久々に演練に付き添うため本丸を出る。わたしの「粟田口とか江の戦装束ってお揃いでいいね」発言を聞いた信濃藤四郎により、チーム粟田口での参加だ。秋田、五虎退、毛利、信濃、鳴狐、一期。篭手切江は「出遅れました!」と床に拳を叩きつけていた。今度はチーム江を引率したい。
演練場は参加者用のゲートと引率者用待機室、他本丸部隊観戦室という演練用設備の他、飲食店もいくつかある。万屋街に無い店舗もあるため、演練に出ない刀剣男士や審神者も利用し、万屋街ほどではないがいつでも賑わっている印象だ。
受付を済ませてチーム粟田口を見送り、わたしの護衛で来ている三日月宗近と一緒に開始時間を待つ。開始時間が近づかないと、待合室に入れないのだった。
「早すぎたかな。なにか見る?」
「あちらに、飲むわらび餅の店があるのだ。あれが飲みたい」
「飲むわらび餅……?」
さてはそれを目当てに同行したな。
お互いの放浪防止のため手を繋いでいるので、三日月が手を引くままに進む。テイクアウトのみらしい小さな店舗には列が出来ていた。演練開始時間までに買えるだろうか、演練終了後にみんなで買ったほうが良いのではと相談していると、わらび餅ドリンク店からちょうど品物を受け取った客に手を振られた。 誰かすぐに気付いて振り返す。そもそも、ニワトリのわたしに声をかける人物など限られている。
女性が、タレ目を笑顔で細めて両手を振りながら近づいてくる。護衛の鶯丸は両手にドリンクを持ち、彼女の後ろから歩いてきていた。
「夜杓(やしゃく)ちゃん! 相変わらず満点のフォルム!」
「ありがとう、通草(あけび)」
「ハグしていい?」
「もちろん」
審神者号は<通草(あけび)腐(くさ)らし>。彼女は無類の鳥好きで、演練場を闊歩するわたしに「握手してください!」と声をかけてくれたのがきっかけで交流がある。わたしの、唯一と言っても過言ではない審神者友達である。年齢は同じくらいだと思うのだが、通草は審神者歴五年以上のベテランだ。
通草にチキンスーツを着用している理由を聞かれたことはない。大変ありがたいが、通草の場合は中身への興味よりガワへの愛が上回っているだけのようにも思える。
ハグをした後、通草がわたしの後ろに回って尾の装飾を触る。尾の部分がお気に入りらしい。
「最高、うちの本丸で飼いたい……」
「それは我らが路頭に迷うゆえ」
三日月が泣き真似をしながらわたしに寄りかかる。体重を掛けているようで掛けていないので寄り添っているだけだ。体幹が良い。
通草が尾から手を離して笑った。
「冗談、冗談」
「主、ほら、氷が溶けるぞ」
通草が鶯丸からドリンクを受け取る。通草のドリンクは茶色っぽく、鶯丸は緑だ。メニュー表から予想すると、通草がほうじ茶で鶯丸が抹茶。
「通草も演練?」
「んーん、これを買いに来ただけ」
「美味しいんだ」
「うん。甘いわらび餅とあっさり目のドリンクで美味しいよ。夜杓ちゃんは演練?」
「開始待ち」
「わたしも夜杓ちゃんと演練したいなぁ。指定本丸演練の申し入れしてもいい? 演練終わったらお茶もしたい」
「それ後半が本題じゃない?」
「バレたか」
「でもやってみたいな。勉強させて欲しいから」
通草大先輩の戦い方や考え方に触れてみたいとは以前から思っている。わたしも将として以前よりは成長したと思っているのだが、刺激が多いに越したことはない。
通草がわらび餅を吸い上げながらきょとんとした後に笑う。
「夜杓ちゃんって真面目だよね……」
「刀剣男士が命の賭け甲斐のある主でありたいからね」
「武人だ……」
「指定本丸演練するなら、スケジュール確認してメールするよ」
「そっか、夜杓ちゃんは通いだもんね。待ってる!」
通草が笑みを深める。わたしは通草の笑顔以外を見たことがない。鳥に対する愛はやや重いが、いつも温かいひとだ。わたしはつくづく、友人に恵まれている。
鶯丸が、黙々と飲んでいたストローから口を離して演練場内の時計を示した。
「主、夜叉柄杓殿は演練だ。あまり話しこんでは間に合わない」
「そうだった。夜杓ちゃん、ごめんね。演練頑張って」
「ありがとう。通草と話せて嬉しかった」
「もー! 夜杓ちゃんはすぐ口説いてくるんだから」
通草がややオーバーなリアクションでわたしの肩を叩き、ついでにトサカを触ってから手を振る。それに翼を振り返し、三日月と待機室に急いだ。演練は刀剣男士の戦いをモニターで確認できる唯一の場なのだ、演練に同行出来る機会も多くはないのでしっかり見ておかなければ。
引率者用待機室に入ると、複数枚の大きなモニターが起動する。演練用のデモ合戦場をあらゆる角度から映したものだ。ソファに座ると、ちょうど開戦のカウントダウンが始まった。
画面を見ながら、隣に座る三日月に言う。
「わらび餅、演練終わったらみんなで買おう」
「俺は黒蜜追加がいい」
「わたしも同じのにしようかな」
モニターに映る部隊の様子を見る。開戦数秒前とあって本丸での朗らかさは無く、みんな柄に手を添えていた。
カウントダウンがゼロになり、法螺貝の音が響く。一斉に遠戦刀装が展開した。