わたしは、心の中で彼に語りかけてみた。彼の使う龍語は人間には理解できないため、言葉ではなくイメージを伝えあって意思疎通をはかっている。絵画を見せあっている状態だろうか。
「出てくる?」と問うと【その必要性を感じぬ】とそっけない返答がされた。エオルゼア側世界ではよく背中に乗せてくれるが、本丸で姿を表す気はないらしい。ドラゴンの姿は厳しく神々しいのできっと刀剣男士からも好かれると思うのだが、無理強いはすまい。
「聞いたけど、出てこないみたい」
「あるじさま、それはつまり りゅうはいま このばにいるのですか?」
「いる、かな。常にわたしのそばにいるよ」
「あるじさまのおそばに……」
すっと目を細めた今剣の肩を膝丸が叩く。
「落ち着け。相手は俺たちより歳を重ねた龍だぞ。むやみに睨むな」
「いつもつねに あるじさまのおそばになんて うらやましいです」
「むしろ、エオルゼア側世界で苦労が多いらしい主のそばに龍が控えているのは、家臣としては安堵すべきことだろう」
「そうですけど」
彼は基本的に傍観しているのであって決して守護ではないのだが、認識を訂正するとまた話がこじれそうなので飲み込んだ。
鶴丸が恋する乙女のようなため息をつき、鶯丸が会話に乗る。
「龍がそばにいるというなら、より一層お目にかかりたいもんだぜ」
「大倶利伽羅と仲良くなったりするのだろうか」
「伽羅坊もその身に龍を宿しているもんな」
「なあ主、その龍は大倶利伽羅のことをどう思っているんだ?」
わたしが改めて彼に問わずとも、【知らぬ】と返事があった。
「知らないって」
「つれないなあ」
「同じ四桁同士、もっと仲良くなりたいものだな」
彼がため息をついた感覚があった。【よく喋る元気な鋼だな】呆れたような感心したような気配がする。子どもを見守る親のような言い方に、わたしはウイスキーを飲みながら笑った。桁違いの最年少であるわたしが笑うのも滑稽だ。
飲みながら笑ったせいで軽くむせると、三日月と今剣が両サイドから背中をさすってくれる。
「なにやら楽しそうだな、主よ」
「うん、楽しいよ。彼がね、鶯丸と鶴丸のことを『よく喋る元気な鋼だな』って言うものだから。顔を見せたらいいのに」
「りゅうは ひとみしり なのですか?」
「クールなんだ。テリトリーを出ている事自体が稀有なことだからね」
「なぜあるじさまに ついてきているのですか?」
「色々あって」
語るには長いので、膝丸の前にある皿から枝豆をもらって食べる。塩が利いていておいしい。
今剣と膝丸を挟んで、髭切がテーブルに顔をつけて見上げてきた。こころなしかしょんぼりしている。
「主から見て、僕らはやはりじじいなのかな」
「そうは思っていないよ」
「でも、千年と聞いて<おじいちゃん>なんだろう?」
「……」
親しみを込めて<おじいちゃん>と呼んでいるが年寄り扱いはしていない――しかし、鶴丸や大包平や髭切が気にしているのは、年寄り扱いではなく<おじいちゃん>というラベルが貼られること自体だろう。
気の利いたフォローが思い浮かばない。黙ってしまうと、三日月がわたしの顔をのぞきこんだ。
「主、俺を褒めてくれ」
「急だね。綺麗で強くてかっこいいよ」
「はっはっは。じじいでもこんなに主に褒めてもらえるのだ、俺は嬉しいぞ」
「僕が話してたんだけど」
髭切がグラスを置いてわたしと今剣の間に割り込む。今剣が「ちょっと!」と睨んでもどこ吹く風だ。距離ゼロで隣に座った髭切は、間近でわたしを見つめてくる。顔色は変わっていないが、妙に力の入っていない様子からしてしっかり酔っていそうだ。
髭切からの視線の圧が強い。言葉ではなく目で訴えかけてくる。
「……わたしの大事な刀、いつもたくさん斬ってくれてありがとう」
頭を撫でながら言うと、髭切が満足そうに笑う。
「うん、うん。ふふふ、何でも斬っちゃうよ。何かあったらすぐに、この僕を、呼ぶといい」
髭切が笑顔で答えた途端、膝丸以外から声が上がる。酔った頭では酔っ払いの一斉の声をうまく聞き取れなかったが、髭切の、自分を売り込む言葉に反応しているようだった。切れ味自慢が始まっている。刀時代の話なので非常に血なまぐさい。誰の声だか分からなかったが「髭切酔った振りやめろ」という言葉も混ざっていた。
どの刀がどうというわけではなく全員のことを自分の刀として信頼している、と伝えてみてもうまく届かない。普通、刀を佩くとすれば一振だ、ただ一振になりたいという気持ちが根底にあるのかもしれない。
彼の【鋼に好かれても大変だな】という声がする。
わたしは、体躯の小柄さを利用してわたしの膝に収まっている今剣を撫でながら混沌の中で口を開いた。
「一振ずつ佩いて巻藁を斬る会でもしようか」
「だめです」
わたしなりの刀剣男士たちに信頼を示す最上級はあっけなく却下され、全酔っ払いが静かになった。