上に立つことについて

「<将>って難しいね」

 メショ、とパイナップルのヘタを根本で手折る。トゲトゲの装甲だけになった果実をまな板の上に置いた。
 小腹に何か入れようと執務室を出て、フルーツの気分だったのでパイナップルを切り分けることにした。多めにカットしておけば、こんちゃんや長谷部以外にも内番で本丸にいる刀剣男士が食べている。今回切り分けるパイナップルは三つだ。
 わたしの真似をして、おやつ待ちの薬研と厚がパイナップルのヘタを手折る。

「難しいってのは、審神者がってことか?」
「うん」

 厚の言葉に頷く。
 パイナップルは、ヘタに近い部分とおしりの部分をカットして、縦半分にバッサリ切る。あとは半月切りにして、芯を取り皮をむき、食べやすい大きさにさらにカットする。
 薬研と厚も取り掛かる。さんにんでキッチンの作業台に立ち、パイナップルの解体作業をする。わたしが調理好きで食事を重視しているので、まな板や包丁に限らず調理器具は充実している。大きな作業台があるのもそのためだ。

「みんなが戦っているときに、本丸で待っている。人間は時間遡行出来ないから、何かあっても駆けつけられない。待つしかない」
「大将は自分も戦いたい?」
「もちろん」

 ふたりが笑う。「そりゃ俺たちの心臓に悪いな」「違いねえ」薬研が言って、厚が同意する。
 わたしは即答したものの、演練で目にする戦闘の様子を思い起こしてうめいた。刀剣男士は、ヒューランの姿をしているが人間ではない。戦闘力も人間以上だ。わたしが戦闘の助けとなるのは、ほんのわずかだろう。足手まといにすらなる。

「分かってるんだ、みんなが強いってことも、いくらわたしが強くてもそれは人間の中での話で、刀剣男士とともに戦うことは難しいってことも。それでも、信じて待つって大変だね」

 エオルゼア側で戦闘後のわたしを迎えてくれる仲間たちが頭を過る。みんなも、こんなに不安な気持ちなのだろうか。笑顔で「おかえり」と言ってくれることが嬉しくて、待ってくれている間のみんなの気持ちをあまり考えたことがなかった。
 薬研が切り分けたパイナップルをガラスボウルに移しながら言う。

「ま、確かに無事を祈るだけっていうのは、もどかしいかもな」
「そうでしょう」
「大将、俺たちが帰城したら速攻で光を浴びせてくるもんなあ。心配されてんだなって感じて好きだぜ、アレ」
「これからもいっぱい浴びて」
「……大将は」

 呼ばれて厚を見ると、手元を睨んでパイナップルの皮剥きに苦戦しているようだった。

「大将は、別に、審神者を辞めたいってわけじゃないんだよな?」
「うん。審神者が嫌とか、そういうのではないよ。ただ、将らしくどっしり構えて待つということが出来ない」
「良かった。戦ってる俺たちを見るのが精神的に辛くて審神者を続けられなくなるって話も聞くからさ」
「みんなが帰ってきたらいの一番に光を浴びせに行く審神者が嫌じゃなかったら、これからもよろしくしてほしい」
「ははは、そりゃもちろん」
「って、大将もう剥き終わったのか」

 カットしたパイナップルを全てボウルに入れて、包丁とまな板を洗う。小ぶりなガラスの器を三つ出し、執務室に持って行く準備をする。飲み物はどうしようか。いつも長谷部は温かい番茶を持ってきてくれるが、たまには紅茶を淹れてみよう。四次元リュック――鯰尾命名――からクルザス茶葉とヤクの乳を出す。

「イシュ……ミルクティー淹れるけど、薬研と厚もいる?」
「ぜひ頼む。前飲んだとき美味かった」
「俺も飲みたい」
「分かった」

 片手鍋に水を入れて火にかける。
 沸騰を待っていると、薬研も厚もパイナップルを切り終わったようだった。薬研が生ごみをまとめて、厚が洗い物をする。厚はつまみ食いをしたらしく、口をもごもご動かしていた。
 沸騰したら火を止めて、クルザス茶葉を入れて蒸らす。

「……でも、俺もだな。待つのがきついって」

 薬研が残った茶葉の香りを嗅ぎながら呟く。

「大将がエオルゼアに行っている間は落ち着かねぇよ」
「あー俺も。単に里帰りってんならともかく、大将は戦うひとだからな」
「それ。もし怪我をしてもあの光で治っちまったら、大将がどれだけ大変な思いをしたのか、俺たちには分かんねぇしなあ」

 わたしは鍋にヤクの乳を入れて弱火にかけながら、口をぽかんと開けていた。
 薬研と厚の言葉に、わたしは初めて気付いたのだった。重要な戦いで帰りを待つ仲間のことには思い至っても、本丸に残している刀剣男士のことには気付いていなかった。
 わたしがエオルゼアで何をしているか、彼らは知らない。作物の採集や軍議だけのときもあるが、戦いに行くことのほうが圧倒的に多い。魔物の討伐、蛮族の牽制、敵国兵士との戦闘、等々。
 何をしているか分からない主がちゃんと本丸に<帰ってくる>のを彼らは待っているのだ。
 そっとふたりの頭を撫でる。

「心配するのはお互い様なんだな」
「そういうこったな……たーいしょ、いつまで撫でてるんだ」
「大将って刀剣を撫でるの好きだよな。俺たちとほとんど身長変わらねぇのに」
「刀剣男士は構われるのが好きってこんちゃんが……嫌い?」

 ふたりともどことなく不機嫌そうな顔をしたものの拒否されなかったのでそのまま撫でていたが、鍋が沸騰しそうなことに気付いて慌てて火を止めた。
 鍋に蓋をして蒸らす。その間に、ティーポットを二個準備する。ティーポットを使うのはわたしくらいだが、刀剣の数が数なので三個買った。ティーカップは十二個ある。 
 厚がティーカップを出す。執務室の分はお盆に乗せてくれた。

「俺も淹れ方覚えようかな……」
「みんな、東方……和風じゃないものにもすぐ適応するよね」
「そりゃ多分大将の影響だ。刀剣男士は審神者の影響を受けやすいって聞くぜ」
「横文字に強いのもな」

 蒸らし終えて、鍋の中身を漉しながらティーポットへ移す。
 ティーポットのひとつは薬研と厚用、もうひとつをお盆に乗せる。一番大きなお盆は、パイナップルとティーポットとティーカップでいっぱいだった。
 厚がお盆を持ちあげる。薬研は早速、自分の分のミルクティーをティーカップに注いでいた。

「ま、お互いがお互いの心配をする審神者と刀剣男士っていうのもいいだろ。人間っぽくて」

 一足先にティータイムをスタートさせた薬研が口角を上げた。

「おい薬研、せっかく大将が作ってくれたんだから広間で優雅に飲もうぜ」
「そうするか。移動させとく」
「パイナップル全部食うなよ」
「お前が戻ってくるまでにこの量を食えるか」
 
 ここまで部下と打ち解けている将というのも、わたしの身近にはいない。武力組織の長としてすぐに思い浮かんだのは某国の猛将や提督なのだが、ふたりも上に立つ者として一目置かれ、部下とともにキッチンに立つ姿は中々想像できない。わたしはタメ口で気軽に話かけるけれども。
 軽視されているわけではない、気安いやりとりは心地が良い。
 どっしり構えることも、気高い振る舞いも出来ないが、これがわたしの将としての在り方でいいのだろう。


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