やらかした、と思って意識が途切れたことを覚えている。目を開けたら、意識が途切れる前の戦場に倒れており、未だ戦闘は続いていた。戦闘真っ最中の小隊部下たちから心配の声を掛けられ、それに叫ぶように返答してからわたしも戦闘に復帰した。
戦い始めてすぐ、リンクパール通信が着信を知らせてくる。しかし、複数人での戦闘行動中に応答する余裕はなく、しばらく放置せざるを得なかった。着信は途切れることなく続いているので何か急を要する事態の連絡だとは察せられるが、どうしようもなかった。
戦闘がひと段落し、小隊員にことわって通信に出る。
『さ、審神者様! 審神者様ぁ!』
泣きじゃくるこんちゃんの声が頭に響く。今ゆっくり話をすることが難しいと伝えたかったが、ただ事ではない鳴き声を無視することは出来なかった。
「こんちゃん、どうしたの」
『こんのすけは、こんのすけは、心配いたしました! 審神者様に何があったのかと……! 本丸中も大騒ぎです! ご無事なのですね?!』
「ああ、生きてるよ」
『ああああ』
本丸で事件ではなくわたしのことらしいとやや安堵し、そしてこんちゃんの取り乱し方にも納得した。
わたしは頭を抱えた。これはわたしが百悪い。わたしにしか非がない。
「落ち着いたらちゃんと帰るから、待ってて」
号泣するこんちゃんを放っておくのは心が痛むが、こちらも作戦行動中だ。謝りながら通信を終えて、小隊員に合流した。
一流の魔術師が使える魔術の中に、蘇生魔術というものがある。ただし言葉通りの死者蘇生が有効なのは、肉体が死んでもハイデリンの元に魂が留まる光の戦士と呼ばれる者たちだけだ――と、されているが、ハイデリンの存在そのものが未だ謎に満ちているため、真偽は定かでない。
光の戦士は、魂がエーテルに還るまでという時間制限はあるものの、優れた魔術師が近くにいれば死んだとしても何度でも蘇る。一般人相手であれば、損壊した遺体を修復して遺族の元に返すために使われる。
わたしは治癒魔術を専門に活動しているので、この蘇生魔術も当然使える。そして光の戦士でもあり、仲間は優れた者たちばかりなので、死んでもすぐに蘇生してもらえる。だからといって自分を粗末にはしないものの、何度か死は経験していた。
こんちゃんの号泣通信がそれによるものだとはすぐに気付いた。先日怒りの波動が伝染したくらいだ、一時とはいえわたしが死んだらそれも伝わってしまうのだろう。わたしの霊力が途切れた上にすぐ通信が繋がらず、本丸がパニックになったということだ。
危険地帯から安全な場所に戻り、後処理を仲間に任せて都市エーテライトに向かった。はやく無事な姿を見せ、蘇生魔術についても説明をしておかなければ。こちらの世界での冒険をより心配されそうだ。 無事な姿を。そう思い、わたしは腹をくくってチキンスーツ投影を全て外した状態でテレポートを開始した。
エーテル界に溶けていた体が再び空気を感じたと同時に、腹部に衝撃があった。
「審神者さま゛ぁ!」
こんちゃんの突進を抱きとめ、そして体が温かいものに包まれる。左右から挟むようにきつく抱きしめられたようだった。刀剣男士にしては珍しく力の遠慮が控えめで骨がきしんだのではと思ったが、甘んじて受ける。
一瞬誰だか分からなかったが、彼がお気に入りだと言っていたコンディショナーのかおりがして気付いた。右側に立ってわたしの肩に顔を埋めているのは加州。左側は背が高かったので顔を伏せていても誰かが分かった。豊前だ。眉間にしわを寄せて唇を噛んでいる表情は痛々しく、刀剣男士たちからの心配をひしひしと感じる。
こんちゃんを抱いており、かつ左右から挟まれて動けなかったが、エーテライト回りには刀剣男士たちが押しかけていた。加州や豊前を含めて全員が戦装束で、いかに彼らが焦っていたのかが伝わる。
みんながわたしの帰城を待つ中で、わたしの素顔を知っているさんにんがいち早く反応したのだろう。 こんちゃんの嗚咽に混じって、加州の嗚咽も聞こえた。
「心配をかけてごめん、ただいま」
