褒めの勢いに自信がある

「ここだな」
「可愛いところだね」

 万屋街にあるカフェの前に立つ。単なるカフェというよりはティールームらしく、本格的なアフタヌーンティーが楽しめると聞いている。情報源は、待ち合わせ相手である通草だ。最初は演練終わりにお茶をしようという話だったが「演練しなくてもお茶したらいいのでは」という通草のひらめきにより、ティータイムを過ごすことになったのだった。
 通草から、先に席についているという連絡は受けている。鶴丸がガラス戸を開けてくれるので、礼を言って入店した。
ドレープの美しいカーテン、花柄の壁紙、白いテーブルにパステルカラーのソファ。上品でかわいらしい装飾の店だ。
 店員に待ち合わせだと告げると、通草のいるテーブルに案内される。通草はすぐこちらに気付いて手を振ってきた。通草の隣の鶴丸国永も片手を上げている。

「夜杓ちゃん! こっち!」
「こんにちは、通草。通草の鶴丸も」

 護衛刀を鶴丸に、というのは通草のリクエストだった。他本丸の鳥刀も見たい、夜杓ちゃんが白いから鶴丸にしよう、とハイテンションで決まった。
 お互いの鶴丸も含めて軽く挨拶をし、席に着く。わたしと通草はアフタヌーンティーセット、二振の鶴丸はケーキとドリンクのセットを頼んだ。わたしの鶴丸は注文に悩んでいたが、通草の鶴丸に勧められるまま決めていた。通草のお気に入りの店で、通草の刀剣男士も慣れているらしい。
 わたしは通草の鶴丸を見た。演練や万屋街で見かけることがあるとはいえ、<同位体>が並んでいるのをじっくり見る機会はない。わたしが見ていることに気付くと、悪戯っぽく笑いかけてくる。なんとなくだが、柔らかく陽気な印象を受けた。
 通草がわたしや鶴丸たちを見回す。

「はあ、鳥が三羽……幸せ」
「二振とひとりだけどね」
「夜杓ちゃんも、夜杓ちゃんの鶴丸さんも、わたしのわがままを聞いてくれてありがとう」
「こんなのわがままに入らないよ」
「おかげで俺は主と出かけられているんだ、礼を言うのはこっちだぜ」
 
 通草が無言で携帯端末を取り出し、そっと自撮りをする。三羽に囲まれた記念だろうか。

「個体差を感じるの好きだんだ、わたし」

 通草は二振の鶴丸を見て言う。通草の鶴丸には驚いた様子がない。

「きみは好きだなあ、それ。俺も、俺自身がきみの刀だと実感できて悪くないが」
「そうでしょ? 審神者によって微妙に変わるからね。夜杓ちゃんは?」
「わたしは同位体を並べるような友達がいないから、今初めて個体差というのを実感してるよ」
「な、なんかごめんね……でも審神者研修で自然と友達出来ない? 定期的に交流会もあるし」
「通いの関係で、オンラインで済ませてもらってるんだ」
「弊害だね……」

 通草の視線が一瞬泳ぎ、軽く手を叩いて鶴丸たちを示す。急いで話題を変えねばと思ったのだろう。
 示された鶴丸の反応もそれぞれで異なっていた。わたしの鶴丸は微笑んで首を傾け、通草の鶴丸は頬杖をついて愛嬌のある笑みを浮かべている。

「どう? 個体差。面白いでしょ」
「そうだね。鶴丸国永ってこういう感じだと思ってたけど、通草の鶴丸はわたしのより人懐っこい感じがする」
「主、俺はとっつくにくいのか」
「そういう訳じゃないよ」
「確かに、夜杓ちゃんの鶴丸さんって落とし穴とか掘らなさそう」
「鶴丸って落とし穴掘るの……?」

