兼業審神者


 特にエオルゼア側――エオルゼア地域のみの活動ではないが、便宜上そう区別している――で不測の事態が多いとはいえ、基本的なスケジュールを立てておかねば本丸運営に支障が出るので、気ままに行き来するのではなく計画的に行動することになった。本丸を宿代わりに利用しても良いとのことなので、可能な限り一日一回は顔を出す。わたしの不在時は、人事部署の担当者・佐竹と、こんのすけと初期刀の加州清光を中心に本丸の管理をしてもらう。中途半端な運営になりかねないのではと躊躇いもあったが、通い審神者は少数ながら他にもいるらしく、政府的にも構わないとのことだ。
 政府や刀剣男士に甘えつつ。わたしは今日も本丸エーテライトにテレポートした。
 本丸エーテライトは、屋敷から少々離れた山中にある。巨大なために完全に掘り起こして移動させることが出来なかったのだ。各国各地域のエーテライトプラザのような、整備されたものではない。発掘してそのまま使っています、というのが見てわかる状態である。
 本丸エーテライトが稼働をすると屋敷に知らせがいくシステムが組まれている。エーテルと霊力が似た構造であるということで、こちらの世界の転移ゲートからの通知システムを流用出来たらしい。エーテル学には触れたことがないので、実際どのようになっているのかわたしには分からない。
 本丸エーテライトから屋敷に向かいながら、その歩きやすさに視線を落とした。本丸生活区域として想定されていた場所から外れたところにエーテライトがあるので、今まで木々をかき分けて進んでいたのだが。舗装されているわけではないが、各段に歩きやすくなっている。
 刀剣だろうか、と分けられた草木と踏み固められた土を眺めていると、元気いっぱいの声が聞こえてきた。

「あるじさまー!」
「主君ー!」

 長いグレーの髪と、ピンク色の髪が見える。小柄な背丈には似つかわしくないスピードで走って来ていた。
 現在、本丸には初期刀の加州清光、初鍛刀の秋田藤四郎、続いて、乱藤四郎、今剣、大倶利伽羅、獅子王が顕現している。やっと一部隊が組めるようになったのだ。わたしが本丸につめていないこともあり、おそらく、刀の集まりは他の本丸に比べて遅いだろう。しかし、こんのすけにも佐竹にも急かされたことはない。わたしがエオルゼア側でどのような動きをしているのか、政府には出来るだけ細かく伝えているので、理解を示してくれているのだ。ありがたい。
 ぱたぱたと駆けてきた今剣と秋田が、その勢いのまま飛びついてくる。これでも最前線の冒険者なので、たたらを踏まずに受け止められた。チキンスーツがもふりと凹む。

「おかえりなさい、あるじさま!」
「おかりさない! みんなで、道を綺麗にしたんです!」
「ただいま。歩きやすくなっていてびっくりしたよ、ありがとう。大変だったでしょう」

 ふたりの頭をチキンスーツの腕で撫でる。年齢三桁を優に超える彼らに対して、姿がこどもだからといって子ども扱いはいかがなものなのかと思っていたのは最初だけだった。彼らも、外見に応じた振る舞いを楽しんでいるらしい。「姿が子どもの刀剣男士に限らず、個体差はありますが、審神者様に構われるのを厭う刀剣男士はいませんよ」そうこんのすけに言われていた。
 ふたりと手をつないで歩き出す。チキンスーツの羽部分を握られているので、正確には手を繋いでいるわけではない。

「主君、今日はゆっくり出来るんですよね?」
「うん、今日は一日こっちにいる」

 本丸時間は、エオルゼアからマイナス七時間だ。暦が違うのでマイナス七時間と言う表現が正しいのかイマイチ分からないのだが、幸いにも一日二四時間というところは同一だった。
 わたしは今日、朝五時にエオルゼアからテレポートした。現在日本時間は午後一時。移動時間がかからないので、時差にダイレクトに殴られる形となる。しかしそこは生活時間が乱れがちな冒険者なので、あまり体への負担はないと思っている――が、刀剣男士的には、わたしの負担が大きくなるのは良しと出来なかったらしい。「エオルゼア時間で生活します!」と力強く宣言され、エオルゼア時間と同等の時差があるフランスという国の環境と本丸時間を同期することで対応した。日本時間で生活している佐竹には負担をかけるかもしれないが「夜勤担当がいるので大丈夫です」とのことだった。
 徒歩でのんびり歩くと屋敷までは三十分ほどかかるので、朝の運動ということで今剣と秋田と駆けっこをする。朝五時過ぎという早朝の時間、あたりの空気は冷えていて空もまだ白んできた程度だ。しかし晴天のほうが珍しい雪国・イシュガルドからテレポートしてきたので、あまり環境差は感じない。

「あるじさま、はやいですね!」
「自然の道も慣れているからね」
「そのニワトリさん、走りにくくはないんですか?」
「これは投影してるだけだから、あるようで無いんだよ」
「とうえい……?」
「あるようでない……?」

 ジョギングというには早いスピードで走り、本丸へ到着する。屋敷をぐるりと囲っている塀の正門を開け、玄関に入った。
 加州と乱が上がり框で出迎えてくれた。「主、おかえりー」「主さん、おかえりなさーい」ふたりの頭も軽く撫でる。加州は目を逸らしたが振り払うことはせず、乱は笑顔で歓迎していた。
 
「大倶利伽羅と獅子王は?」

 遅れて駆け寄ってきたこんのすけを撫でまわしながら問う。加州が答えた。

「さっき、主の帰還アラーム聞いて起き出してたよ」
「まだ寝ていてもいいのに。でもみんな起きてるなら、早速朝ごはんの準備をしようか」

 ぱっと薄く桜の花びらが舞う。これは霊力の可視化らしく、刀剣男士の感情に合わせて見られることがある。
 早朝に起き出してわたしを迎えてくれたのには、食事という理由もあるのだろうと思う。お腹を空かせているらしい、とキッチン――彼らは厨と呼ぶ――に移動して手を洗う。チキンスーツはあるようで無いので、そのまま手を洗えるし、チキンヘッドを被っていても食事ができる。
 わたしは冒険者であるが、料理が好きで調理師としても活動している。あと戦闘以外の活動といえば、漁師や園芸師だ。そのふたつも調理師として思う存分腕を振るえるようにと始めたので、わたしの戦闘外スキルは調理師を中心に回っている。

「今日はいろいろ向こうで収穫してきたから、エオルゼアの食材を使います」

 日本は、エオルゼアでいうところの東方文化の国なので、刀剣男士たちもドマ料理のほうが馴染むということは短い本丸稼働期間でも分かっている。しかし、エオルゼアの食文化も目新しくて美味しいということと、エオルゼア食材の調達はわたしにしか出来ないということで、わたしが滞在しているときはエオルゼア料理を振る舞うことが多い。無尽蔵に食材を運んでも来れないので出来る限りではあるが、期待に応えられるように努めている。
 魔術収納しているバッグから食材を出す。名前は違っても本丸側世界と類似した食品が多いため、下準備は刀剣男士も手伝ってくれる。彼らは刃物の扱いがとんでもなく上手い。
 良い匂いがキッチンに漂い始めると、大倶利伽羅と獅子王が顔を出した。

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