
呑気にそう考えていたが、不意に影が差して顔を上げた。
さり気なく移動して美夜と優姫の間に立った零が、大きな溜め息を吐いていた。優姫もいつの間にか、その背に隠れるように立ち上がっていて、美夜は首を捻りつつ、何となく立ち上がってみる。
今の一瞬で状況を見失ってしまったようだ。あれ、とこの数秒間を振り返りかけるが、英が続けた言葉で理解した。
「何警戒してんの?いいよ、手料理で」
「……あ、そういうことね」
吸血鬼である彼が「お腹空いた」と言ったからか、と遅まきながら納得する。
「あーあと、"朝"寝るベッドは柔らかめがいい。リネンはラベンダーの香りがしなきゃヤだ。あ、僕の事誰かが探しても言わないでよ。えーとあと歯ブラシは……」
拳を振るわせ始めた零の腕に、そっと手を添えて苦笑する。うんざりした顔で見下ろされるが、落ち着いてと肩を竦めた。
要望をつらつらと言い連ねる英は、耐えられなくなったのか、優姫に遮られる。
「センパイ、寮を家出なんて……何かあったんですか?」
言葉を切った英は、まるで遊んでいる様だった雰囲気を潜めた。どこか遠くを見るようにして、別に、と返す。
「別にって、センパイ……」
「ああもういいじゃん。お腹空いたんだって。美夜、何か作ってよ」
「あ、私?」
英から視線を向けられ、零の腕から手を離して数度瞬きをする。英は当然でしょと頷いて、口を尖らせながら言った。
「だってさあ、一条が開いた夜会で、僕美夜のケーキ食べ損ねたし。料理上手いんでしょ?」
「そういえば……。料理出来なくは無いけど、それなら零も――――」
「錐生が作ったのは食べたくない」
きっぱりと言われて、少し言葉に詰まる。優姫は料理が苦手だから、彼女にこの役割は振れない。英がそう言うならば仕方が無いか、とまた苦笑しつつ了承した。
理事長が使ってるレシピ本とか、キッチンにでもあるといいけど。
「いいよ、作ってみる。口に合うかは分からないけど?」
「普通でいいよ普通で。僕は美夜が作ったのならいいし」
「はは、光栄です」
冗談ぽく腰を折ると、英もわざとらしくふんぞり返る。その表情に影が無くなっている事に少しほっとしたのだが、じりじりと棘のある視線を感じて、はっとして零を見上げた。
「……手伝うから」
「あ、うん。ありがと」
明らかに苛立っているので何を言われるかと少々不安になったのだが、予想外の申し出に拍子抜けしながら頷く。
何故か零に嘆息された美夜は疑問に思うも、まずはキッチンに向かわねばと零の袖を軽く引いた。
「行こ。優姫も……」
一緒に、と言おうとして止める。もし包丁で怪我をしては危ないし。
「……英さんをよろしくね」
「うん……ごめん、手伝えなくて」
「ううん、英さんの寝る部屋も見ておかないといけないし、ね?」
「うん、私は客室の様子見てくるよ」
英には、ちょっと待っててね、と声を掛けて零とキッチンに向かった。
キッチンにレシピ本は置かれていなかった。理事長の私室かと思うが取りに行くのもなんだし、と美夜が迷っていると、零がレシピ無しで作れると言うので、美夜は零の指示で動く事にした。料理は出来るが、滅多にしないのでレシピが頭に入っていないのだ。
これじゃあ私が手伝いだな、と零の料理を食べたくないらしい英に心の中で謝っておく。
「……零は良いお嫁さんになるね」
「はあ?」
二人並んで野菜を切る。包丁のまな板を叩く音が、規則的に耳に入る。
勉強も運動も出来るどころか、零は料理も得意だ。世間一般に男は料理が苦手らしいが、こなれた様子で包丁を握る零は、とても家庭的に見える。
優姫の言い方を借りれば彼は"モテ期"なのだが、美夜にはそれを通り越して、"良いお嫁さん"の方がしっくりくる。
「やめろ、気色悪い」
「一応褒めてるんだけどなあ……」
「……それより美夜、ケーキって何」
英が言っていたからだろうか。美夜はあの時、寮の共同キッチンで作ったので、優姫にも零にも言ってはいなかった。それに夜会へ二人が来た時、美夜が持って行ったケーキは既になかった。
「拓麻さんの誕生日の時なんだけど、聖ショコラトル・デーにお菓子あげられなかったから、埋め合わせにって約束してたの」
「…………ふうん」
「えっと……駄目だった?」
零の反応が思わしくなく、美夜は人参を切っていた手を止める。
「いや……何でもない」
何でもないようには見えなかったのだが、ならいいけど、と人参を切る手を再び動かす。落ちる沈黙は居心地の悪いものではないが、隣からは機嫌の悪そうな空気が伝わっていた。
渡されていた人参を切り終わって、切る物がジャガイモから肉に変わっている零を見上げた。
「指示下さい」
「あー……ブロッコリー」
「はい、了解」
「……無理すんなよ」
緑の塊をどう切ろうかとまな板の上で回転させていると、脈絡無く言われて一瞬表情をなくす。どういう意味かと頭を働かせ、零の言葉に抜けている事の予想をつけた。