 思わず通草の鶴丸を見る。「いやあ」と何故か照れ笑いを浮かべて、通草に小突かれていた。

「鶴丸ってさ、刺激を求めるでしょう。だから落とし穴を掘る個体が多い」
「刺激を求めているのは分かるんだけど落とし穴……鶴丸は掘ってないよね」
「掘ってないな。俺が落とし穴を掘りがちってのは聞いてるが……」

 鶴丸が思案気にする。

「ただ俺の場合は、主に頻繁に驚かされているからな。穴を掘らなくても俺は驚かされるし、穴を掘ったくらいじゃ主を驚かせない」
「鶴丸さんにここまで言わせるなんて……夜杓ちゃん何してるの?」
「手品みたいな……」

 通草が身を乗り出し、通草の鶴丸が目を輝かせている。あまり追及されるわけにはいかないので、わたしは携帯端末を取り出して以前鶴丸に驚かされた写真を見せた。

「鶴丸はこういう驚きをくれる」

 ひとつのシャインアップルの写真だ。彼らは林檎と呼ぶ果物。丸ままのそれの側面に白いバラが咲いている。一部だけきれいに皮を剥き、中の白い果肉をバラ模様に彫っているのである。
 通草がきゃあと食い入るように見つめ、通草の鶴丸も感心したような声を出す。

「フルーツカービングっていうんだって。わたし料理は好きだけど、こういうのはやったことがないから驚いた」
「食材に対する器用さは主譲りだな」

 鶴丸が誇らしげに言う。このシャインアップル以降食材の飾り切りが流行ったが、フルーツカービングにおいては鶴丸の腕が飛び抜けている。
 通草たちが写真をみたまま言葉を交わす。

「そっちの俺、すごい雅じゃないか……」
「鶴丸も出来る?」
「無茶言うなよ。俺は不器用だぜ」
「お待たせしましたぁ」

 店員がアフタヌーンティーセットのハイティースタンドをわたしと通草の前に置く。ティーポットとカップも置いてから、三層になっているそれの各プレートの説明を始めた。丁寧に料理の説明があるとつい聞き入ってしまう。説明が無ければ勝手に材料や調理法を想像する。店員は一旦下がったものの、すぐに鶴丸たちのケーキセットも運んできた。
 ごゆっくりどうぞ、と一礼して下がる。
 ハイティースタンドは一番下がサンドイッチ、真ん中がスコーンとオムレツ、一番上にケーキとフルーツとババロアという布陣だった。ドリンクは、わたしがキーマン、通草がロイヤルルイボスティー。鶴丸の前に置かれたプレートには、フルーツ、アイス、クリームブリュレ、イチゴタルトが乗っている。ドリンクは、わたしの鶴丸がヌワラエリヤ、通草の鶴丸がウバ。ドリンクに関しては、わたし含めて通草以外の面々は適当である。
 せっかくなので携帯端末で写真を撮ってから、一番下のプレートを出してティータイムを開始する。

「そんなに素敵な驚きを提供されたら、うっかりときめいちゃうよね。刀剣男士ってなまじ外見のレベルが高いし……」
「俺もふるーつかーびんぐとやらをやったら、主に惚れ直してもらえるかい?」
「それで指を切らないでね」
「約束できない」

 通草と通草の鶴丸が笑う。刀剣男士は料理包丁を含めて刃物の扱いは一流だが、だからといって器用だとは限らない。通草の鶴丸は、自己申告通り不器用なのだろう。
 鶴丸に、フルーツカービングのコツがあるなら通草たちに伝授するのはどうかと提案しようと隣を見ると、鶴丸はアイススプーンを咥えてこちらを見ていた。

「サンドイッチ食べる?」
「いや、そうじゃなくて。主は俺たちの見目を褒める言動をしたことがないのでは、と思った。通草殿、やはり人間から見て俺たちは見目麗しいよな?」
「麗しいよ。俗っぽく言うならイケメンばっかり。さすが神様って感じの美しさ。……夜杓ちゃんにはそういう意識がないの? 今までどんな環境で育ってきたの?」

