午後六時、本丸エーテライトにテレポートする。少しばかり変わっている景色に、感嘆の声が漏れた。
踏み固め、歩きやすいようにと刀剣男士たちが階段状に整備してくれていた山道が、見事な石畳の階段になっている。幅も広げられ、これならば槍でも横に三人並んで歩けそうだ。エーテライト回りも石畳が敷かれており、ちょっとした広場になっていた。
エーテライトそばで治安の悪いしゃがみ方をしていた南泉一文字が大きくあくびをする。
「ふぁー……おかえり」
「ただいま。きれいになったね。でもこれは依頼していなかったはずだけど」
階段と広場に境に、石の<枠>が立っている。両サイドに柱が立ち、その頂上で二本の柱が交差していた。エーテライトと屋敷を行き来しようと思えば、自然とそれをくぐる形となる。審神者業界でよく見かける建造物だ。名前は確か、
「ああ、鳥居? サービスだってよ、式神が言ってた。魔除けの意味があるからにゃ」
「そうそう、鳥居。追加料金をとられないならいいか」
鳥居をくぐり、階段を下っていく。南泉が呆れたように「ど真ん中通るんだな」と呟いた。
「何が?」
「神社にある鳥居なんかは、真ん中は神の通り道として避けるもんなんだよ」
「そうか、まずいことをした? ……いや、わたしの家だから問題ないか。刀剣男士はわたしの物だしね」
「外の神社でやんなきゃいーんじゃねーの」
外の神社に行く機会があるのかは不明だが覚えておこう。
以前より道が広いので、その分、空の見える面積が広くなっていた。それでも時間帯や天気によっては懐中電灯必須だが、晴天の夜はさぞ趣のある道になるだろう。足元に灯を埋め込むという提案もあったが、管理面から断念していた。
「それにしても、金かかったんじゃね? こんな大規模増築となりゃ」
「いざ見積もりしたら思ったより安かったんだ。この山道整備もまとめて依頼したらちょっと値引きもしてくれて」
この山道整備はあくまでもついでなのだ。本題は、離れの刀剣男士私室の増築である。敷地の都合もあり、横に広げるのではなく縦に積み上げる大増築。平屋建だった屋敷は、刀剣男士私室が三階建てになっているはずだ。今日の夕方に工事完了連絡を受けている。
刀剣男士たちは今日朝イチで私物を道場なり大広間なりに移動させ、掃除をし、工事終了まで母屋で待機という大変退屈な一日を過ごしたことだろう。式神の爆速工事とはいえ、一瞬では終わらない。
お金の問題で言えば増築そのものよりも、部屋が増えたことでエアコンなどの電気代のほうが気にかかる。節電を呼びかけなければならない。
「にゃんはもう引っ越し終わったの?」
「さらっとボケるな、南泉な。荷物少ないから、時間がかかるようなこともねぇよ」
「一文字で部屋が近いの嬉しい?」
南泉が頭をかく。
「……話せる距離にいるってのは、まあ。でも相部屋は息が詰まるから、個室はありがたいにゃ」
「増築した甲斐があるな」
今いる刀剣男士を基準に部屋を決めているので、新刀剣男士の刀派によっては難しい事態にもなりそうだが、それはそのとき考えよう。空き部屋を挟んでいるので、それで上手くいけば何よりだ。
「私物も置きやすくなるだろうから、自分の空間を作り上げて」
「そう言われても……オレはそういうのよく分かんねぇから。主も審神者部屋を飾ってんのか?」
「テーブルとベッドはある」
「それ初期の状態じゃねぇの」
「……定住という概念がないからかな」
「駄目だにゃ」
山道を降りると、本丸門をくぐる前から三階建ての離れが見えた。屋敷を囲う塀から飛び出ている。
刀剣男士の私室がある離れは今回の増築前、七部屋を一列とし、入り口が外を向く形で背中合わせになったものが一棟。一棟十四部屋だ。それが四棟あり、合計五六部屋。増築で縦に三階分積み上げたので、現在は百六二部屋だ。棟は両端部分を廊下で繋いでおり、上空から見たらちょうど「目」という形になるだろう。審神者部屋は刀剣男士私室の列から外れており、かつ、「寝ている主の上を歩けない」ということで増築は行っていない。
「立派だなー。見に行かないと」
「晩飯のメインは生姜焼きだってよ」
「一通り見たら急いで行く」
広間に行くという南泉と別れ、離れへ向かう。
母屋と離れを繋ぐ廊下の壁には、母屋にあるものと同じ当番表のモニターに並び、部屋割案内のモニターを新しく設置した。号棟とフロアを選択すると、部屋割りが表示される。逆に、刀剣名から部屋の検索も可能だ。適当にモニターに触れて表示に問題がないことを確認する。
<壱号棟>の表示を通り過ぎて階段を上がる。各部屋の障子の横には名札が一つずつ下がっており、食事に行ったのだろう、名札を裏返している刀剣男士も多い。
弐号棟と参号棟も回り、問題がないことを確認する。すれ違う刀剣男士たちからも、建付けが悪い等ということは聞かなかった。懸念は、愛染が「朝、国行を叩き起こしに行かないと」と言っていたことくらいだろう。確かに、ひとりにするといつまでも寝ていそうな刀剣男士ナンバーワンだ。
「主、今から晩御飯デスか?」
背後から声をかけられて振り返る。廊下の真ん中で、千子村正がポーズをとっていた。肌色が多いことには驚かない。絶妙に局部を隠した立ち方だが、着ていないのは明らかだ。
明石以外にも、相部屋でないことの弊害を目の当たりにした。部屋を出る前にこの奇行を止めることは不可能だ。
「そうだよ服着て」
「huhuhu」
笑っている場合か。
村正の部屋を探そうとしたが、あまりにも堂々と裸体を晒しているのでつい見てしまう。普段はすぐに蜻蛉切なりの刀剣男士が回収するので、目にすることは少ない。わたしが女性だということで、みな村正の露出に対する反応が早いのだ。ご飯どきの刀剣男士私室棟ーーしかもかなり広いーーということで幸か不幸か、村正を止める刀剣男士はいない。
わたしが見ても村正に恥じる様子はない。その程度で恥じるのならば全裸で私室を出ることもないので当然だ。
「刀剣男士って筋肉の付き方が素晴らしいよね」
「主もワタシの妖しい魅力に夢中なのデスね」
「わたしはエーテルで筋力強化するけど、やっぱり基礎の肉体も大事だからね。いいなぁ……」
「思う存分魅せられてください。huhuhu」
廊下で男性の裸体を眺めるという、参謀殿に言ったら正気を疑われそうなことをしていると、本丸中に響き渡りそうな大声がした。
「村正ァ!!!!」
「え、主もいるじゃん」
蜻蛉切と御手杵が視界に入り込み、御手杵が自分の体でわたしの視界を隠す。御手杵ガードの向こうでどかどか物音がして、どうやら蜻蛉切が村正を部屋に放り込んだらしかった。「服を着るまで出さんぞ」蜻蛉切の低い声がする。
御手杵が困った顔でわたしを見下ろした。
「大丈夫か? 急にストリップに遭遇して驚いただろ」
「筋肉見てた」
「主に頼まれれば誰でも見せるから、ガチで全裸の村正からは離れてくれ」
わたしは御手杵に村正の部屋の入り口すら目隠しされ、母屋の大広間まで送迎された。