きみの神様になりたかった2

 佐竹は石橋をひっぺがしてオフィスに押し込むと、廊下で深々と頭を下げた。
 石橋は以前から審神者へのあたりが強く、部署内で遠巻きにされているらしい。過去、担当していた本丸が軒並み高戦績を挙げたことから自分の意見に絶対的自信を持っており、扱いづらい存在のようだった。担当本丸の戦績が良かったのはひとえに審神者と刀剣男士の努力の結果であり彼がなにかをしたわけではないんですけどね、と佐竹は小声で付け足した。

「色々と、対処する話は出ていたのですが……上のほうに石橋課長のご親族がおられまして」
「政府も色々あるんだな」
「お恥ずかしい限りです。審神者様と刀剣男士様方が必死に戦ってくださっているのに」
「あとこれ、清掃……」
「はい、お任せください」
「ありがとう」

 佐竹は石橋のことと清掃について対処するということで、慌ただしくオフィスに戻って行った。
 用事が無くなり、わたしと蛍丸は顔を見合わせる。まだ時間があるから万屋街に寄っていこうかと話していたところで、人事部のフロアを出てすぐ、山姥切長義と遭遇した。わたしを見て表情をわずかに緩めたので、わたしの知っている個体で間違いないだろう。

「その様子だと、大丈夫だったみたいだね」
「きりちょ……?」
「誰かな」
「なんて呼べばいいかと思って」
「山姥切、と呼んでくれ」

 切国は山姥切と呼ぶと変な顔をするし、刀剣の名前の後半は複数刀剣で同じことがあるということで文字って呼ぼうとしたのだが、山姥切長義は山姥切でいいらしい。こんちゃん資料によると本歌と写しで複雑な関係らしいので、彼は山姥切で良いのだろう。
 蛍丸にチキンスーツを引っ張られる。

「主、知り合い?」
「本丸に入る前、政府施設にいたときに家電の使い方を教えてくれたの」
「ふうん。電子レンジ切長義、主になにか用事?」
「斬ってないよ。所用で人事部に行っていたうちの部署の……歴史観測部の職員がね、『ニワトリの審神者さんがやべえおっさんに絡まれてる』って言っていたから。きみ以外にいないだろうと思って様子を見に来たんだ」
「主がリンゴを片手で握り潰したら、号泣しながら失禁してたよ」
「へ、へえ……」
「蛍丸、半分間違ってるよ。記憶を改ざんしないで」
「そうだっけ」

 蛍丸が悪戯っぽく笑う。石橋への怒りはすっかりおさまっているようで何よりだ。
 山姥切が引きつった笑みを浮かべる。

「その間違っている半分が前半なのか後半なのかで全く話が違ってくるんだけど」
「後半に決まってるよ」
「なるほど、きみがリンゴを握り潰したのは本当なんだな」
「山姥切も出来るでしょ?」
「刀剣男士と人間の握力を並べるのはどうかと思うんだが」

 そういえば、刀剣男士の握力はどのくらいあるのだろう。わたしより強いのは疑うまでもないが、数値にするとどうなるのか。わたしよりも小柄で、今楽し気に話している蛍丸の握力など、とんでもない数値になりそうだ。

「用事って主のことを確認しに来ただけ? なら、俺たちもう行ってもいい? これからデートなんだけど」
「デ……もうひとつ。ゼフィールのレシピを送ってくれてありがとう」

 以前健診部で会った後、加州とゼフィールを作りながら、加州にレシピを書き留めてもらったのだ。それを、こんちゃんを通じて歴史観測部の山姥切長義宛てに送付した。政府所属の山姥切長義は大抵が歴史観測部の所属ということで届くか不安だったが、無事に渡ったらしい。差出人欄にニワトリのイラストを添えたのが良かったのかもしれない。
 
「どういたしまして。作ってみた?」
「ああ。でも、きみに貰ったもののほうが美味しかったよ」
「今度はお菓子詰め合わせの差し入れでもしようか?」

 半分冗談で、半分本気だった。世話になったのも感謝をしているのも本当だ。健診のときといい今回といい、気にかけられていることに対しての礼はしたい。わたしにとって、礼を表す最もシンプルな方法が料理というだけだ。
 山姥切は瞬きをひとつした後、まるで仕方ないなと言いたげに頷いた。

「なら、期待して待っていようかな」
「ニワトリを描いておく」
「俺の電子名刺を渡すよ。個刃番号を宛先にしてくれたらいい」

 携帯端末を出すように言われて従うと、山姥切は自分の携帯端末を近づけてなにやら操作した。わたしの携帯端末画面に、山姥切の名前、所属、個刃番号が記載されたカードが表示される。
 山姥切が端末を仕舞って、ひらりと優雅に片手を上げる。

「俺の用事は済んだよ。デート、楽しんで」
「山姥切も良い一日を」
「ばいばーい」

 山姥切は歴史観測部へ向かい、わたしと蛍丸は転移ゲートに向かう。万屋街で少しお茶ができそうな時間だ。
 心持ち速足でゲートに向かいながら、蛍丸が言う。

「あの山姥切長義に、本当に差し入れするの?」
「するよ。佐竹にも時々お菓子詰め合わせ送ってるから、それが二箱になるね」
「あー。そういえば送ってたね。にしても、主って本当にタラシだよね」
「ときどき言われるんだけど、どうにかして直したほうが良い?」
「そのままでいいよ。でも、あの山姥切長義になにしたんだろうな、とは思う」
「お菓子あげた」
「それだけ? 口説いたりしてない?」
「してないよ」
「ほんとにー?」

 蛍丸が疑いの眼差しを向けてくる。残念ながら心当たりは全くない。ひたすら家電の使用方法を聞くことしかしていない。お菓子を配ることが口説くという行為にあたるのなら、わたしは佐竹を口説きまくっていることになる。
 転移ゲートから万屋街に移動しても<タラシ>について考えていると、「今は俺と一緒でしょ!」と蛍丸に怒られた。 

 

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