刀剣男士が日々手合わせをしている道場をのぞく。同田貫と和泉守が手合わせ真っ最中で、目で追うのも難しい剣戟が繰り広げられていた。木刀同士のぶつかる音も迫力がある。
手合わせは時々見学させてもらっている。刀や槍も扱うわたしにとってはとても良い勉強の機会だ。
道場には他にも内番や非番の刀剣男士が顔を出しており、鯰尾と堀川と髭切が道場の隅に座っていた。鯰尾と堀川は非番だが、髭切は本日畑の当番である。一段落しているならば良いが、髭切のことだ、ふらふら道場に来ているのかもしれない。
わたしが入ってきたことに気づくと、見学の三振が会釈なり手を振ったりと思い思いの挨拶をしてくれた。手合わせ中なので静かである。わたしも手を振って返しながら、三振に混じって座る。
しばらく無言で眺めていると、同田貫と和泉守が木刀を下ろした。一礼してから、こちらへ向く。手合わせに集中していたがわたしには気付いていたようで、特に驚いた顔はしなかった。
和泉守が汗を拭きながら物珍しいものを見るような目をする。
「あんた好きだなァ、手合わせ見んの」
「勉強になるからな」
「熱心なこっって」
同田貫も木刀を置いて汗を拭く。わたしは思いつきで、同田貫が置いた木刀を拾った。購入当時より痛みのある木刀は、持ち手がまだ熱を持っていた。
握る感覚を確かめながら、雑談をしている五振に向き直る。
「ねえ、誰かわたしと手合わせしよう」
五振が静まり返り、正気を疑うと言わんばかりの顔を向けられる。
鯰尾が手を左右に振った。
「駄目です、駄目ですよ。ほら、そんな危ないもの離してください」
「ヤダ」
「俺たちのほうがヤですよ、主と打ち合いなんて」
「みんなわたしを幼女のように扱うけど、ちゃんと武器使えるからね?」
「そうだとしても駄目ですって、人間はすぐに怪我するんですから」
「治癒魔法が効く分、みんなよりすぐ直ることすらあるよ」
「まーたそれ。主に怪我させる可能性がある俺たちの気持ちも考えてください」
鯰尾が腰に手を当ててド正論を言う。
そう言われると弱る。木刀とはいえ好き好んで主人に怪我を負わせたくはないだろう。もちろん怪我をしないようにするし、必ず怪我をするほどわたしが弱いとも思っていないが。
しかし手合わせしてみたい。自分の力が刀剣男士にどれほど通用するのかを身をもって確かめたい。
「いいぜ、やっても」
同田貫が和泉守から木刀を受け取る。「同田貫さん!」「やめなよ!」鯰尾と堀川が非難の声を上げ、和泉守と髭切も続いた。
「止めとけって、主が怪我すんぞ」
「僕も、止めておいたほうがいいと思うな。刃がないとはいえ」
「ようは、主に当てなきゃいいんだろ?」
事も無げに言って、同田貫が道場の中央へ歩いていく。わたしも木刀を持って続き、同田貫と対峙した。見学四振の大きなため息が聞こえたが、わたしも同田貫も折れないと感じてくれたのか、力づくで止められはしなかった。
同田貫が木刀を軽く構える。
「剣の覚えがあるっつーのを信じて付き合うが、俺が駄目だと判断したらそこまでだからな」
「うん、分かった」
「よし、んじゃ本気で来いよ」
木刀を上段に構える。
同田貫を、魔物あるいは敵兵として見据えた。
「ッごめん!」
手合わせは、わたしのそんな間抜けな謝罪で終わった。
力を込めて振り下ろした木刀の先が、退いた同田貫の前に落ちる。ただ振るっただけではあり得ない風が起こり、空気を切り裂いた軌跡が縦に真っすぐ残る。風が落ち着き、軌跡が溶けて、ついでにわたしたちの緊張もすっかり霧散した。
同田貫が、回避した体勢のまま怪訝な顔で固まっていた。怪我は無さそうだ。
「あんた今の……」
「ごめん、気合いが入りすぎて魔術使いかけた」