腕治ってないんだから、無理すんなってことかな。
「大丈夫だよ。お風呂も平気だし」
「……美夜は大丈夫としか言わないんだったな、言った俺が馬鹿だった」
「だって別に大丈夫だから……?」
思い切り爪を立ててもらったので、それなりに傷は大きいし治るのにも時間がかかりそうなのは事実だ。だがこの程度の傷は、ハンターとしての修行時代に散々負っているし、今でも密集区駆除で怪我をすることもある。
傷が残ったりすれば気になるけれど、痛みにあまり関心はない。
「意外に馬鹿だよな、美夜って」
「私何かしちゃった?」
「いいから、それ切れ」
問うているのに零は答えず、顎でブロッコリーを示され、美夜は仕方なく意識を包丁に向けた。
二品の料理を仕上げ、続けて三品目を作っている間に優姫に運んでもらう。
美夜が包丁を握って野菜を切っていると、出来た二品を運び終え、飲み物を持って行っていた優姫が、何故か空になった皿を数枚持ってキッチンに入ってきた。
「センパイ、もう食べちゃってるんだけど」
「え?ちょっと待って、四人分持っていってたよね……?」
「美味しいって言ってるけど、まだ足りないとか言ってるよ」
はあ、と大きな溜め息を吐いて、優姫が皿を流しに置いた。美夜はただ驚きながら、使ったフライパンを一旦洗っていた零に視線を送る。零は驚きつつ迷惑そうに、眉間に皺を刻んでいた。
「零、まだまだ作らないと私達の食べるものが無くなるよ」
「……四人分食べて足りないって何なんだ」
「うん、何か元気は無いんだけど、食べるのはすごい食べてる」
「ストレス食いか……?」
あるのかあいつにストレスなんて、と呟いてフライパンを拭く零は、ズボンのポケットからピルケースを出して優姫に渡した。
「すぐ作る。これでも食わせとけ」
「分かった。頑張ってね二人とも」
零のピルケース片手にキッチンを出た優姫に軽く手――包丁を持っていない方――を振って、優姫の足音が聞こえなくなると、美夜はキャベツを見つめたまま言った。
「……零」
「疲れたなら休め」
「じゃなくって。英さんの事だけど」
コンロにフライパンを置いた零が、表情を歪めたまま美夜を見た。英を"ただの迷惑な家出人"と見ているのが分かる零の反応に、美夜は思わず苦笑した。
美夜は気付いたのだ、英の行動の理由に。そしてその原因を考えれば、英の家出する気持ちも分からなくもない。
「英さんは、閑さんを殺した人を知ってるから……それに昨日の夜、元老院が来たでしょう?色々思う所があるんじゃないかな」
「先輩が……?」
「うん。あの時、閑さんが居た部屋の近くに、枢さんともう一人吸血鬼がいたし……英さんが枢さんと距離をとる理由なんて、それしか思いつかない。……枢さんは、英さんが気付いてると知ってて何も言わないんだと思う」
悩んでるんだろうね英さん、と呟いて、再び手を動かす。
自分の主が、主と同等の者を殺めるという罪を犯したのだ。吸血鬼の世界で<純血種>は絶対だ。王制が行われていないとはいえそれは変わらないし、まして玖蘭は王の血筋である。
自分の信じているモノが揺らぐというのは、とてもじゃないが平気ではいられないだろう。
「……心配か、先輩が」
「少し。……多分、これで英さんが枢さんから完全に離れるって事は無いだろうけど、不安はあるだろうし」
私もきっと、私の"絶対"が揺らぐと壊れるだろうな。そう思い、だがそれはあり得ないなと僅かに笑う。
ちらりと零を窺うと、少しだけ苛立ちが影を潜めたように見えた。
零は美夜から視線を逸らすと、食材を取りに冷蔵庫を開け、いくつかの野菜と肉を持って美夜の隣に戻ってくる。そして迷うように口を開けて閉じ、気付いて美夜が彼を見つめると、静かに言った。
「美夜に『生きる』と言ったが……俺が吸血鬼を憎むことには変わりない」
「うん」
「お前、夜間部と仲良いから先輩の事も心配するんだろうけど……俺は、そんな気持ちは持てないんだ」
「うん、知ってるよ」
零に英の心配をして欲しくて言ったわけではないから、特に驚かずに頷く。
「……美夜は、こういう俺を嫌にはならないのか」
「吸血鬼を憎んでる零をって事?」
「ああ。俺はお前のように……家族を殺した対象に、理解を寄せることは出来ないんだ」
馬鹿だと思わないのか、と零は小さく付け足した。美夜は首を傾げつつ、間を置かずに首を振る。
「零は零でしょ。私は私。優姫は優姫で、理事長は理事長」
「……考え方はそれぞれってか」
「そうそう」
零達に家族の事を打ち明けた時にも、同じ様な事を言った覚えがある。零もそれを忘れていた訳ではないらしく、お前は変わらないな、と言って頭を軽く撫でてくれた。
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