「あるじ、しんじゃったかとおもった」
「生きているよ」
抱き返せないので加州と豊前に笑顔を向けてから、集まっている刀剣男士たちに気まずい笑みを向ける。角は刀剣男士で見慣れているかもしれないが、肌の色や尻尾は珍しいだろう。わたしも今更は気恥ずかしい。
「この姿では初めてだね。主です。こっちの世界の人間とは姿が違うけど、こういう種族の人間なんだ。心配をかけてごめ、」
言い終わらない内に、短刀から刀剣男士が押し寄せる。こんのすけと加州と豊前ばかりするいと泣きながら言い、代わる代わるに生存確認ハグを求められた。
短刀の中で一番号泣しているのは秋田だった。しゃくりあげて泣きながら、粟田口兄弟たちに背中を擦られている。
「しゅくん、しゅくんんん゛」
「主君だよ、生きているよ」
呼吸が怪しいので過呼吸になるのではと心配になるが、薬研がついているので大丈夫だろう。
徐々に体の大きな刀剣男士たちに生存確認をされる。笑顔で背中を叩いてきたり、涙をこらえていたりと反応は様々だ。言葉は違えど、みんながわたしの生死を本当に心配しており心が痛む。
何かしらの感情を表す刀剣男士の中で、唯一真顔の鶴丸が歩み寄ってくる。怒っているようにも見えず、無だった。表情豊かな燭台切の次にやってきたので余計にそう感じたのかもしれない。
鶴丸はわたしの両手をとって握り、少し屈んでおでこを合わせてくる。わたしの手を握り込む力は強く、声は震えていた。
「こういう驚きはいらない……きみが墓に入るときは、俺も一緒に埋めてくれ」
持ち主とともに埋葬されたという鶴丸の逸話が頭を過る。刀時代は自分の意志表示が出来ず人間による埋葬だったとはいえ、鶴丸にとって共に墓に入るというのはそれだけ入れ込んでいる証なのだろう。 わたしの死後について要望を出されたのは初めてだったので、驚きつつ、どこか嬉しくなりつつ頷いた。
しかしわたしは良くても、他の刀剣男士から声が上がる。中でも勢いがあったのは加州だった。鶴丸をわたしから引き離し「俺を差し置いて主と黄泉を散歩するの止めてくれる?!」と死後を満喫する気満々の言葉を投げていた。
それをきっかけにして、エーテライト前広場の緊張が緩み、午後らしい朗らかさが戻る。わたしの死後旅行プランが飛び交い始めたところで、わたしも笑いながら声を上げた。
「死んでも一緒にいてくれるみたいで嬉しいよ。でも今は、ひとまず大広間に集まってくれるかな。何があったのか、ちゃんと説明する」
そう呼びかけると、刀剣男士がぞろぞろと山を下り始める。わたしもこんちゃんを肩にのせ秋田を抱っこして続いていると、自然と長谷部が隣に並んだ。長谷部はこんちゃんと秋田を交互に見て、こんちゃんを引き取った。
長谷部も例に漏れず戦装束だ。こんちゃんの涙で汚れるストラに顔をしかめていた。
「長谷部、どんな感じだったの」
「……エオルゼア側に行かれていても感じられた、主との繋がりが突然途切れました。およそ一分ほど、主はこの世のどこにもありませんでした」
「……」
「主の存在を感じられるようになってからも、不安は拭えませんでした。御神刀たちが疑わずに死を認めるほどでしたから。こんのすけが即座にリンクパールでの通信を試みたものの十数分応答がなく、本丸は大変な騒ぎで……主からの応答があるまで、俺は生きた心地がしませんでしたよ」
「心配してくれてありがとう」
「一体何が……というのは、主からのご説明を待ちます。今は本当に大丈夫なのですよね?」
今はなんの問題もないが、確実に一回死んでいることと今後も死ぬだろうことを踏まえると、頷き方は斜めになった。
長谷部の表情が晴れないので、わたしは些細な頼みで心配を逸らすことを試みた。
「ただ、急いでこちらに来たから喉が渇いたな。屋敷についたら、温かいお茶を淹れてくれる?」
「もちろんです。いくらでもお淹れします」
無理をしていることが分かる顔で長谷部が微笑む。茶葉の種類も聞かれたので、長谷部が飲みたいものでと答えた。