自分で握っている木刀の無事も確認する。エオルゼア側世界の武器は、使用する魔術のレベルによって適した武器というものがある。上級魔術には初心者用武器が耐えられないのだ。手合わせ用のただの木刀は、刀剣男士が使用するだけあって物理的衝撃には非常に丈夫だが、魔術に耐えられるかは分からない。
幸い、初級魔術の使用だったためか、木刀は破損していなかった。
手合わせは、終始同田貫の手加減が感じられるものだった。同田貫が時折打ち込んでくるのだが、それに反応してつい力を込めて反撃してしまったのである。
わたしは妙な使い方をしてしまった木刀に心の中で謝りつつ、未だ複雑な表情の同田貫に声を掛ける。
「刀剣男士はやっぱり強いなぁ。全然歯が立ってる感じも無かったよ」
「人間に負けたら刀剣男士の名折れだろ。にしても、魔術か……」
「当たってないよね?」
「ああ」
「美しかったよ」
唐突に褒めたのは同田貫ではない。髭切が、わたしの木刀を代わって持つ。確かめるように片手で数度素振りをし、一つ頷いて刀の峰を肩に乗せた。
「美しい?」
「なんだろう。太刀筋が……霊力とはまた違う、主のオーラのような。そういったものが研ぎ澄まされているのが分かったよ。魔術というものは、己のこころの在り方が表に出るのかもしれないね」
「買いかぶりすぎな気がする」
「主の刀の評価を信じてよ」
髭切がわざとらしく悲しそうに眉尻を下げる。普段から柔和な表情でいることが多いので、しょぼんとされるとこちらが悪いことをしたような気になってしまう。腕を伸ばして頭を撫でた。髭切がこれを拒まないことは知っている。「うんうん」満足そうに頷いて、冗談ぽく手で目を覆った。
「ただでさえ主は眩しいのに、今は目をつぶってしまいそうだったよ。タヌキ丸くんはより一層感じたんじゃないかな」
「同田貫だ。勝手に新刀剣男士を顕現させるな」
「光がどうのって言われたことはあるけど、眩しいって言われたのは初めてだな……」
わたしは<光の戦士>と呼ばれているので、光云々はさほど気にしていなかったが、生活に支障をきたしそうな<眩しい>という表現はさすがに引っかかる。発光でもしているのか。
観戦していた和泉守、堀川、鯰尾も輪に加わった。鯰尾が笑いながら言う。
「そういう話を主にしないのは暗黙の了解みたいなところがありましたからねぇ」
「なにそれ?」
「なんだか負担になりかねないのかなって。主は優しいから」
「負担……?」
思いもよらない表現に驚いていると、和泉守と堀川が補足した。
「人間にしては背負ってるもんがでっけぇって分かるから。言わないほうが、気楽にやれるかなってな」
「プレッシャーをかけないようにって思ってたんですよ」
「お気遣いありがとう……自分の使命みたいなものについては身に染みてるから大丈夫だよ」
「あ、そうだったんですね」
刀剣男士の優しさをまた一つ発見する。確かに、ただ能天気に生きているだけのつもりなのに「お前は世界を救う使命がある」とかなんとか言われたら、生き方を迷ってしまうかもしれない。
木刀の峰で肩を叩く髭切が「僕も手合わせしたくなっちゃったな」とぼやく。すかさず鯰尾が「駄目です」と強く言った。同田貫との手合わせは本当に仕方なく見逃してくれたらしい。
輪から外れた同田貫が、汗をぬぐいながら言う。
「……光がどうのとか、俺はあんまり興味ねぇけど。人間離れしてるなとは思うぜ」
「そう?」
「息切れしてねぇだろ。あんた、強いよ」
純粋な武器としての強さに重きを置く同田貫から、剣の腕を褒められるとは素直に嬉しい。目を瞬いたのはわたしだけではなく、五対の目が同田貫に向く。
わたしは、言いたいことを言って満足している同田貫の横に並んだ。
「……なんだよ」
「また手合わせして」
「俺は良いけど」
「駄目ですってば!」
鯰尾が慌てた様子でわたしと同田貫の間に割り込んだ。