 対面から信じられないという視線を向けられ、隣からも凝視される。

「外見をどうのこうの言うことを良く思わない文化もあるから。こちらが褒めているつもりでも、そう受け取られない場合があるでしょう。きれいだなとは、ちゃんと思ってるよ」
「そういう考え方もあるんだ……勉強になった。夜杓ちゃんって視野が広いよね」
「色んな考え方に囲まれて育ったし、色んな国に行くからね」

 冒険者として飛び回る以前に、遊牧民時代から他文化に触れる機会は多かった。アウラ・ゼラの五一の部族はそれぞれで独自の文化を築いていることがほとんどなのだ。わたしの一族は神託に生きているし、自らを神の子孫とする一族もあるし、赤ん坊が誰の魂を引き継いでいるか見抜き同じ扱いをする一族もいる。己の常識が通用しないことなど多々あり、相手の文化への尊重も必要だ。不快に思わせる可能性がある言動は、極力控えている。
 わたしの脳裏に、ぼろ布を被った刀剣男士がよぎった。

「それに、山姥切国広が外見への言葉を嫌っているように思ったから。刀剣男士にはやはり言わないほうがいいと思ったんだ」
「あはは。まんばちゃんのは、写しに対するコンプレックスが一〇〇パーセントで、外見への褒め言葉を嫌ってるわけではないよ」
「そうなんだ」

 通草の鶴丸が笑いながら頬杖をつく。

「うちのまんばなんて主からずっと『その美しい顔が癒しになる』って言われ続けたせいで、今じゃ主が疲れた頃に顔を見せにくるもんな」
「嫌がられても言い続けた甲斐があったよ。鶴丸、頬杖だめ」

 スコーンをかじりながら考える。外見への褒め言葉がきちんと褒め言葉として機能するならば、むしろ口にしたほうが良い可能性すらあるのではないだろうか。以前加州や三日月に言われた「可愛い」という言葉も、弱い人間が可愛いという神様視点のものではなく外見的な意味も含まれていたのかもしれない。
 より恥ずかしい。
 思い出して動揺しそうだったので、試しに鶴丸に向き直った。

「ん、主どうした?」
「わたしは鶴丸のことを、かっこよくて美しいと思っているよ。外見ばかり言うのもなんだけど、わたしは自分が黒……ううん、色が濃いせいもあって、鶴丸みたいに白くてきれいなひとに目が行きがちなんだ。わたしは職業柄、強いひとも好きだからそれもあって、」
「待ってくれ」

 鶴丸がわたしの肩を押さえてうつむく。鶴丸から散った桜がプレートに積もるが、霊力が可視化しているだけなので問題無いだろう。
 
「嫌だった?」
「嬉しいんだが、主はアクセルの踏み方が急なんだ。豊前のことを思い出してくれ」
「刀心は難しい」
「刀じゃなくたって、急にフルスロットルで褒められたらこうなるさ」
「じゃあ、目的は達成しているね」
「そうだな……見世物じゃないぞ、俺」

 鶴丸が通草の鶴丸に言う。通草の鶴丸はイチゴタルトを食べながら、にまにまと口元を緩めていた。通草も表情筋がこれでもかというほど緩んでいる。

「そんな風に言われたら嬉しいよな、分かるぜ。夜叉柄杓殿、ぜひこれからも褒めてやってくれ。俺たちは、どんな形であれ主に褒められたり必要とされることが何より嬉しいんだ」
「分かった、任せて」

 わたしはありがたいアドバイスにしっかりと頷いた。外見的な褒め言葉も、これからしっかり口に出していこう。返り討ちに遭うかもしれないので、そこの加減は難しいが。
 隣から大きなため息が聞こえて、気を取り直した鶴丸がフォークを握っていた。未だ桜は止まっておらず、横目でわたしを見る顔は照れ臭さと悔しさがにじんでいた。


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