晩御飯時に、今剣から飲み会に誘われた。今夜、不定期開催の平安刀飲み会があるらしい。わたしがいないほうが盛り上がるのではと一瞬思ったが、交流したい気持ちが勝って参加を決めた。喜ぶ今剣に頬が緩むが、今剣が結構な酒豪であることは知っている。
食事の片付けを終え、今剣と手を繋いで離れを歩く。向かったのは、三条の部屋が固まっているフロアの談話室だ。今剣いわく、平安刀のどこからどこまでの参加かは行ってみないと分からないらしい。酒やツマミは大きい者が先に運んでいるということで手ぶらだ。
今剣が元気よく談話室の障子を開けた。
「あるじさまを おつれしましたよー!」
談話室の大きなテーブルを六振が囲っていた。はやめに食事を終わらせて飲んでいたのだろう、既に酒の匂いがしている。テレビがついており、なにがしかのバラエティ番組というものが流れていたが誰も見ていなかった。
今剣に手を引かれるまま、わたしもテーブルにつく。
わたしの位置から時計回りに、三日月、鶴丸、鶯丸、大包平、髭切、膝丸、そしてわたしの右隣に今剣。今剣に誘われたのでてっきり三条派が多いのかと思いきや、そうでもないようだ。
「あるじさま、なにを のまれますか? ビール、にほんしゅ、ウイスキー、あとうめしゅなんかもありますよ」
「今剣と同じのがいいな」
「では、くへいじ ですね! ぼくのおきにいりです。薄緑、グラスをふたつとってください」
今剣が<九平次>とラベルされた瓶を持ち、膝丸から受け取ったグラスに注いでくれる。テーブルを見回すと、お猪口を使っている刀剣男士はいなかった。以前の宴会での「お猪口にいちいち注ぐのがかったるい」という次郎太刀の言葉が蘇る。わたしもお猪口の扱いには慣れていないので、グラスのほうが助かる。
みんな乾杯してくれるのでグラスを軽くあわせた。
「珍しく年齢が下がったな」
すこし頬の赤い鶯丸が、手酌をしながら言う。ラベルが見えないので銘柄は不明だ。鶯丸の前にはビール缶があるので、頬の赤みにも納得である。
鶯丸のコメントには三日月が返した。
「普段は四桁越えのじじいばかりだからなあ」
「おい、そのじじい呼ばわりに俺を加えないでくれ」
「全くだ」
三日月の大雑把な表現に、鶴丸と大包平が抗議する。
「事実だろう。人間の主からすれば、年寄りどころか先祖だぞ」
「……」
「……」
「なあ、主」
「同意を求められても」
今剣がテーブル中央のスルメを引き寄せるので一緒にもらう。柔らかい燻製イカだ。今剣はグラスを両手で持って、わたしにぴったり寄り添ってくる。
「みにくいあらそいは おやめなさい。ぼくのように ねんれいがかんけいなくなるほどかわいらしいみめの とうけんだんしでないことを うらむのですね」
「グラスに日本酒を波々注いで言われても可愛げないぞ」
「ごじょうのぼうや、ひがまないでください」
「坊やっていうな」
「ちゅうもんがおおい じじいですね」
今剣も気のおけない古くからの仲間の前ではなかなか辛口になるらしい。無邪気な印象が強いものの、時折平安刀らしい老成した物言いを知っているのであまり驚かないが、思ったより同胞に遠慮がなく笑ってしまった。
こちらも普段より脱力している鶴丸が今剣を見据える。
「主は横にいるぞ。猫かぶらなくていいのか」
「あるじさま、つるまるがいじめてきます」
「今剣はかわいくてかっこいいよ」
「ふふん!」
「平安刀飲みって面白いね」
「まだはじまったばかりですよ」
しかし「じじい」呼びが不服なのは鶴丸や大包平だけではなく膝丸もそうらしかった。先程から複雑そうな表情で枝豆を食べている。受け入れているのは三日月と鶯丸だけのようだ。髭切は特に何も思っていないような顔でグラスを傾けている。おそらくウイスキー。
千年以上存在している――刀剣男士になる前から自我があったかどうかはわからないが――者たちと酒を共にするというのは、冷静に考えると嘘のような話である。刀剣男士はみな数百歳の歴史を持っているので今更といえばそうなのだが、それがあまりに日常すぎて慣れてしまっていた。
「わたしはこの世界の歴史をよく知らないけど、千年前ならではの話とかある?」
何気なく問いかけてみると、三日月から時計回りに聞き慣れない文化が上げられる。
「色恋沙汰ですぐ人が死ぬな」
「女性は家から出られなかった」
「起床は午前三時だな」
「爪切りも占いに左右される」
「和歌が詠めたらどうとでもなったよね」
「魑魅魍魎は珍しくなかった」
「いきりょうが ひとをのろいころす というのもよくききました」
平安時代というものは、物騒かつ縛りが多いようだ。千年も経てば、常識もまるっきり違うだろう。御伽噺に近い。
七振がお互いの言葉に「あー」と納得をしながらああだったこうだったと掘り下げていくのを話半分に聞きながら酒を飲み進めた。わたしは何でもそれなりに飲めるので、アルコールの回り始めた頭で次はなにをもらおうかと考える。
「みんな千歳以上か」
何か思うところがあったわけではなく、思考がそのまま口に出た。刀剣男士の中でも年数を重ねているんだなあと、ただそれだけだ。
わたしの呟きを拾った三日月が頷く。
「うむ、そうだ。じじいだ」
「そうは思っていないけど……ああ、でも、そうだね」
わたしは、常にわたしとともにいる仲間を思い浮かべた。見えないだけでわたしにずっとついてきているので、本丸のことも知っている。ただ、これは大事なことだが、常に聴覚やら視覚やらで世界を把握しているのではないため、シャワーをのぞかれたりということはない。のぞかれてもなにも思わない気もするが。
わたしは彼を<おじいちゃん>と呼んでいるが、そう呼ぶきっかけが<千年を優に超えて存在していること>だったと思い出したのだ。
中途半端なところで言葉を切ったので、三日月が先を促すように見つめてくる。
「<おじいちゃん>と呼んでいる仲間がいるんだけど、そう呼び始めた理由に<千歳以上だから>というのがあったなと思った」
「おお、我らと同年代の人間がいるとは」
「人間ではなくて、龍なんだ。千年前にはすでに大変なことになっていたから、それをはるかに上回って生きているんだと思う」
「龍とな!」
「ウイスキーってどこ? あと炭酸ある?」
<響>と<白州>というラベルの瓶、炭酸水が並べられる。何となしに<響>を取った。
三日月の反応で平安トークを切り上げたらしい六振の視線がわたしに向く。この世界では、龍が空想上の生き物にすぎないことは知っているので、みんなの興味を誘っても驚かなかった。
髭切がにっこり笑う。
「悪い龍なんだったら斬ろうか?」
「大事な仲間だから駄目だよ」
「龍切って名前もかっこいいよね」
「兄者、主の仲間を斬ってはならんぞ」
目を輝かせている鶴丸が身を乗り出す。
「それはどんな姿なんだ? やはり大きいのか?」
「姿か。こっちの端末はエオルゼアに持ち出し出来なくて写真は撮れないし、わたしは絵が上手でもないし……。ドラゴンとしては中型種、大きいよ」
「主の世界は本当に驚きに満ちているな。いつか行きたいものだ」
「それほどの大物を斬り伏せるのならば、この俺こそが相応しい!」
大包平が力強く主張する。隣に座る鶯丸が「斬らんぞ」と冷静に突っ込みを入れた。
続