Side加州
佐竹にも連絡を取ってくる、と主がこんのすけと長谷部と松井とともに執務室へ移動する。連絡のためだけではなく、混乱する刀剣男士たちに時間を与えたようにも受け取れた。
加州は、主の姿が見えなくなると背中を丸めて畳に手をついた。加州だけではなく、大広間全体の空気が緩んでいる。しかし明るいものではなく困惑気味で、あちこちでざわついていた。主の生存を喜ぶばかりではいられない。
加州でさえ、未だ折れたことはない。折れてしまえば存在できないので当然なのだが、主は死を乗り越えている。戦場に赴く刀剣男士の加州ですら体験したことのない痛みを、主は何度も経験しているのだ。
主は既に何度も死んでおり、これからもきっと死ぬ。加州たちには主の盾になるチャンスすら与えられず、関われない場所で死んでしまう。いくら主が戦うひととはいえ、治癒魔術もあるのだから死とは遠い場所にいると思いこんでいた。そんなにもエオルゼア側世界での生活が過酷だとは、思いもしなかった。
畳に視線を落として呆然としていると影が差し、秋田が首に腕を回して抱きついてきた。ぐず、と鼻をすする音がする。
「加州さん」
「……ん」
「僕、辛いです」
「俺も。主が、何度も死ぬほど苦しんで戦っているなんて」
「でも、主君に……主君に、冒険者を辞めて本丸で暮らしてほしいって、言えませんでした」
加州も体を起こして秋田を抱きしめた。
本丸発足当初、初期刀の加州と初鍛刀の秋田は主の冒険について少しだけ聞いていた。国々を繋いだり、戦争に勝ったり、歴史を覆したり。主がそれら全ての出来事を大切に記憶し、誇りを持って活動していることが伝わった。強い光を背負っているゆえに巻き込まれていくのだとも察した。複雑な感情から妙な表情をしてしまったためそれ以降主はエオルゼア側世界の話を控えたが、最初は明るい声で教えてくれていた。
秋田の気持ちは痛いほど分かった。加州とて、主には危険を冒してほしくない。叶うなら本丸で安全に、刀剣男士が駆けつけられる場所にいてほしい。しかし、主の生きる道を奪うことは出来ないとも分かっている。どれだけ苦しくても、良き家臣として主を主の世界に送り出さなければならない。
「主さ、死んでるってことを何でもないような顔で言うんだ。俺たちに申し訳なさそうにしながら、でも当たり前のことみたいに」
「はい」
「きっと怖いだろうに。戦いに行くのも、死と隣り合わせなのも。死ぬのだって、辛くて痛いはずなのに」
「っはい」
「せめて……せめて、守らせてくんないかなぁ」
刀剣男士がエオルゼア側世界に行くことについては、既に検討された上で却下されている。本来であれば、審神者の本丸外行動には護衛が必須でありむしろ歓迎されるべきことなのだが、異世界となれば話が違ってくる。主は冗談の一環で「刀剣男士で魔物を斬る」というようなことを口にするが、決して本気ではないだろう。異文化からの/異文化への影響について、政府は非常に慎重だ。主が携帯端末をエオルゼア側世界に持ち込めないのも同じ理由である。
痛みを持って死んで、生き返って戦い続ける。人間にとってそれがどれほどの負担になるのか。主は、こころを壊したりしないだろうか。
主のことは信じている。信じているが。これほど衝撃的な事実を聞かされて、冷静でいられる刀剣男士などいるのだろうか。
加州は顔を上げて周囲を見た。刀剣男士の数は、徐々に大広間から減っている。出陣も遠征も演練も中止されている、今日の残り時間はそれぞれ思い思いに過ごすのだろう。再び主のもとに行く者もいるかもしれない。
自分も主と話そうかと考えたものの、腰が上げられなかった。顔を合わせたら、冒険に行かないでくれと口が滑って主を困らせそうな気がした。
加州の肩に顔を埋めていた秋田が、はっと加州を見る。
「主君にも、お守りを持っていただけないでしょうか」
「お守りって……刀剣破壊を防ぐアレ? 刀剣男士にしか効果はないんじゃ」
「僕たちが作るんです。僕たちって末席とは言え神なんですから、願いを込めたら少しくらいは主君を守れるんじゃないでしょうか」
思いもよらない提案がされて目を瞬く。
「……やってみよう」
「はい!」
「よーし、まずは御神刀たちに相談だ!」
「おー!」
主が願いを込めてお守りを持たせてくれているように、自分たちも、願いを込めてお守りを作る。今いる刀剣男士全員の願いを束ねれば、遠い異世界でも主を守ってくれるかもしれない。