「伽羅くんいる?」
「いるぞー」
夜、就寝前に大倶利伽羅の部屋を訪ねる。返事をしたのは、大倶利伽羅と同室の獅子王だ。
入口から中をのぞくと、大倶利伽羅が敷いた布団の上に座っている。わたしの姿を確認すると、ため息交じりに立ち上がり部屋から出てきた。心なしか眠たそうである。
「……なんだ」
「明後日の晩御飯、わたしが主に作っていい? みんなに日頃のお礼として振る舞いたいんだ」
「好きにしたらいい」
「なるべく出来立てを食べてほしいから、四時くらいからここのキッチン使わせてもらうね」
「……手伝いは」
思いもよらない申し出に口角が上がる。お礼のディナーといいつつ調理で交流をはかれたらいいとも思っていたので、ぜひお願いしたい。普段、料理当番に多く組み込まれている刀剣男士の名前を挙げる。
「伽羅と、燭台切と、歌仙にお願いする。燭台切と歌仙には明日の朝伝えるよ。出陣と内番も長谷部に相談して……」
「おい、光忠と歌仙がいるなら俺はいいだろ」
「そんなこと言わずに」
「俺は行かないからな」
「デザート選択権、どう? 二種類作るつもりなんだけど」
「………………」
「ありがとう、当日よろしく頼むね。じゃ、おやすみ。獅子王もおやすみ」
「おーおやすみ!」
「……」
伽羅の肩を叩くと渋い顔をしたものの、それ以上拒否する言葉は出なかった。「わたしが作れるものを明日リストにして渡すよ」彼の好みも知れるいい機会だ。
ふたりの部屋から離れ、審神者部屋へ向かう。
明日の朝に燭台切と歌仙に手伝いをお願いして、長谷部には出陣と内番の相談をして、伽羅に渡すデザート候補リストを作って。肝心のおかずも決めて数を考え、材料を仕入れておかないと。マーケットに食材が無ければ自分で採りにも行く。品数も多く作るつもりだ、調理の段取りも考えなければ。
忙しくなりそうだが、こういった段取りをしているときがとても楽しいのだ。
みんなの口に合わせて和食を作ろうかと思っていたのだが、大倶利伽羅がデザートのリストを眺めながら「あんたの国の味のほうが嬉しいやつもいるだろ」とのことだったので、和食とそうでないものを両方作ることにした。
白米はもちろん炊くとして。茶わん蒸し、イシダイの御造り、アームラサラダ、クラブコロッケ、色んな魔物の肉を使ったステーキ食べ比べ、アプカルオムレツ、キノコのキャベツ巻き、豆腐の味噌汁、ビーツスープ。配膳方法はいつも通りバイキング形式。イシダイの御造りのみ長テーブルに配置する。デザートはクリームブリュレとハーコットゼリー。あと大量の酒。
キッチンに集結した弊本丸三大料理番の伽羅、燭台切、歌仙に簡単なレシピを配る。各々が軽く目を通してくれるが「本当にこんなに作るの?」と顔に書いてあった。
「ある程度分担して動こうかなと思ってるんだ。とりあえず伽羅には茶わん蒸し、燭台切にはコロッケ、歌仙には味噌汁の準備から取り掛かってもらおうかなと。わたしは御造り作ってサラダ作って、あと肉の準備とか他の料理を順番に。大皿とか鍋も急いで買い足したからいけるはず……」
歌仙が挙手をする。
「はい、歌仙」
「食材が見当たらないんだけど」
「よくぞ聞いてくれた」
四次元リュックに手を突っ込み、食材ごとにまとめている袋を引っ張り出す。キッチンの動線を妨げない場所にドカドカと並べていく。これらを今から調理していくのかと思うと気が遠くなるが、同じくらいわくわくする。さんにんも同じ気持ちでいてくれたらいいのだが、楽しみというよりは腹を括った顔をしていた。
「これらを使う」
「なるほど。……それにしても、立派なものばかりだな」
「主、これだけ集めるのは大変だったんじゃない?」
燭台切が興味深そうに野菜を眺めて言う。
「うん、さすがにお金も使ったし時間も使ったな」
「とんでもない量だけど、やりがいはありそうだね……」
