刀剣男士が増えるにつて、こんちゃんが作成してくれる刀剣来歴まとめファイルも分厚くなっていく。出来るだけ把握するようにしてるが、全て完璧に覚えられているかと言うと難しい。何せ、自分の中で文字と意味が上手く繋げられないため、覚えにくいのだった。
どこそこ家の誰々がどうの、なんとかの戦でどうの。どうのこうの。非常に難しい。
時々、刀剣来歴ファイルを復習しているが、毎回「ああそうだった」と思うことがある。鶴丸国永のように、来歴が明らかで日本の皇室の私有財産として管理されている刀剣がある一方で、今剣のように、伝承から生まれたひとの想いの塊がある。同田貫正国のように、<同田貫正国>という名の刀たちの集合体のような存在がある。来歴は確かでも所在不明であったり焼失している刀も多い。
共通点としては、みなそれぞれの物語のようなものを持っているというところだろうか。それが史実なのか創られたものなのかは別にして、逸話を持っている。刀剣来歴ファイルを見ているとよりそう思う。何人斬ったという実績よりも、この刀を巡って/この刀の周囲でこういうことがあった、という話が目に付く。
「みんながそれぞれ主人公だな」
刀剣来歴ファイルを閉じて、執務室の本棚に仕舞う。本丸側世界では大抵がデータでやりとりされ紙の出番は少ないが、わたしが気軽にエオルゼア側でも見られるようにと刀剣来歴ファイルは紙で作られている。
本棚の前で伸びをしていると、戦績をまとめている松井から返答があった。
「僕みたいなのは、珍しいだろうね」
「松井は来歴残ってるし、今は確か……ええと、どこかの美術館所蔵じゃなかったっけ」
「逸話と呼ばれるものは無いだろう」
「逸話……」
「例えばそこのへし切長谷部。彼は『織田信長が茶坊主を食器棚ごと圧し切った』という逸話から名前がついている。そういった逸話が僕にはない」
「改めて聞くと、棚を圧し切る刀ってとんでもないね」
「ありがとうございます」
長谷部がすっと背筋を伸ばす。褒めてほしい合図である。もすもすと羽で頭を撫でると、桜の花びらが降ってくる。クールを装っていても桜は正直で分かりやすい。
松井は長谷部を気にせず続ける。
「だから僕は正直なところ、刀剣男士として顕現出来たことに驚いているんだ。逸話は、わかりやすくひとの想いを集める。付喪神の根をつくる。でも、それが僕にはないから」
「根っこか……。ねえこんちゃん、刀剣男士として顕現する刀ってどうやって決められるの?」
手を止めて話を聞いていたこんちゃんが難しい表情で首を傾ける。頭が大きいので転げそうだ。
「そちらの部署には出入りしたことがないので分かりませんが、刀剣の本霊様……付喪神の本体にお伺いを立ててお許しいただけたら、という感じかと……。時の政府が勝手に依り代を作れるようなものではないので」
「逸話がなくても、ひとから長い間想われていたら付喪神は生まれるってことか」
「そうですね」
松井を見ると、少しばかり照れたように頬をかいていた。
「僕は現存している分、注目を集めやすいからマシなのかも。……そういう点では、豊前は僕以上に根っこがないんだろうね」
「豊前は……所在不明だったっけ」
「そう。その上、『郷とお化けは見たことが無い』なんて言われている。見つからないことが特徴とも言える刀がこうして刀剣男士として顕現しているんだ。僕は、豊前がふらっと消えてしまうんじゃないかと思うことすらあるよ」
豊前は、じっとするより動いているほうが好きなタイプだとは認識していたが、本丸を気に入っていることも分かるので危うさは感じていなかった。わたしに豊前の根無し草具合は分からないが、同派で関わりも多い松井が言うのならば、豊前にはそういう面があるのだろう。
「逸話か……」
「こればっかりは、後から僕たちが創ることは難しいからね」
わたしは本日の当番表を表示させて豊前の名前を探す。現在は遠征中だった。
「わたしの刀として伝説を作ってもらうか」
「主の発想は面白いよね」
「こっちで何か斬ったら問題になりそうだから、わたしが豊前を帯刀してエオルゼアで魔物を狩れば……」
刀剣男士をエオルゼア側へ持ち出すことは禁じられているので冗談だ。ただ、時の政府がエオルゼア側まで追跡することは不可能なので、やり方次第だと思っている。
長谷部のほうから、ガン、と音がして机が揺れた。足をぶつけたらしい。
松井が笑いをかみ殺しながら言う。
「それは、暴動が起きそうだからやめよう。僕もちょっと妬けるしね」
「豊前は江派だよ」
「うん、そうなんだけどそっちじゃないと言うか」
豊前コブラン切江などになったら間抜けな気がするのでやめておこう。
おかしそうな松井を見て、澄まし顔の長谷部を見て、豊前の爽やかな笑顔を思い浮かべる。
逸話無し、所在不明。豊前は、江派というだけで本丸につなぎ留められている。
続