「……おい、どれが何の卵だ」
話している横で、伽羅が的確な質問を投げてくる。早くしないと終わらないぞ、と気だるげな目が語っていた。わたしはキッチンの隅にあるメモ帳とペンを握ったものの、わたしが書いても意味がないことに気付いて伽羅に渡した。ついでに他の食材にも名札を付ける。
各々が腕まくりをして準備に取り掛かる。
わたしも作業台について、四次元リュックからイシダイを取り出した。ずるりと出てきたイシダイに、燭台切が拍手をくれる。
「わあ、立派だね」
「ありがとう。これが一番大きいんだ、なかなかのサイズ」
「何尾捌くの?」
「八尾」
「八尾分の御造り……お刺身は買うと高いから、ありがたくはあるけど」
「お刺身は大抵みんな好きって聞いたから……多いかな」
「みんな、主に似て食べることが大好きだからいいんじゃないかな」
「それはとても良いことだね」
イシダイは鱗を取るところだけは済ませている。複数にんで料理をするので鱗が飛んでは大変だと思い、それだけはエオルゼアの食材準備隙間時間に済ませてきた。
一尾目に包丁を入れながら呟く。
「……本丸に持って帰ってくるの、肉をメインにしてるけど魚もいる? 一種類をたくさん釣るのは結構根気がいるから、あまり出来ないと思うけど」
「主は釣りも趣味なのかい?」
歌仙が出汁の準備をしながら首を傾げる。
「うん、釣りも好き」
「そのイシダイも?」
「そうだよ。これが一番、調達に時間が掛かったな」
「ははあ、主は本当にたくましいね」
二尾目、三尾目、と頭と内臓を取り除いていく。
食材を手に取る音。包丁がまな板にあたる音。皮をむく音、野菜を切る音、魚を切る音。調理の音は心地がいい。今日はよにんでの作業とあって音が多く、会話も生まれる。
「主、レシピのここなんだけど」
「ん、どこ?」
「主、出汁の味を見てくれるかい」
「おいしいよ」
「……待ち時間で手が空いた」
「じゃあこっちの野菜をカットしててくれる?」
並べていた大量の野菜や肉が減っていく。キッチンはどんどんと良い匂いで満ちて、刀剣男士がひっきりなしに様子見に訪れては料理人の鬼気迫る作業を見てそっと引き返――そうとするので、数振はつかまえて洗い物の手伝いを頼んだ。
すべての料理が仕上がると、みんなでハイタッチをした。おざなりだったが伽羅も手を合わせてくれた。
料理を広場に運び込む。手伝ってくれる刀剣男士たちは次々に渡される料理に歓声を上げていた。味も気に入ってくれたらいいのだが。
バイキング形式なので、広間に到着した刀剣から取っていってもらった。ただ、今日の晩御飯はわたしからの日々のお礼ということもあり、全員が席に着くまで誰も箸を持たなかった。わたしはみんなが食べているところに声を掛けるのでも良かったのだが、主からのもてなしをおろそかには出来ないという刀剣男士らしい理由で、挨拶を求められたのだった。
全員が料理をとりわけ席に着く。上座に席を用意されたわたしは、落ち着かない光景を誤魔化すように四次元リュックに手を突っ込んで一升瓶を取り出した。
「わたしはあまり本丸にいられいなくて、不便や負担をかけていると思う。そんな中で毎日頑張ってくれて、感謝してる」
一升瓶を続いて取り出す。
「みんなへの感謝の気持ちを表す方法、料理しか思いつかなかったんだ。伽羅、燭台切、歌仙、長い時間手伝ってくれてありがとう」
一升瓶はまだある。ワインボトルもある。ワインは、大量入手が可能な市販品だ。
「お酒もいっぱいあるから、飲んでね。無礼講、というやつだよ」
あちらこちらで歓喜の声が上がる。見た目は子どもの短刀でも、酒を好んで飲むことは知っている。広間の後方からは、次郎太刀のひときわ大きな声がしていた。
「みんなの口に合うと嬉しい。では――いただきます」
続